シンカー: 欧米の中央銀行は、堅調な経済拡大に沿う形でを金融引き締めの動きを続けている。8月のFOMCでは経済活動に対する評価が上方修正されるなど、9月の利上げの可能性が高まっていることが再確認された。英国ではBOEが政策金利を25bp引き上げることを満場一致で決め、今後も利上げペースが速まる可能性も示した。ただ、米国のインフレ統計は加速度のピークアウトの兆候を見せたり、堅調な景気拡大が続いても、インフレ率が大幅に加速しない可能性も出てきている。また、ブレギジットを巡る騒動や貿易紛争への懸念が燻り続ける中、実質経済へ悪影響が確認できないか中央銀行関係者は引き続き注視しているようだ。現時点では、実質経済への影響は限定的と判断しているようで、今後、マクロファンダメンタルスに大きな変化がない限り、中央銀行の緩やかな利上げは続くだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

最新のSGグローバル・レポートと要約

●米国経済(8/06):CPI上昇率…今年は7月がピークの可能性がある

米国の7月CPI上昇率は、前月比では「総合」が0.1%、「コア」は「低水準の」0.2%になると弊社は見込んでいる。前月比が弊社推定通りだと、前年同月比は「総合」が2.9%、「コア」が2.3%で各々6月と同じになる。また弊社は、今年のインフレ率は、7月がピークになる可能性があるとみている。

●英国経済(8/03):静かなMPCで、見込み通り25bp利上げを実施

MPC(金融政策委員会)は、市場にシグナルを示していた通り、政策金利を正式に25BP引上げ0.75%とした。票決が満場一致だったことは弊社にはサプライズだった。カンリフ氏(最近の講演を受けて)とラムスデン氏は、現状維持に票を投じるとみていた。ともあれ、MPCは通常の仕事(少しずつ緩やかに利上げを進めること)に戻る時が来た。MPCは、GDP成長率が第1四半期(Q1)に少し落ち込んだことは異常な結果で、見込み通り前期比0.4%での安定成長ペースに戻ると自信を持っているようだ。この通りに推移すれば、MPCが推定する潜在生産力の成長率を少し上回り、(予測対象期間の終わりの)3年後にGDP比0.5%の過剰需要が生じると見込まれる。このため弊社は、実際はMPCに、(自身が広く示してきた)年1回より速いペースで引締めを進める意図があるとみている。次回利上げは来年2月になると弊社は見込んでいる。またMPCも適切に強調している通り、それはブレグジットを巡る騒動が発生しないことが条件になる(ブレグジット交渉は、今年後半に終盤に入る)。予期しない結果となるリスクも依然として高いが、弊社の想定する基本シナリオは「メイ首相が非常に穏やかな交渉のかじ取りに成功して、ハード・ブレグジット(強硬なEU離脱)派は激怒するが、英国経済にはベターな結果になる」で変わらない。

●米国経済(8/02):FOMC…現在は経済活動が少し力強くなっている

8月FOMCは、声明が表面的に変更されるだけに終わった。最も目立った変更は、経済活動の拡大が(従来の「堅調な」ではなく)「力強い」と表現されたことだが、先週には第2四半期の実質GDP成長率が4.1%(前期比年率)と発表されており、サプライズではなかった。その他は文言の小幅調整だった。短く言うと、今回の(8月)FOMCは目立ったイベントにはならなかったが、FRBが9月の25BP利上げに向かっていることは変わらない。

●米国経済(08/01):コアPCE物価上昇率、2%実現のハードルが上昇

米国の6月コア PCE物価指数上昇率は、前月比が0.1%、前年同月比1.9%で、共に弊社推定通りとなった。また月次データが遡及的に変更されており、重要点は以下の通りだ。まず2017年のコアPCE物価指数(前年同月比)は、平均すると0.1%ポイント上方修正され、従来発表よりも少し底固い推移となった。2点目は、それよりも重要なことに、今年初めの5カ月(1-5月)のうち4カ月が下方修正された。この結果、短期的なインフレトレンドが、当初の発表よりもやや明確に2.0%を下回ることになった。さらに、2017年後半の月次データが小幅上方修正されたことで、コアPCE物価指数上昇率が今年の後半に2.0%に到達してそれを維持するハードルが、少し高くなった。

●外国債券(8/06):力強い足取り

経済状況の改善に伴い、世界の中央銀行は金融緩和政策の漸進的な解除を選好しているように見えるが、そこには様々なリスクが潜んでいる。イングランド銀行は大方の予想どおり利上げに踏み切ったが、政策委員の全会一致による決定は市場に驚きをもって受け止められた。世界の債券利回りは今後もレンジ内での推移が予想される。このため、短期的にはキャリー・トレードを中心とした投資戦略が妥当であろう。米国では実質利回りの10年-30年スティープナーを、英国ではポンド無担保翌日物平均金利(SONIA)の2年-5年スティープナーを推奨する。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト