4月月初に米中貿易摩擦への警戒が高まり、ドル円は一時105円台に下落、シリア情勢の緊迫化も円の下支えとなったが、その後、(1)米中貿易摩擦への警戒が後退したこと、(2)欧米のシリア空爆が短期で終結したこと、(3)北朝鮮情勢の緩和期待が高まったことなどからリスク回避的な円買いが巻き戻され、足元は107円台後半まで上昇している。
ただし、今後もしばらくドルの上値は重いだろう。米中の貿易戦争は回避されるものの、今後は対日通商圧力が強まる可能性が高いためだ。今月中旬の日米首脳会談で新たな通商協議の開始が決定されたが、米国側の交渉トップであるライトハイザー通商代表は対日強硬派として知られる。同氏が前面に出てくることで、リスク回避の動きや通貨安誘導批判への警戒から円高圧力が強まることが想定される。また、米政権内では対外強硬派が増えているだけに、中東情勢等地政学リスクの高まりに伴う円高圧力も見込まれる。一方、今後も強さが続く米経済のファンダメンタルズがドルの下値を支えるため、3ヵ月後のドル円は現状比横ばい圏内と予想している。
ユーロ円も最近はリスク回避の後退で上昇し、足元は132円台前半で推移している。今後もリスク回避等に伴う円高圧力には注意が必要だが、ECBは6月にも緩和の縮小を決める可能性が高い。ECBの金融政策正常化が意識されやすい時間帯に入り、ユーロ高圧力がじわりと高まるだろう。ユーロ円の3ヵ月後の水準は134円前後と予想している。
長期金利は、リスク回避の後退や米金利上昇を受けて上昇し、足元は0.06%付近で推移している。今後も米金利は上昇に向かうと見込まれるが、リスク回避に伴う債券需要が金利上昇を阻むだろう。また、日銀も正常化観測の台頭を防ぐために金利抑制スタンスを当面崩さないとみられる。3ヵ月後の金利水準は現状比で横ばい程度とみている。
(執筆時点:2018/4/23)
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上野剛志(うえのつよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト
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