証券会社の口座には3種類ある。最も手間が掛けらず、一般的に節税に向いているのは源泉徴収ありの特定口座だ。ただし、例外的に源泉徴収なし特別口座が適切なこともある。個別の事情を理解し適切な口座を選ぼう。

証券口座の種類は損益通算と確定申告の有無で異なる

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(画像=PIXTA)

先述したように、証券会社で取引口座を開設するには3種類の中から選ぶことになる。まずは特定口座と一般口座のどちらかを選び、特定口座の中でも源泉徴収ありか源泉徴収なしかを選ぶ。まず、これらの違いを簡単に把握しよう。

特定口座と一般口座

特定口座は投資家の納税の負担を軽くするために設けられた制度だ。口座内の取引について納税のための計算を証券会社などが行ってくれるのが特定口座だ。

上場株式などの売買で得られた利益は申告分離課税が適用され、20.315%の税が掛かる(所得税15%地方税5%復興特別所得税0.315%)。配当所得については売買差益と同じく20.315%の課税を選ぶか、他の所得と合わせて納税する総合課税かを選ぶ。総合課税では課税所得金額に応じた累進課税の税率が適用される。

投資での損失には損益通算が認められている。上場株式、投資信託などの売却損で赤字が出ても、それらの売却益や配当所得(申告分離課税を選択した場合)などの黒字との間で相殺することが認められているのだ。

投資の規模が小さく、少数の銘柄を年に何回か取引する程度なら自分で計算するのもさほど負担ではないかもしれない。しかし、多くの銘柄を年に何度も売買をするのならこれらの損益通算の計算は手間が掛けるし、正確に計算するのも難しくなる。一般口座ではそうした作業が必要となるが、この点を解決するのが特定口座だ。

証券会社などで口座を開設するときに特定口座を選ぶと、その特定口座内における上場株式などの売買の損益を管理し計算してくれる。その年1年間分の計算結果である「特定口座年間取引報告書」を顧客(個人投資家)と税務署に交付してくれる。このように、特定口座と一般口座では納税のために必要となる計算の手間が異なるのだ。

源泉徴収あり特別口座と源泉徴収なし特別口座

源泉徴収の有無は文字通り、納税を証券会社の方で源泉徴収してくれるかどうかの違いだ。

源泉徴収あり特定口座では、損益通算後の課税対象額に20.315%の税率を掛けた税を証券会社などで源泉徴収する。ここで課税関係は終了するので確定申告する必要がなくなる。ただ、後で述べるように確定申告しなくてはならない場合や確定申告した方が得になる場合がある。そのような場合は確定申告を選んでも構わない。

また、損益通算と源泉徴収の対象に配当金を加える場合は、配当金を総合課税ではなく分離課税として証券会社で受け取るという手続きが必要だ。具体的には、証券会社と「上場株式配当等受領委任契約」を結んで「源泉徴収選択口座内配当等受入開始届出書」を提出する。そして配当金の受取方法を株式数比例配分方式とする。

株式数比例配分方式とは、各証券会社で保有している株式数に応じた配当金をそれぞれの証券会社で受け取る方式だ。これ以外の方法だと、自宅に直接郵送された配当金領収証を持って自分でゆうちょ銀行でお金に換えるか、銀行振り込みになってしまう。

源泉徴収なしの特定口座では、証券会社などが上場株式の売買での損益通算の計算や「特定口座年間取引報告書」の作成をしてくれるのでこの点は手間が省ける。しかし、配当金との損益通算は個人が行う。納税も自分で税務署へ確定申告しなくてはならない。

源泉徴収あり特定口座のよくある誤解

誤解されがちなのが「わざわざ源泉徴収ありの特定口座を選んだのだから源泉徴収以外の納税方法はないのでは?確定申告できないのでは?」という点だ。そのようなことはなく、必要に応じて確定申告をすることもできる。

ただし、必ずしも「確定申告をすれば源泉徴収されていた税が還付されてお得になる」とは限らない。サラリーマンが節税策として医療費控除などで確定申告を行うと源泉徴収されていた税金が還付されることから、同じような効果を期待する人もいるかもしれない。

源泉徴収あり特定口座でも確定申告するケースもある

そもそも源泉徴収ありの特定口座は、その口座内でしか損益通算してくれない。他の口座での取引の分まで計算してくれないため、同じ証券会社の一般口座や他の証券会社の特定口座との損益通算は個人が自力で行うしかない。このような場合は源泉徴収ありの特定口座でも確定申告を行う。

また、源泉徴収あり特定口座内での損益通算の結果、損失が出ているときも確定申告をした方が得になる。その年に控除しきれなかった赤字を、翌年以降最長3年間繰り越して計算に含めて課税額を減らすことができる制度があり、それには確定申告が必要だからだ。

例えば、昨年200万円の損失が残って今年は利益が50万円出たとする。今年(1年目)は残った損失200万円が繰り越されて1年目の利益50万円と相殺の結果150万円の赤字となる。すると課税対象額はゼロ円となる。さらに2年目に30万円の利益が出ても、前年から残った150万円の損失と相殺して120万円の赤字となり、課税対象額はやはりゼロ円だ。3年目に40万円の利益が出ても120万円の赤字と相殺して80万円の赤字となりこの年も課税対象額はゼロ円だが、もう4年目からは繰り越せない。このような制度を繰越控除という。

繰越控除を受けるためには自分で確定申告をしなくてはならない。証券会社などは損益通算はしてくれるものの、損失が出ていた際の繰越控除の手続きまでは行ってくれないからだ。なお、その3年間は連続して確定申告をする必要がある。上場株式などを売買しなかった年も、前の年の損失を翌年へ繰り越すために申告が必要とされている。

もう1つ源泉徴収あり特別口座でも確定申告した方が良いのは、専業主婦(夫)などの場合だ。税の計算では誰にでも基礎控除(2018年現在の所得税の基礎控除は38万円)が認められている。所得からこの基礎控除の金額を差し引いた額が本来の課税対象額であり、これを考慮せずに源泉徴収された納税額の方が本来の税額より多い場合は差額を還付してもらえる。そのためには確定申告することが必要となる。このケースでは所得税の還付が受けられる場合が多いが、後で述べるように配偶者控除や配偶者特別控除、その他の面で増税になる可能性もあるので要注意だ。

確定申告で還付があっても得になるとは限らない

源泉徴収ありの特定口座でも、確定申告を行うことで源泉徴収されていた税が還付されることがあり、この点だけ見ればお得だといえる。しかし、確定申告をせずに源泉徴収で課税関係を終了していれば利益が合計所得金額に含まれないのに対し、確定申告をするとその人の合計所得金額に反映されてしまう点には重々気を付けたい。合計所得金額が高いとさまざまなデメリットがある。

合計所得金額に反映されることで世帯の納税額が多くなる身近な例は、配偶者控除や配偶者特別控除を受けるときだ。これらの控除を受けるには、その配偶者の合計所得金額に制限がある。夫が主な給与所得者であった場合、配偶者(妻)の合計所得金額(収入から給与所得控除を差し引いたもの)が配偶者控除は38万円以下、それを超えたときに適用される配偶者特別控除では123万円以下ならば夫に所得控除が認められる(配偶者特別控除は配偶者の合計所得金額が83万円を超えると段階的に減っていく)。配偶者が確定申告をすると株式等での利益も配偶者の合計所得金額に含まれてしまい、夫の所得控除が減るかなくなるかする恐れがある。

配偶者控除と配偶者特別控除は2018年から大きく制度が変わっている。最新の制度を踏まえ、所得控除が減ることで世帯として増税となる金額と、配偶者本人が投資で得た利益にかかる所得税の還付を受ける金額とを比較して損得を検討する必要がある。

また、納税者本人の合計所得金額が3000万円を超えてしまうと、住宅ローン減税やマイホームを売却して損失が出た場合の救済措置が受けられないことがある。所得が高い人は意識しておこう。

なお合計所得金額とは繰越控除で赤字を差し引く前の金額を指すことにも注意が必要だ。

以上は所得税(国税)の話だが、合計所得金額が地方税や地方公共団体のサービスに影響を与えることがある。サラリーマンにはあまり縁がないが国民健康保険の保険料などが合計所得金額に影響される。また、地方税が非課税となるかどうかの判定にも合計所得金額が用いられる。

確定申告をすると、合計所得金額に金融取引の利益が合算された状態で地方公共団体に届いてしまう。しかし、2017年から、配当所得については、所得税の確定申告書とは別に個人住民税の申告書が地方公共団体に提出された場合にはそちらも勘案して決定することとされている。所得税で確定申告しても地方税で申告不要とすることも可能だ。ただ、具体的な取扱いは地方公共団体によって異なるので問い合わせておこう。