若き起業家がたどりついた「凡事徹底」の重要性
東京大学在学中に学習塾を立ち上げて10年。実業家として教育業界に旋風を巻き起こし続ける清水章弘氏が手がける事業は、学習塾経営や公教育支援、講演など多岐に渡り、勉強本でもベストセラーを多数上梓している。その多忙な日々を支えるのは、10代で考案した整理術――身の回りのみならず、タスクや思考の整理も含めた「時間捻出のワザ」だ。だが、それは単なるテクニックではなく、ひとつの「仕事哲学」を形成するに至っているという。
整理整頓は、「小さなモノ」から着手する
学習塾の運営を中心に、多角的に教育事業を展開する清水章弘氏は、「デスクの整理」に並々ならぬこだわりを持っている。その目的は「時間を生み出すこと」であり、原点は高校時代にあるという。
「海城中学・高校在学中は生徒会長と応援団長を務め、他にサッカー部の活動、文化祭実行委員なども行なっていました。それらと並行して東大を目指す――となると、時間が圧倒的に足りないわけです」
そこで、時間を捻出するために行なったのが、日常の行動の洗い出しだった。結果、探し物や準備といった時間に、想像以上に時間が取られていることがわかった。
「これらをカットするにはどうしたらいいか。その結論が『身の回りをシンプルにする』ことでした。余計なモノを持たなければ必要なモノがすぐに見つかるし、準備に時間もかからない。そのぶん時間を作れると考えました」
そこでまず、実践したことがある。それが「小さくしてみる」という発想で身の回りのモノを見直すことだ。
「まずは一番自分の近くにあった『筆箱』を、思い切って小さいサイズのモノに変えてみたのです。すると、必要なものだけを厳選して入れることになったため、モノが整理でき、しかも必要なものがすぐに取り出せる。筆箱の中をゴソゴソ探るような時間のロスもなくなりました。
その後はこうした小さな整理整頓を、カバンの中、デスク、そして自室と、徐々に範囲を広げていきました。その結果、いつのまにか身の回りのモノがすべてシンプルになり、時間を最大限に有効に使えるようになったのです。
整理のコツは、手元にある小さなモノを、さらに小さくしていくことから始めるといいと思います。それによって、無理なく整理整頓の習慣が身につくのです」
こうして多忙な中でも東大に見事合格した清水氏は、整理の別のメリットにも気づいたという。
「モノを少なくするためには、要不要の判断を繰り返さなくてはなりません。それが決断力や思考力を高めてくれたようで、勉強の効率も上がっていったのです」
「紙減らし」は、20分のまとめがコツ
あえてサイズダウンすることで整理整頓を実現する、という方針は、企業経営を行なう今も徹底している。
「たとえば私は小さなマグカップを『ゴミ箱』として机の上に置いています。かさばらず、こまめに捨てに行く習慣もつくので、机が汚れないからです。
また、こうした働き方を社内に浸透させる際には、あえて他の社員よりも小さな机を使って仕事をするようにしました。必要最低限のモノだけを机に置くことが、むしろ仕事の精度を上げる。そのことを率先垂範で社員に示したことで、自然と浸透していきました。今では終業後は何も置かないというルールが全社員に徹底されています。
常に整理が行き届いているので、改めて片づけの時間を取る必要もなくなりました。年末も『大掃除ゼロ』です」
清水氏のオフィスには「紙の資料」がほとんどないのも特徴だ。だが、単に「紙減らし」をしているわけではない。
「紙の会議資料はスキャンして破棄するのが基本です。ただ、スキャンする前に『復習』するようにしています。20分ほどの時間をかけ、自分の言葉でまとめたサマリーを作るのです。資料を破棄するのはそれが終わってからです。
自分の文で書き直すことで記憶に残り、思考も整理できるのです」
積み重ねが大事だと気づかされた失敗体験
清水氏はことあるごとに社員に「整理・整頓」の重要性を説く。その理由は、自らの失敗にあったという。
「7年ほど前のことなのですが、急成長に伴い、売上げが急激に増えたことで手持ち資金がショートし、黒字倒産しかけたのです。キャッシュフローの管理は経営の基本。前ばかりを見て自分たちの足元を見つめることを怠ったのが原因でした。日頃生徒たちには『当たり前を積み上げる大切さ』を説いているのに、それができていなかったのですね。
以後、改めて小さな改善の積み重ねを繰り返し、事業を復活させることができました。そんな自分の原点を見つめ直すという意味でも、身の回りの小さい整理を積み重ねることを心がけているのです」
清水章弘(しみず・あきひろ)㈱プラスティー教育研究所代表取締役
1987年、千葉県生まれ。東京大学在学中、学習塾「プラスティー」を設立。事業と学業を両立し、同大学大学院教育学研究科修士課程を修了。現在は学習塾経営の他、青森県三戸町教育委員会学習アドバイザーやタカミブライダル educational designer、NHK Eテレ『テストの花道ニューベンゼミ』出演、朝日中高生新聞や雑誌『螢雪時代』での連載などでも活躍。『現役東大生がこっそりやっている、すごい! 勉強のやり方』(PHP研究所)をはじめ著書多数。《取材構成:林加愛 写真撮影:まるやゆういち》(『The 21 online』2018年5月号より)
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