金融政策の概要:政策金利を0.25%引き上げ、18年の政策金利見通しは維持
米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が3月20-21日(現地時間)に開催された。FRBは、市場の予想通り、政策金利の0.25%引き上げを決定した。バランスシート政策に変更はない。
今回発表された声明文では、景気の現状認識部分では、家計消費や民間設備投資の表現が若干下方修正された。一方、見通し部分では、FOMC参加者の成長率見通しが上方修正されたことと整合的に、経済見通しに関する表現が上方修正された。ガイダンス部分の変更はなかった。
今回の金融政策変更は、全会一致で決定された。
なお、今回発表されたFOMC参加者の見通しは、前回(12月)から成長率や失業率が上方修正されたほか、物価見通しについても若干上方修正された。また、政策金利の見通し(中央値)については、19年以降が小幅に上方修正されたものの、18年は年3回利上げで据え置きとなった。
金融政策の評価:今回は据え置かれたものの、年4回利上げの可能性が高まったと判断
政策金利の0.25%引き上げは当研究所の予想通り。また、最近の強い経済指標などを反映して、FOMC参加者の成長率や失業率、物価見通しが上方修正されたのも予想通りだった。しかしながら、政策金利見通しについては、当研究所は今回を含めて年内4回の利上げに上方修正されると予想していたため、年内3回の据え置きは予想外であった。
もっとも、FOMC会合後に行われた記者会見でパウエル議長は、中央値でみた政策金利見通しはあくまでFOMC参加者個人の見通しを集計した結果に過ぎないことや、年内3回と4回の見通しに大きな違いがなかったことに言及した。さらに、同議長は時間の経過とともに予想は変動するとしており、成長率や物価見通しが上方修正されている状況を考慮すれば、18年に年4回利上げされる可能性は高まっていると考えられる。このため、当研究所は18年に年4回利上げとの従来の見通しを維持する。
また、パウエル議長は、税制改革に伴い設備投資の増加や労働参加率の改善を通じて生産性の上昇が期待できるとの見方を示した一方、関税の引き上げなどの通商政策の変更について、一部実業界からは懸念の声が上がっているとした上で、現状ではどのような通商政策となるか分からないため、今回の経済見通しにおいては通商政策の変更を反映していないことを明確にした。
さらに、同議長は現在年4回行われている記者会見について、回数を増やすことを検討するとした。
声明の概要
◆フォワードガイダンス、今後の金融政策見通し
- 既に実現した労働市場環境や物価、およびこれらの今後の見通しを考慮して、委員会はFF金利の目標レンジを1.50-1.75%に引き上げた(政策金利の変更を反映)
- 金融政策スタンスは依然として緩和的であるため、強い労働市場の状況や、物価の2%への持続的な上昇を下支えする(変更なし )
- FF金利の目標レンジに対する将来の調整時期や水準の決定に際して、委員会は経済の現状と見通しを雇用の最大化と2%物価目標に照らして判断する(変更なし)
- これらの判断に際しては、雇用情勢、インフレ圧力、期待インフレ、金融、海外情勢など幅広い情報を勘案する(変更なし)
- 委員会は、対称的な物価目標に関連させて、物価の実績と将来見通しを注意深くモニターする(変更なし)
- 委員会は、FF金利の更なる漸進的な引き上げを正当化するような経済状況の進展を予想しており、暫くの間、中長期的に有効となる水準を下回るとみられる(変更なし)
- しかしながら、実際のFF金利の経路は、今後入手可能なデータに基づく経済見通しによる(変更なし)
◆景気判断
- 労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は緩やかに拡大した(経済活動の判断を「堅調に」”solid”から「緩やかに」“moderate”に若干下方修正)
- 最近の雇用増加は強く、失業率は低位に留まっている(表現変更、労働市場に関する記述と家計、民間設備投資を2文に分離)
- 最近のデータは、家計消費と民間設備投資の伸びが堅調であった第4四半期から幾分鈍化したことを示唆している(家計消費と民間設備投資の伸びについて、前回の「堅調」”solid”から「幾分鈍化」”moderated”に若干下方修正)
- 前年比でみた総合および食料品とエネルギーを除いたインフレ指標は、2%を下回って推移している(変更なし)
- 市場が織り込むインフレ率は、ここ数ヵ月上昇したが、依然として低位に留まっている(変更なし)
- 調査に基づく長期物価見通しは、全般的には変化に乏しい(変更なし)
◆景気見通し
- 経済見通しはここ数ヵ月で強まった(今回追加)
- 委員会は、金融政策スタンスの更なる漸進的な調整により、経済活動は中期的に緩やかに拡大し、労働市場は強い状況が続くと予測している(経済活動に関して「中期的に」”in the medium term”を追加)
- 前年比でみたインフレ率は今後数ヵ月のうちに上昇し、中期的に委員会の目標とする2%近辺で安定すると予想する(前回にあった「今年」”this year”から、「今後数ヵ月のうちに」”in coming months”に変更)
- 経済見通しに対する短期的なリスクは概ねバランスしている(変更なし)
- 委員会は、引き続きインフレ動向と世界経済および金融情勢を注視する(変更なし)
会見の主なポイント(要旨)
記者会見の主な内容は以下の通り。
◆金融政策変更、政策金利見通し
- 今回決定した政策金利の引き上げは、これまで数年に亘り続けてきた金融政策の正常化の一環である。
- (18年の利上げ回数が年4回にならなかった理由について)中央値で示される政策金利見通しは、あくまでFOMC参加者個人の見通しを集計したものに過ぎない。年3回と年4回の見通しの差は大きくない。見通しは時間の経過とともに変化するものである。
- 今回のFOMC会合で決定したのは、0.25%の引き上げだけであり、それ以外の決定はしていない。
- 金融政策の意思決定に中間選挙は関係ない。金融政策目標を達成することだけに集中する。
- (超過準備に付利することに対する批判について)現在の金融政策の枠組みは上手くいっている。長期的な枠組みとして続けていくのかは何も決めていない。付利は金融機関が市中で得られる水準を超えていないため、補助金との批判は間違った認識である。
◆経済見通し、財政政策の影響
- 家計消費や民間設備投資の伸びは鈍化しているものの、ここ数ヵ月で経済見通しは強くなっている。拡張的な財政政策、雇用増加が所得や信頼感を改善させること、海外経済が底堅いこと、金融環境が全般的に緩和的であることも経済見通しをサポート。
- (減税などの税制改革によっても長期的に成長率が3%に達しない理由について)3%成長は、現状での潜在成長率見通しを大幅に上回っている。それが実現するには生産性と労働参加率が大幅に上昇する必要がある。
- 一般的に、企業向けの減税は設備投資を促し生産性を引き上げるほか、個人向けの減税は労働市場への参入を促すため、労働参加率を引き上げるとは言える。
◆通商政策の影響
- 関税などの通商政策の変更について、現段階で経済見通しに織り込んでいない。実業界からは懸念する声がでているのは承知している。
- 通商政策はFRBの管轄ではないため、通商政策についてコメントしたくない。
◆その他
現在4回の記者会見の回数を増やすかは検討する。
FOMC参加者の見通し
FOMC参加者(FRBメンバーと地区連銀総裁の15名 )の経済見通しは(図表1)の通り。前回(12月13日)公表されたものと比較すると、成長率が18年と19年分が上方修正されたほか、失業率も18年から長期水準まで全般的に上方修正(失業率は低下)された。一方、インフレ率については、19年分だけ+0.1%ポイント上方修正された。
政策金利の見通し(中央値)は18年が2.13%と前述のように前回会合から据え置かれたものの、政策金利見通しのドットチャートからは、年4回以上の利上げを予想する人数が前回の4人から7人に増加したことが示された。
一方、19年以降は19年(2.69→2.88%)、20年(3.06→3.38%)、長期(2.75→2.88%)とそれぞれ上方修正された(図表2)。この結果、19年は年3回(+0.75%)の政策金利の引き上げ予想となった。
なお、20年の政策金利見通しが長期の水準を超えているものの、パウエル議長は記者会見の中で、あくまで個人の予想を集計した結果であることや、3年先の見通しは非常に不確実であることに言及し、一時的に引締め政策を実施する可能性を否定した。
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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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