平日の夕方、スーパーマーケット「オオゼキ」ときわ台店(東京都板橋区)では、若い女性店員の元気なアナウンスが響いていた。レジや品出しを担当する店員は総じて若い。そんな活気あふれるお店に客も続々と吸い込まれていく。オオゼキの強みの源泉は顧客重視の店作りとそれを支える約7割の正社員比率の高さにある。同社の強みに迫ろう。

強みは利益率が高い生鮮商品の品ぞろえ

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(画像=同社Webサイトより)

オオゼキは小田急線、京王線、東急線沿線を中心に東京都内の世田谷区、品川区、大田区での店舗展開を集中的に進めており、東京都北部への出店はこれまで手薄だった。

一方、「『オオゼキを自分の冷蔵庫代わりに使っていただく』ための距離感はとても大事と考えています。徒歩や自転車で毎日気軽に来れるような電車やバス便の良い駅前立地に多くのお店を展開しています」とも明言していることから、都内で交通利便性の高い駅前の好立地の場所があれば、出店実績のなかった地域でも出店の可能性があるとも読み取れる。

これまでオオゼキの店舗が世田谷区、品川区、大田区に集中していた背景としては、ドミナント戦略の採用がある。オオゼキのホームページによると、「市場で仕入れた商品をその日の少しでも早い時間に店頭に並べられて、かつお目当ての商品の欠品でお客様ががっかりすることがないよう、近隣店舗間で商品やり取りがしやすいよう」にするためだと言う。

オオゼキは生鮮商品の品ぞろえに強みを有するが、各店舗の従業員が市場へ直接買い付けを行うことで品揃えの強みを実現する。加工食品では大量一括仕入れを行わないと一定以上の利益を確保できないのに対して、生鮮食品は粗利益率が高く、一括仕入れに必要な大規模な資金力が不要となる。その代り、正社員を多く採用し、商品仕入に関する権限を委ねることで、顧客ニーズに適合した商品を数多く取りそろえる方針を採用している。

同業と比べて目立つ正社員比率の高さ

このように、オオゼキの顧客ニーズを重視する店作りの方針は、正社員を多く採用することにより担保しようとしていることがうかがえる。同社が「リクナビ2019」に掲載した文章を抜粋してご紹介しよう。

「オオゼキは社員に責任のある業務を任せる、現場の社員に仕入・販売を任せるといった社員第一主義も大切にしています。これらの実践によりお客様とのコミュニケーションの中から全ての新しい事が生まれるという独自の店舗経営理念の基に根づいた方法です」

一方、他社ではパート・アルバイトの比率の方が高い。たとえば、イトーヨーカドーは従業員数3万2579人のうち正社員は7807人で正社員割合は24%(2017年2月末時点)、西友は従業員数2万3576人のうち正社員は4894人で21%(2018年1月1日現在)といった具合だ。同社HPによれば業界水準は約25%程度。オオゼキの正社員比率の高さが際立っている。

源泉は顧客重視の店作り

パート・アルバイトの比率が高ければ、人件費が抑制され、利益増へと作用する。しかし、厚生労働省の「平成 28 年パートタイム労働者総合実態調査の概況」の「産業・事業所規模、就業形態別労働者割合」によると、「正社員以外の労働者」の割合が最も高い業種は「宿泊業、飲食サービス業」の68.7%だが、スーパーやコンビニエンスストア(CVS)が属する「卸売業、小売業」も48.0%と2番目に高い。

スーパーやCVSはパート・アルバイトをはじめとする非正規の働き手に依存することで成立してきたと言える。しかし、アルバイトの重要な供給源である高校生や大学生の人数が少子化で減少している。18歳人口は1992年の205万人をピークに、2014年には118万人にまで減った。正社員を手厚く採用してきたオオゼキには先見の明があったと言えそうだ。

オオゼキは2010年1月5日にMBOによって東証2部の上場を廃止した。「お客様第一主義」を徹底し、「個店主義」や「地域密着主義」によって厳しい事業環境下で勝ち抜くことを目指し、競争力を持った地域に貢献できる企業へと変革させるため、経営資源(ヒト、モノ、カネ)を再配分し、短期的な業績に左右されることなく経営改革を実行する必要があるとして、株主に経営改革に伴い発生するリスクの負担が及ばぬよう上場廃止を目指すことを理由として掲げた。

オオゼキの強みの源泉は顧客重視の店作りとそれを支える正社員比率の高さだ。外部株主にリスクを負担させないために選択した非上場会社化によって、正社員の採用を大胆に進めることができる強みを手にしたと評価できるのではないだろうか。

大塚 良治
1974年生まれ。博士(経営学)。総合旅行業務取扱管理者。運行管理者試験(旅客)合格。インバウンド実務主任者。広島国際大学講師等を経て、湘北短期大学准教授(現職)。江戸川大学非常勤講師(観光まちづくり論・地域経営論担当)、松蔭大学非常勤講師(監査論担当)を兼務。企業分析の視点であらゆる業界を考察する記事を執筆。著書に『「通勤ライナー」 はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)。