シンカー:マーケットが拡大している所の雇用の増加がかなり強くなり、引き続き景気拡大シナリオに沿ってしっかり動いているとみる。景気拡大と物価上昇が強くなるためには、雇用環境の改善が総賃金の拡大につながり、家計のファンダメンタルズも改善し、消費者心理の向上と消費の増加に向かうことが必要となる。その好循環の兆候は見える。そして、好調な内外需を背景に、生産の増加トレンドも引き続きしっかりとしているとみてよいだろう。新年度から企業は収益拡大への攻勢をみせるだろう。一方、2月の東京都区部のコアコア消費者物価指数(除く生鮮食品とエネルギー)の季節調整済前月比は-0.2%となり、昨年6月以来の下落となった。年初からの円高が物価上昇の重しとなっている可能性もあり、円高と株安が消費者心理を下押してしまうことがリスクである。そして、円高と貿易紛争への懸念が、企業心理を下押してしまうことがリスクとして残っている。
2月の失業率は2.5%と、1月の2.4%から上昇した。
1月に大雪を含む天候不順からの復旧の人手の必要性などで、12月の2.7%から急低下した反動が出た。
2月の有効求人倍率は1.58倍と、1月の1.59倍から低下した。
求人と求職者ともに前月から減少し、これまでの新規求人の大幅な増加が雇用に結びついた結果であると考える。
研究や飲食・宿泊などのサービス業、そして情報通信など、マーケットが拡大している所の雇用の増加がかなり強くなり、引き続き景気拡大シナリオに沿ってしっかり動いているとみる。
景気拡大と物価上昇が強くなるためには、雇用環境の改善が総賃金の拡大につながり、家計のファンダメンタルズも改善し、消費者心理の向上と消費の増加に向かうことが必要となる。
消費のしっかりとした増加があって、経営者は売上数量の減少を懸念せず、コストの増加による価格引き上げが可能となり、2%の物価目標に向けた好循環につながることになる。
2017年10-12月期の資金循環統計では、家計の貯蓄率が+4.3%(GDP対比、4四半期平均)と、2016年1-3月期の+2.0%から明確に上昇していることが確認できる。
高齢化の動きの中でも、雇用環境が改善し、貯蓄率は上昇し、家計のファンダメンタルズが改善してきている。
この貯蓄率の上昇は大きすぎるとみられ、消費者心理の向上が、今後は貯蓄が消費に向かう動きを後押しすると考える。
2月の東京都区部のコアコア消費者物価指数(除く生鮮食品とエネルギー)の季節調整済前月比は-0.2%となり、昨年6月以来の下落となった。
年初からの円高が物価上昇の重しとなっている可能性もあり、円高と株安が消費者心理を下押してしまうことがリスクである。
2月の鉱工業生産指数は前月比+4.1%となった。
2月の誤差調整後の経済産業省予測指数同+4.7%なみの結果となった。
12月に同+2.7%、1月に同―6.8%に続き、振れが大きくなっている。
一つ目の理由は、1月に輸送機械と耐久消費財を中心とする生産のタイミングのずれ、そして大雪を含む天候不順により、生産が下押されたと考えられることである。
二つ目の理由は、12月から2月は、新旧正月の影響で、季節調整が上手く掛からず、振れが大きくなりやすいことである。
3月が誤差修正後の経済産業予測指数の前月比+0.5%と仮定すると、1-3月期の鉱工業生産指数は前期比-2.0%となり(10-12月期同+1.8%)、8四半期ぶりの低下となる。
一方、3月が横ばいと仮定すると、実質輸出が前期比+1.4%と、3四半期連続のしっかりとした増加となることと整合的ではない。
1月の消費総合指数も前月比0.0%と、大きな落ち込みは見られなかった。
雇用環境の改善による家計のファンダメンタルズの向上が、消費活動を支え始めていると考えられる。
これまでIT関連財を中心とする生産・在庫循環のグローバルな強い好転に支えられていたが、さすがに一服感が出てくる可能性がある。
一方、IoT・AI・ロボティクス・ビッグデータなどの産業変化もあり、データセンターや車載向けの部品などは増加を続けている。
更に、日本が比較優位を持つ資本財が堅調な伸びをみせるとともに、競争力の改善を反映して世界貿易に対する日本のシェアも上昇しているとみられる。
人手不足は深刻であり、需要の増加に対する供給の対応を整え収益機会を逸失しないため、企業は生産性を向上させることが急務となっている。
そして、新製品の投入などでの売上高の増加のため、設備投資と研究開発が拡大し始めている。
生産の増勢は、外需から内需を中心に裾野が広がってきているとみられる。
2月の在庫指数は昨年11月の水準なみであり、在庫の積みあがりは確認できず、1-3月期の鉱工業生産指数の低下は一時的であろう。
4月の経済産業省予測指数は前月比+5.2%と極めて強く、新年度からの企業の収益拡大への攻勢が見て取れる。
好調な内外需を背景に、生産の増加トレンドは引き続きしっかりとしているとみてよいだろう。
4-6月期には鉱工業生産指数は上昇に転じると考える。
ただ、年初からの円高と貿易紛争への懸念が、企業心理を下押してしまうことがリスクとして残っている。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司