「任せられるものは任せる」発想で、仕事はもっと自由になる

澤田秀雄,エイチ・アイ・エス,変なホテル
(画像=The 21 online)

ロボットや最先端テクノロジーをいち早く取り入れたホテルとして話題の「変なホテル」。ロボットやAIが働く未来の職場を見ているようだが、そこには単なる効率化・自動化だけではない、我々人間のこれからの働き方のヒントも大いに隠されている。「変なホテル」の仕掛け人であるエイチ・アイ・エス会長・澤田秀雄氏に、これからの働き方のヒントをうかがった。

生産性を考えた結果ロボットに行きついた

ロボットが接客するホテルとして話題の「変なホテル」が長崎のハウステンボスに誕生して2年半余り。現在営業中の4店に加え、今年中には全国で8店の開業が予定されている。閑散期でも稼働率80%を超えるという人気ホテルの仕掛け人がエイチ・アイ・エス会長であり、ハウステンボス社長の澤田秀雄氏だ。「変なホテル」はどう誕生したのだろうか。

「ハウステンボスには、『ホテルヨーロッパ』という五ツ星ホテルがあります。アムステルダムの老舗ホテルを再現した内装は、まるでヨーロッパにいるかのようで、サービスの質も高い。でも、あるとき、サービスの質が多少簡素化されても、安く泊まれるほうを喜ぶお客様もいるのではないかと思ったのです。

ホテルの運営コストで『人件費』は多くを占めています。そこで、少ない従業員でも営業できるようにするためにはどうすればよいか考えた結果、ロボットに行きついた。生産性の高いホテルの実現を考えた先にあったのが、ロボットが接客をするホテルだったのです」

現在、「変なホテル」に導入されているのは、チェックインや掃除、芝刈りなどの作業を担当するロボットが27種類、200体以上。その結果、人間の従業員は6~7人になったという。

「人間の従業員は、セキュリティのためにバックヤードに一人常駐するのみ。ただ、ホテルは24時間営業ですから、1日3交代と休暇も考えて6~7人でまわしています。部屋数が144あるハウステンボスのホテルの場合、通常は30人程度の従業員が必要であることを考えると、かなり生産性が高いですね」

不完全でもまず「やってみる」こと

20代で旅行会社を創業以来、航空業界、金融業界で結果を残してきた澤田氏がハウステンボスの再建に着手したのは今から8年前。数々の改革や新事業を試み、今では大きな収益を上げるビジネスへと成長した。

その新事業の一つが「変なホテル」だ。とはいえ、オープン当初から200体もの完璧なロボットがいたわけではない。

「最初から完璧を目指そうとすると、時間とコストがかかります。たとえば掃除ロボットでいえば、髪の毛の1本も落ちていないように細かく確認しながら掃除するのは、ロボットにはまだ難しい。だからといって完成形を待っているのは時間のムダです。

ビジネスにおいて何より重要なのはスピード感。ですから、100%は無理と割り切ってまずはスタートし、ロボットができない部分は人間が補いながら使って、問題があれば改良していけばいい。『変なホテル』とは、『変わり続けるホテル』『進化し続けるホテル』なのです」

とくに、チェックインのシステムは、この2年間で飛躍的な進化を遂げたという。

「オープン当初は、お客様にボタンを押してもらい、音声指示に従ってチェックインの手続きをしてもらっていました。次に、音声認識を導入し、マイクに向かって話しかけられるようにしました。

今は空中操作ディスプレイが導入されていて、目の前に浮かび上がるスクリーンの操作でチェックインが可能です。将来的には顔認証技術を使ったチェックインも実現できるよう、研究を続けているところです」

昨年11月には、無人でお酒を提供する「変なバー」がオープンした。

「飲み物の注文は、専用タブレットの映像に登場する『アヤ』というキャラクターと会話しながら行ないます。最初のうちはバックヤードのスタッフが受け答えしますが、そのやり取りをAIが学習することで、将来的にはAIがほとんど回答できるようになると考えています。これも最初からAIにすべて任せるのではなく、経験値を蓄積させて、徐々に代替部分を増やしていくのがいいですね」

いずれは完全にロボットだけの「無人ホテル」の実現も視野に入れているという。

「ホテルの展開を進めていき、将来的にはハウステンボス内にコントロールセンターを設置して、カメラを通して各ホテルを管理・コントロールできるようにしたいと考えています。お客様からの質問もコントロールセンターで受けるようにするため、完全に無人。ただし、何かあれば30分以内に人が駆けつけられるような態勢は整える必要があります。その環境さえあれば、ロボットだけのホテルも可能です。

今年は東京に『変なホテル』が5店舗開業予定です。そのうちの1店で、完全無人化の実験をしたいと考えています」

3年後には、AIが回答する時代がくる!?

将来は、高品質なサービスが求められる五ツ星ホテルを除いて、三ツ星や四ツ星のホテルはロボットに置き替わっていくだろうと澤田氏は予測する。そうしなければ、世界を相手にした競争に生き残れないからだ。

また、ホテル業界に限らず、あらゆる業界において、現在の人間の仕事をロボットやAIが代替することで、生産性はもっと上がっていくと話す。

「医者や弁護士などの仕事は、AIが代替できる典型的な例かもしれません。たとえばAIに過去の判例を学習させておけば、人間が調べるよりもはるかに正確に速く調べられるはずです。

旅行業である我々エイチ・アイ・エスも、AIを使った生産性向上の研究を始めています。店舗や予約センターのオペレーターに代わって、AIに回答させるという研究です。それでも一割から二割は人間が対応する必要があると思いますが、向こう3年くらいで、ほぼすべての質問にAIが回答する時代がくるのではないでしょうか。

この他、単純作業や重労働、情報のインプットでAIが学習できることに関しては、AIやロボットに置き替えられていくでしょう」

これから先、人間にしかできない仕事とは?

こうした変化に対して、「ロボットに仕事を取られてしまう」と不安に思う人もいるかもしれない。しかし、私たちは「仕事が減る」のではなく、「自由な時間が増える」と考えるべきだと澤田氏はアドバイスする。

「作業をするのが人間の役割ではありませんから、ロボットにできることはロボットにやってもらうのがいい。それによって、これまで8時間だった労働時間が3時間や4時間に減れば、余った時間で趣味を楽しむとか、エイチ・アイ・エスで旅行に行っていただくこともできます。楽しみながら視野を広げ、想像力を高めて、本来人間がやるべき創造的な仕事に活かしていくことができるのです」

AIやロボットが進化すれば、むしろ「人間の仕事はもっと増える」と澤田氏は指摘する。

「AIやロボットが肩代わりする仕事が増える一方で、新しい仕事が増えていくはずです。産業革命のときもそうでしたが、たとえば機械ができて、車ができると、馬車の仕事がなくなるのではと心配したかもしれません。

確かに馬車の仕事は減りましたが、その代わり、機械を製造する仕事や整備する仕事が新たに生まれた。現代でも、スマートフォンの分野で新たなビジネスと雇用が生まれていて、逆に人は足りないくらいです。

人間にしかできない仕事は、まだまだたくさんあります。それは、新しいことを考えたり、工夫したりする創造的な仕事です。単純作業はAIやロボットによって自動化が進んでも、人間にしかできない仕事は必ず残りますし、時代に合った仕事も増えていきます。ですから恐れる必要はまったくありません」

時代の変化に合わせて変わることを恐れるな

テクノロジーの進化が働き方に大きな影響を与えるようになった今の時代、私たちはどのような意識で働いていくとよいのだろうか。

「時代の変化に合わせて、働き方を変えていくことが大切。変えていかなければ、後れを取ることになります。

エイチ・アイ・エスでも、今いる何千人というオペレーターの仕事は、自動化されてなくなるかもしれません。しかし一方で、我々はホテル事業をはじめ新しい分野に事業を広げていて、そこに雇用が創出されます。『変なホテル』にしても、今年中に8店、3年前後で100店展開する予定です。すでにお話ししたとおり、当面は『変なホテル』にも従業員は必要。一つのホテルに6~7人として、100店のホテルを作れば600人、700人の雇用が新たに生まれます。

時代の変化に合わせて、企業も自分も変わることを恐れなければ、AIやロボットによる自動化が進んだとしても、何も心配することはないのです」

澤田秀雄(さわだ・ ひでお)エイチ・アイ・エス会長
1951年、大阪府生まれ。旧西ドイツ・マインツ大学留学後、80年にエイチ・アイ・エスの前身となるインターナショナルツアーズを設立。96年、スカイマークエアラインズ(現スカイマーク)を設立。その後、証券業などにも参入。2010年、ハウステンボス代表取締役社長に就任。開業から18年間赤字だったテーマパーク「ハウステンボス」の経営再建に着手し、翌年にはV字回復を成し遂げる。著書に、『運をつかむ技術』(小学館)など。(取材構成:前田はるみ 写真撮影:まるやゆういち)(『The 21 online』2018年3月号より)

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