2週間前のマーケット・スナップショットで、「完全なボトム」と指摘したが、まさにそこが相場のボトムとなった。先週は外国人の売りが一巡し、新年度入りで底入れだとも述べた。日経平均は節目となる移動平均を次々と超えて、2万2000円台回復が見えてきた。これまでの値段はあってないようなものだった。EPS1700円×PER13倍=約2万2000円以下は、まっとうな評価がされていない株価だ。だから、ここからが勝負である。

今月下旬からいよいよ3月企業の決算発表が始まるが、業績に対する不安が多い(と言われている)。実際に、先日も新聞に「株式市場で、上場企業の2018年度業績に対する懸念が広がっている。企業分析の専門家であるアナリストが相次ぎ企業の業績予想を下方修正している」との記事が書かれていた。

こういう報道に触れるたび、どうにかならないものかな~、と思う。間違っているとは言わない。しかし、こういうのは「片手落ち」という。(ちなみに「片手落ち」というのは差別用語ではない。片方の手落ち、という意味で不十分ということだ。)

確かにアナリストの下方修正は相次いでいる。例えば、3Q決算がまとまった2月末から足元までの1月余りの間に、日経平均採用225銘柄のうち約4割に当たる100社が下方修正されている(クイックコンセンサス、2018年度税引き後利益ベース)。トヨタ自動車の560億円を筆頭にその総額は2900億円超の減額修正である。上位には、やはり為替の影響だろう、SUBARU、日産など自動車メーカーが顔を並べている。

しかし同時に上方修正もある。企業数では下方修正とほぼ同じ97社が上方修正されている。累計額は2700億円ちかくに及ぶ。つまり下方修正/上方修正は、社数で100/97、利益額で2900億円/2700億円とほぼ拮抗しているのだ。

広木隆,マーケット・スナップショット
(画像=マネックス証券)

その結果、日経平均の来期予想EPSは切り上がった水準を保ったままだ。「アナリストの下方修正が相次いでいる」だけなら、EPSは切り下がるだろう。

広木隆,マーケット・スナップショット
(画像=マネックス証券)

前回のコラム【新潮流2.0】の最後のジョークのオチが分からないので教えて、という声が多い。「世の中には3種類の人間がいる。数を正しく数えられる人間と、数えられない人間である。」 というジョークを引いたのだが、「3種類の人間がいる」と言っておきながら「数えられる人間」と「数えられない人間」の2種類しか挙げていない。「世の中には~」などとさも世間を知り尽くしたかのような偉そうな口ぶりながら、実は「数を数えられないのはお前じゃないか!」というのがツッコミどころというわけだ。

でもやはり「世の中には3種類の人間がいる」のである。「数を正しく数えられる人間と、数えられない人間、そして数えられるのにあえて数えようとしない人間」である。下方修正の数だけでなく、上方修正も数えるべきであろう。このジョークは日経ヴェリタスのコラムにも使った。ヴェリタスでこのジョークを使ったのは前段でこういう箴言を引いたからである。「世の中には3つの側面がある。あなたの側、私の側、そして事実。」自分の主張を通したいのは誰もが同じ。しかし、事実を曲げてはいけない。

下方修正の要因は円高懸念である。しかし、我がストラテジスト仲間で盟友のニッセイ基礎研・井出真吾さんによれば、「1ドル105円以上の円高が定着しない限りは減益まで心配しなくていい」(4月3日付けテレビ東京ニュースモーニングサテライト)。12月決算の輸出企業の業績予想を見ると、いずれも増益だ。

円高は確かに企業業績に逆風である。しかし、長年の円高で企業はかなり抵抗力をつけてきた。当たり前のことだが企業の業績は為替だけで決まるわけではない。「円高が業績の重石」 - 間違っているとは言わない。しかし、そういうのは「短絡的思考」という。ちなみに「短絡的思考」は差別用語ではない。

追伸:短期的なことだが今晩の雇用統計、平均時給の下振れに注意したい。労働時間が34.4時間ならセーフだが、前月と同じ34.5時間だと平均時給の前年比の伸びが鈍る恐れがある。くわしくはこちらをご参照。

広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト

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