2万3000円の大台を前に水準固めの動き 理論通りの円安を支えに米国株次第で強含みも

今週の日本株相場は戻り基調が継続するだろう。但し、一気に2万3000円の大台を試しにいくとは考えにくい。一目均衡表の雲や25日移動平均など主なテクニカル的な節はすべてクリアしているので軽くはなっているものの、2万3000円は2回試して抜けられずWトップを形成している壁である。直近のボトムから6営業日で1000円超も上げているだけに戻りのピッチが速すぎるという感もあり、2万3000円に接近する場面では利益確定売りもかさんでくるだろう。

相場の地合いは改善している。貿易戦争とさんざん喧伝されたが、米国側の「2000億ドル」の関税リスト公表に中国側が報復の反応を示さなかったことや米国政府のZTE制裁緩和発表などで、目先、米中の対立ムードが和らいでいる。そうしたなかドル高の流れが鮮明になっている。市場の一部にはいまだにドル高が解せないという声があるが、極めて理論的な動きである。僕はずっと、「保護主義は自国通貨高を招く」というマクロ経済学の原則を唱えてきたが、トランプ大統領が矢継ぎ早に追加関税を発表するにつれてドル高が進行していったのはまさに教科書通りの動きだ。

市場は早くも落としどころを探り始めたのかもしれない。2000億ドル相当の追加関税のリスト6031品目には衣類や食料、日用品など消費財が相当多く含まれている。これらに関税がかけられ、関税分が価格に転嫁されれば最終的には米国の消費者がそのコストを負担することになる。関税分、10%価格が上がるのを嫌って代替品を買うかといってもそもそも米国内で製造される代替品がじゅうぶんにないだろう。

結局、不利益を被るのは米国の消費者だ。マスコミもそう批判するし、第一そんなことは米国の消費者だってわかるから、中間選挙のアピールにはならないどころか逆風になるはずだ。貿易赤字とは米国の旺盛な消費意欲の結果であり、輸入品は米国の消費者が欲しいから買っている品々である。それに関税を課すというのは中国と戦っているように見えて、実は米国の消費者に課税している - 米国民にとっては増税されているのと同じである。

米通商代表部(USTR)は8月末まで公聴会を開くなどして、意見を公募した上で最終リストを確定する。2000億ドルの追加関税のリストをそのまま発動はしないだろう。そうなれば強硬な態度が緩和したと市場は捉える。少なくともそれ以上貿易戦争エスカレートしないという材料出尽くしの機会がいずれやってくるだろう。

今週は米国企業決算が本格化する。好調な業績に支えられて米国株が高値を抜いてくれば日本株への追い風になることが期待される。

注目材料は16日の中国の重要指標の発表集中日。鉱工業生産、小売売上高、固定資産投資と4-6月期のGDPなどが発表になる。17日にはパウエルFRB議長が米上院で半期議会証言を行う。また19日に米商務省が開く自動車輸入制限に関する公聴会も注目されよう。自動車業界団体のほか、日本やEU、カナダ、メキシコの関係者が証言することになっている。

来週から始まる日本の3月企業の第1四半期決算発表を控えた今週4営業日、日経平均は2万2000円台半ばから後半をしっかり固めることが肝要だ。決算発表を受けて2万3000円の壁を抜けていくためにもここでの足場固めに期待したい。今週の予想レンジは2万2300円~2万2900円とする。

広木隆 広木 隆(ひろき・たかし)マネックス証券 チーフ・ストラテジスト
上智大学外国語学部卒業。国内銀行系投資顧問。外資系運用会社、ヘッジファンドなど様々な運用機関でファンドマネージャー等を歴任。長期かつ幅広い運用の経験と知識に基づいた多角的な分析に強み。2010年より現職。著書『9割の負け組から脱出する投資の思考法』『ストラテジストにさよならを』『勝てるROE投資術


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