この記事は2026年7月22日に三菱UFJ信託銀行で公開された「不動産マーケットリサーチレポートvol.310『国内REITの投資対象としてのDCの可能性 ~制度整備の進展と残された課題~』」を一部編集し、転載したものです。
目次
この記事の概要
• 制度面の主要論点は整理が進み、REITがDCを投資対象とする環境が整いつつある
• 事業収益を取り込むスキーム・障害発生時の責任範囲・市場流動性等が残された課題
• 海外事例に学びつつ、日本市場に適した仕組みづくりが求められる
生成AIの急速な普及を背景に、国内不動産投資市場でもデータセンター(以下、DC)への投資が拡大している。一方で、国内REITによるDCへの投資は進んでおらず、投資市場における有効な出口が限定的である。しかし昨年以降、制度上の主要な論点が整理され、DCがREITの投資対象となる可能性が高まりつつある。本稿では、制度面で前進した事項と依然として残る課題を整理すると共に、海外REITの事例を踏まえながら今後の方向性を考察する。
制度面での制約が一部解消
DC特有の設備の「不動産等」としての取扱い
これまで、受変電設備やUPS(無停電電源装置)、非常用発電設備、空調設備等、DC特有の設備がREITの投資対象である「不動産等<1>」に該当するか必ずしも明確ではなかった。2025年6月、金融庁によりこれらの設備が「不動産等」に該当するとの見解が示され<2>、価値の大半を設備が占めるDCがREITに組入れられることが明確になった。
重い減価償却の負担
加えて、DCは設備の減価償却負担が重く、分配可能利益が圧迫されやすいという課題もあった。これに関しては、2026年4月、資産運用業協会より、利益超過分配の限度を減価償却費の60%とする制限を撤廃する改正が行われた<3>。柔軟な分配方針が取れることは、DCのように償却負担が大きいアセットタイプにおいては、追い風と考えることができよう。
残されたハードル
以上のように制度面での整理が進んでいるが、あくまでREITに組み入れられる可能性が高まった段階に過ぎない、と考える。実際に投資商品として成立させるためには、収益構造、契約関係、投資家保護といった実務面や商品設計に関わる論点を整理する必要がある。
1:投資法人は、資産を主として特定資産に対する投資として運用する必要があり、特定資産の範囲は投資信託及び投資法人に関する法律施行令第3条第3号に規定されており、その一つに「不動産等」が挙げられている。
2:2025年6月27日金融庁「投資法人に関するQ&A」の改訂についてhttps://www.fsa.go.jp/news/r6/shouken/20250627/20250627.html
3:2026年6月10日資産運用業協会「不動産投資信託及び不動産投資法人に関する規則」等の一部改正に係る意見募集の結果について
https://www.imaj.or.jp/about/publiccomment/20260610b.html
私募REITについては、従来より減価償却費の100%の利益超過分配が可能である。
租税特別措置法上の制約とDCの収益構造
REITは、不動産投資ビークルとして一定の要件を満たすことを条件に、税制上の優遇措置が設けられている。そのため、事業会社のように幅広い事業収益を取り込むことは想定されておらず、租税特別措置法により出資形態等に一定の制約が設けられている(詳細は図表2参照)。
しかし、DCの収益構造は一般的な不動産と異なる。オフィスや共同住宅の場合はスペースを貸す対価として賃料を収受し、オペレーショナルアセットであるホテルや商業施設の場合は賃料形態を歩合型賃料とすることで、事業収益を賃料に反映させやすい。DCについても、オーナーが設備の一部を保有する場合には、電力供給や設備利用等のサービスを含めた賃料設定により、サービス収益の一部を実質的に取り込む事例がみられるものの、DCは不動産としての側面に加え、電力供給、冷却、通信接続等のオペレーションサービスによる収益の比重が大きく、その収益の全てを賃料に置き換えることが難しい。P3「収益構造の柔軟性」で後述するUSREITにおけるTRS(課税REIT子会社)のように、オペレーション収益を取り込む制度的な枠組みとは性格が異なり、DCが持つ「不動産」と「事業」の両面を現制度の中でどう整理するかが論点となる。もっとも、租特法改正のハードルは高いとみられており、現行制度の枠内で整理する方向で検討が進められているようだ。
障害発生時の責任範囲
DCは、停電や冷却設備の不具合、通信障害等が発生した場合、システム停止や事業中断に繋がる可能性がある。このため、一般的な不動産に比べて物件オーナーに求められる責任や保証水準が高くなりやすい。実際には、責任範囲や補償内容は案件ごとに異なっており、リスクを誰がどこまで負担するのかについて、十分な整理と投資家の理解が求められる。
情報開示
J-REITでは、物件所在地、稼働率、主要テナント、賃貸借契約の状況等、投資判断に必要状況や契約内容等に強い秘匿性を求めるケースが多く、特にハイパースケーラー向けDCではその傾向が強い。しかし、DCはテナントの信用力や契約条件が収益の安定性を大きく左右するアセットであり、物件に関する情報開示が限定的であると、投資家はそのリスク・リターンを評価しにくくなり、適切な投資判断の妨げとなる可能性がある。このため、投資家保護と秘匿性確保のバランスをどのように取るかが論点となる。
市場流動性
特にハイパースケーラー向けDCにおいて、テナント側の要請により、物件譲渡や物件オーナーのスポンサー変更に対する制限が付されるケースもある。このように市場流動性に制限が生じると、REITが資産の売却や入替を通じてポートフォリオの改善を図ることや機動的な財務戦略の実行が困難になる可能性がある。
物件規模
物件規模の大きさも無視できない。DCは1物件あたり数百億円から1,000億円超の規模に達することが多く、少数の物件で資産規模が膨らみやすい。そのため、ポートフォリオ分散が効きにくく、特定の立地やテナントへの集中度が高くなり、個別物件の収益変動や契約変更、テナント信用力の変化がREIT全体に与える影響が大きくなる。
海外REITとの比較から見える国内市場の課題
これらの論点を整理し、対応策を検討する上では、すでにDC特化型REITが存在するUSREIT(米国)やS-REIT(シンガポール)との比較が参考になる。
図表2の中で、特に日本と海外のREITとの間において差が見られるのが、収益構造、障害 発生時の責任範囲、情報開示である。
収益構造の柔軟性(図表2②・③・④)
US-REITやS-REITでは、J-REITに比べてDCの事業収益を取り込みやすい。US-REITでは、TRS(課税REIT子会社)を通じて、不動産賃貸にとどまらないサービス収益をREIT内に取り込むことができる。これにより、DCの電力供給や通信接続等を含むオペレーションサービスの収益をREITの収益に反映しやすい。加えて、日本のREIT制度では資産の運用(不動産の取得・譲渡・賃借、不動産の管理委託)以外を行うことに制限がある<4>のに対し、米国ではREIT自体が開発・保有・運営を担うことができ、DC事業者としての機能を内包した形をとることが可能である。S-REITも一定の条件下で開発行為ができる。
障害発生時のリスク分担(図表2⑤)
US-REITやS-REITでは、SLA<5>(ServiceLevelAgreement)を前提に、障害発生時のリスク分担や責任範囲、補償内容等が契約上精緻に規定されている。日本でもSLAにより責任範囲が定められ、オーナーの責任範囲は賃料の範囲内となるものが一般的になりつつある。但し、現時点では、契約内容やテナントとの取り決めによる差異が大きいことに留意が必要である。
4:投資法人が行う行為として可能な「取得」には、「自ら宅地の造成又は建物の建築を行うこと」は含まない一方、「投資法人が宅地の造成又は建物の建築に係る請負契約の注文者になることを含む」とされている(金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」)。REITが開発案件に投資すること自体は禁止されていないが、ポートフォリオ全体に過大な影響を与える場合については、REITが請負契約の注文者になることがふさわしくない場合として例示されている。
5:Service Level Agreement。サービス提供者と利用者の間で、「どのレベルのサービスを提供するか」を定めた合意・契約。DCでは、例えば「月間電源供給時間(稼働率)99.999%」「異常検知時の通知時間:30分以内」「障害発生時の復旧時間:3時間以内」といった具体的な水準を定める。稼働率99.999%の場合、年間許容停止時間5分以内、この水準を下回った場合は、利用料金の一部返還を行う、等と定められていることが多い。
情報開示に対する考え方(図表2⑥)
開示面でも、日本のJ-REITが個別物件や主要テナント情報を比較的詳細に求めるのに対し、US-REITやS-REITではポートフォリオベースでの開示や主要テナント集中度の提示が中心であり、必ずしも個別物件単位での詳細開示が徹底されているわけではない。したがって、DCの秘匿性との折り合いをつけやすい面がある。
今後の方向性
国内REITによるDC投資を活発化するためには、海外事例に学びつつも、必ずしも同様の制度を日本にも導入する、ということではなく、DCは不動産と事業が一体となったアセットであることを前提に、その特性に応じた実務・商慣行を整理することが現実的ではないだろうか。
国内REITにおけるDC投資の実現化に向けたハードルを解消するためのアプローチとして、具体的には以下のような仮説が考えられる。
初期段階では、譲渡や賃貸借契約上の制約が比較的少ないコロケーション型<6>DCやオンプレミス型<7>DCから組入れていくことが現実的であろう。また、物件規模の大きさに対応するため、共有持分による取得や段階的な取得(追加取得)等の工夫も必要になるだろう。
6:DC事業者が提供する設備・運用環境を複数の利用企業が共同利用する形態
7:企業が自社専用のサーバーやシステムを設置・運用するためのデータセンター
加えて、DCは高い成長性が期待できる一方、障害発生時の責任範囲、情報開示上の制約、物件規模の大きさといった固有のリスクを抱える。そのため、リスク分散の観点から総合型REITのポートフォリオの一部として組入れから実績を積み上げ、その後市場環境や投資家評価を踏まえて特化型REITの可能性を検討していくことが現実的ではないだろうか。
障害時の責任範囲については、SLA等により定められているのが一般的であるが、DCでは冗長構成<8>や温湿度管理<9>、電力供給の安定性といった、オフィスや共同住宅等の一般的な不動産には見られない技術的な要素が含まれるため、契約内容やリスク評価には一定の専門性が求められる。また、責任範囲の具体的な内容は案件による個別性が強いことから、投資家がリスクを適切に理解・評価できるよう、情報開示の充実や事例の蓄積を通じて市場参加者の共通認識を醸成していくことが、DCの投資市場の成長を促す上では不可欠なプロセスと考えられる。
REITによるDCへの投資が実現した後も、中長期的な課題として、利益超過分配の持続可能性についての投資家への丁寧な説明や、将来のCAPEX原資の確保とのバランスを見極める必要があるだろう。また、DC需要は当面拡大が見込まれるものの、技術進化による既存施設の競争力低下は避けられず、他用途への転換も容易ではない。長期保有を前提とするREITにおいては、設備更新の継続と将来的な出口戦略の両面から、中長期的な資産価値をどのように維持するかも課題となるだろう。
8:設備や回線等に障害が発生した場合でもサービスを継続できるよう、予備設備や複数系統を設ける設計
9:サーバー等のIT機器を安定稼働させるため、DC内の温度・湿度を適切な範囲に維持すること




