小規模企業の経営者や個人事業主の方の中には、日々懸命に働くことに追われて、自身の退職金の準備まで手が回らない人も少なくありません。そのような経営者をバックアップするため、国は効率的な退職金制度を用意しています。本稿では、経営者の退職金準備として知っておきたい小規模企業共済制度について解説していきます。

小規模企業共済とは何か?

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(写真=pinkomelet/Shutterstock.com)

小規模企業共済とは、小規模企業の経営者向け退職金制度です。小規模企業の経営者や役員、個人事業主は、いわゆる一般的な会社員や公務員などと比較すると、やや安定性に欠ける職業です。このような方々が中途で事業をやめたり、もしくは退職したりする際、必ずしも手元に資金が残るとは限りません。ときには厳しい状況から事業の再建を図らねばならないこともあるでしょう。小規模企業共済はこのような事態に備え、必要な資金をあらかじめ準備しておく制度のことです。

小規模企業共済は現在、全国の加入者数が約133万人。中小企業基盤整備機構と呼ばれる独立行政法人によって運営されており、事業者の万一に備えた、国によるサポートやバックアップを兼ねた制度だといえます。

加入資格は次の通りです。

・ 常時使用する従業員数が20人以下(商業・サービス業では5人以下)の個人事業主・会社の役員
・ 事業に従事する組合員が20人以下の企業組合、協業組合・農事組合法人の役員
・ 小規模企業者たる個人事業主に属する共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)

掛金月額は500円刻みで1,000円から7万円までの範囲内で自由に選べます。なお、半年払いや年払いも可能であり、掛金は状況に応じて増減額ができます。

共済金は積立であり、事業を営んでいる間ではなく、退職や病気・けが、廃業時などに受け取れるよう設定されています。また、受け取れる金額は請求理由によって変わります。

例えば、掛金納付年数が30年、毎月2万円ずつの掛金とします。すると、掛金合計額は722万2,000円(361ヵ月)。支払われる金額は、事業廃止等の場合(共済金A)871万7,600円。老齢給付等の場合(共済金B)845万800円となります。

加入申込みの手続きは、銀行をはじめとする金融機関、商工会および商工会議所にて行うことができます。手続きには確定申告書の控えや謄本などの書類が必要なため、あらかじめ問い合わせておいたほうがよいでしょう。

小規模企業共済制度のメリットとデメリット

小規模企業共済には、大きく分けて3つのメリットがあります。

1. 掛金の所得控除
小規模企業共済は節税効果の高い制度です。掛金として支払った金額は、全額、経営者個人の所得税の控除対象となります。年間で最大84万円の所得控除となるわけですから、高額所得者ほどインパクトが大きく、節税効果があります。

なお、中小機構のウェブサイトには、小規模企業共済制度に加入した場合の将来受け取れる共済金の金額と、加入後の節税効果を試算できるシミュレーションが提供されています。

2. 3種類の受け取り方法
共済金の受け取りは、一括払いの他に、年金払いの方式と、一括と分割の併用方式の3種類から選ぶことができます。受け取った共済金の所得区分は、一括払い受け取りの場合は退職所得、年金払い受取りの場合は、公的年金等の雑所得となり、事業所得と比較して税金が安くなります。

3. 貸付制度の利用
小規模企業共済への加入者は、貸付限度額の範囲内で掛金の納付期間に応じ、10万円以上2,000万円以内の事業資金等を借り入れられます。即日貸付も可能となっており、もしものときの資金調達手段として利用することができます。

小規模企業共済のデメリット

小規模企業共済のデメリットとして、あくまでも万一や退職時に備えた積立制度だという点が挙げられます。このため、短期間で解約すると元本割れを起こす可能性が生じます。加入を検討する際には、長期的なスパンでの検討が必要となります。

小規模企業共済制度の活用の際に気を付けること

小規模企業共済では経営者が死亡した場合、共済金の受取人を指定できません。共済金は、小規模企業共済法で第一順位が「配偶者」、第二順位が「生計を一にする扶養親族」、第三順位が「法定相続人が均等に取得する」と決められています。また、共済金は相続財産とみなされますので、相続税の申告に含める必要があります。

以上の通り、小規模企業共済制度は、経営者の退職金制度として、非常に有効な制度です。小規模企業の経営者の方は、ぜひ検討されてみてはいかがでしょうか。(提供:みらい経営者 ONLINE


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