遺産分割協議書は相続の手続きで必要になることが多いですが、すべての人が必ず作成しなければならないものではありません。遺産分割協議書を必ず提出しなければならない手続きがある一方で、遺産分割協議書がなくてもできる手続きもあります。

この記事では、どのようなときに遺産分割協議書が必要か、必要であればどのようにして作成すればよいかについて詳しくお伝えします。遺産分割協議書が必要かどうかでお困りの方はぜひ参考にしてください。

1.遺産分割協議書はどのようなときに必要か

遺産分割協議書
(画像=税理士が教える相続税の知識)

遺産分割協議書とは、相続人どうしで遺産の分け方(遺産分割)について話し合った結果を書き残したものです。遺産相続のあらゆる手続きで必要になるほか、相続人どうしで話し合った内容を記録する目的もあります。

この章では、相続手続きで遺産分割協議書が必要な場合となくてもよい場合をご紹介します。

1-1.遺産分割協議書が必要な場合

相続手続きで遺産分割協議書が必要になるのは、主に次のような場合です。

  • 不動産の相続登記をする場合
  • 相続税の申告をする場合
  • 預金口座が多い場合
  • 相続人どうしのトラブルが予想される場合
  • 不動産の相続登記をする場合

不動産の相続登記手続きでは、多くの場合で遺産分割協議書が必要になります。

不動産を法定相続分で分ける場合は遺産分割協議書がなくても手続きができますが、不動産を法定相続分で分けることはおすすめしません。

法定相続分で分けるときは、相続人の誰かが単独で登記することができてしまいます。手続きが簡単で良いことにも思えますが、手続きをした人にしか権利証(登記識別情報通知)が発行されず、後でトラブルになる恐れがあります。また、複数人で不動産を共有すると、将来売却するときに合意形成が難しくなってしまいます。世代が進むにつれて承継者が増えることで収拾がつかなくなる恐れもあります。

相続税の申告をする場合

相続税の申告手続きでも、多くの場合で遺産分割協議書が必要になります。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などを適用する場合は、必ず遺産分割協議書を提出しなければなりません。

預金口座が多い場合

故人の預金の引き出しは、金融機関が指定する用紙に相続人全員が記入すれば、遺産分割協議書がなくても手続きができます。預金口座の数が多い場合は手続きのたびに全員で用紙に記入することが負担になりますが、遺産分割協議書を作成して金融機関に提示すれば負担は軽減できます。

預金引き出しの具体的な手続きについては、取引している金融機関の窓口で確認してください。

相続人どうしのトラブルが予想される場合

遺産分割協議書は相続手続きに使うだけでなく、遺産をめぐる話し合いの内容を記録する意味でも重要な書面です。相続手続きで特に必要ない場合でも、相続人どうしのトラブルが予想される場合は遺産分割協議書の作成をおすすめします。

1-2.遺産分割協議書がなくてもよい場合

相続手続きで遺産分割協議書がなくてもよいのは、主に次のような場合です。

  • 相続人が1人だけの場合
  • 遺言書のとおりに遺産分割する場合
  • 遺産が現金・預金だけの場合

相続人が1人だけの場合

相続人が1人だけの場合は、遺産をすべて1人で相続するため遺産分割協議書は不要です。相続の手続きでは、戸籍関係の書類で相続人が1人であることが確認されます。

遺言書のとおりに遺産分割する場合

遺言書があってそのとおりに遺産を分ける場合は、遺産分割協議書は不要です。相続の手続きでは遺言書を提出します。

遺言書が自筆証書遺言か秘密証書遺言である場合は、家庭裁判所で検認を済ませておく必要があります。遺言書の検認については、「自宅で遺言書が見つかったときは「検認」が必要」を参照してください。

遺産が現金・預金だけの場合

故人が自宅で保管していた現金を分け合うときはどこかに届け出る必要はないため、遺産分割協議書を作成する必要もありません。預金は、金融機関が指定する用紙に相続人全員が記入すれば引き出すことができます。

ただし、遺産分割協議書を作成する必要がない場合でも、協議内容を記録して相続人どうしのトラブルを防ぐためには遺産分割協議書を作成しておくことをおすすめします。

2.遺産分割協議書を作成するには

遺産分割協議書は、ひな型(文例)を参考にして自分だけで作成することができます。この章では、遺産分割協議書が必要なときに自分で作成する方法をお伝えします。

2-1.ひな形を利用して作成

自分だけで遺産分割協議書を作成するときは、下記の記事でご紹介しているひな型を利用することをおすすめします。「通常の場合」、「代償分割をする場合」、「特別代理人を立てる場合」の3つのひな型を用意しています。

ひな型をダウンロードして完全解説!遺産分割協議書の書き方の決定版

「通常の場合」のひな型で作成した遺産分割協議書のサンプルは下の図のとおりです。

遺産分割協議書
(画像=税理士が教える相続税の知識)

詳しい書き方や注意事項については上記の記事で詳しく解説していますが、注意事項をいくつか抜き出してお伝えします。

  • 不動産の内容は登記事項証明書(登記簿謄本)のとおりに記載する
  • 預金口座は金融機関の名称だけでなく支店・預金種別・口座番号まで記載する
  • 死亡保険金・死亡退職金については記載しない
  • 後で財産が見つかったときにどうするかを記載する
  • 実印で押印する
  • 複数のページにまたがるときは製本と割り印をする
  • 少なくとも税務署に提出する分は手書きで署名する

死亡保険金・死亡退職金は受取人の固有財産であり、遺産相続で分け合う対象ではありません。したがって、遺産分割協議書には記載しません。

相続人の氏名はできれば手書きで署名するようにしましょう。相続登記などではパソコンによる出力でも構いませんが、相続税の申告では手書きの署名を求められる場合があります。書きなおしの手間を避けたいのであれば、はじめから手書きで署名することをおすすめします。

2-2.専門家に依頼した方がよい場合

遺産分割協議書は自分で作成できますが、次のような場合は専門家の助けを借りた方がよいでしょう。遺産分割協議書の作成だけでなくその前提となる遺産分割についてもアドバイスを受けられます。

  • 相続人どうしで争いが起きている
  • 相続人の関係が複雑である
  • 遺産の数や種類が多い
  • ひな型を参照しても自分で作成できる自信がない
  • 遺産分割協議書を作成する時間がない

遺産分割協議書の作成についてどの専門家に相談すればよいかについては、おおむね次のように分類できるので参考にしてください。

  • 弁護士:相続人どうしで争いが起きている場合
  • 行政書士:相続財産が現金・預金のみで相続税申告が不要な場合
  • 司法書士:相続財産に不動産があって相続税申告が不要な場合
  • 税理士:相続税申告が必要な場合

3.まとめ

相続手続きで遺産分割協議書が必要かどうかは、どのような遺産をどのように相続するかによって決まります。遺産に不動産がなく相続税申告の必要がない場合は、遺産分割協議書がなくても相続手続きができます。遺言書があってそのとおりに遺産を分け合うときも、遺産分割協議書は必要ありません。

上記の場合以外の相続では基本的に遺産分割協議書が必要ですが、ひな型を参考に自分で作成することができます。専門家に作成を依頼する場合は、状況に応じて適した専門家を選ぶようにしましょう。

(提供:税理士が教える相続税の知識