はじめに

IT婚活時代
(画像=PIXTA)

当シリーズでは、近年、大きく変容しつつある婚活のスタイルについて、

情報技術は人々の活動様式を変えるだけではなく「結婚への価値観」にも影響を与えている

という視点から、情報技術の「リテラシー・検索・推薦」などが個人の活動にもたらす意外な影響、事象の「裏側」を紹介し、パートナー探しを進める読者の皆さんが迷子にならずに進めるよう、サポートすることを目的として執筆しているものである。

第2回は、「フィルターバブルの罠」について解説したい。

フィルターバブルの罠

第1回のうまくいかない時にこそ「データを用いて意味づけが単純化されている話に飛びつくのはやめよう。簡単に目的達成できる、というビジネスには乗るな」という話の次に、フィルターバブルの話をしたい。

ここに、納豆がちょっと嫌いなAさんがいたとしよう。

あるとき「ネットで」納豆が大嫌いな人の記事を見つけた。納豆の悪口ばかり書いてある。ふーん、と思って読んでみると、隣には同じように納豆嫌いの記事がある。気になったのでそれも見てみた。

この時、ニュースサイトの推薦エンジンは「この人は納豆嫌いの記事をいくつも読んでいる。きっとアンチ納豆記事が好きなんだな」と認識するのである。

以後、納豆嫌いの記事がサイト内で目に付くようにAさんに推薦されるようになる。Aさんは納豆嫌いの記事が並ぶサイトを眺めつつ「意外と納豆嫌いは多いのだな」と思い、納豆の悪口記事ばかりを読んでいるうちに、納豆排斥主義者になってしまったのだった・・・。

これは納豆なら笑い事で済む。しかし、これが度の過ぎた愛国主義や、人種差別主義の記事だったらどうだろう。このように、推薦エンジンの機能によってフィルターがかかりることで特定の記事が多く提示されるようになり、それを読み込むうちにいつのまにか思想や価値観が偏ってしまうことを、「フィルターバブル」という。

株を買う人がたくさんあらわれて、制御がきかないくらい株が暴騰するのと同じように、推薦エンジンが特定の種類の記事のみをフィルタリングして提示するようになることによっておこる、いわば「価値観のバブル」なのである。このバブルにおいて、推薦エンジンにも、記事の発信者にも、悪意はない。悪意のないところから、個人の強い偏見が生まれてくるところがフィルターバブルの怖さである。これに関しては思い当たる読者も多いのではないだろうか。

最近ニュースのトップページにやたら猫の話題が出てくることが多いなあ、グルメのネタが多いなあ、など感じている人は少なくないのではないだろうか。実はそれは自分の過去の検索結果・サイトへのアクセス結果がそう導いているのである。

こういった現象は、なにもインターネットだけに限らない。最近、少年の犯罪が増えた、凶悪犯が増えた、夜道を女性が歩けなくなった、という意見を聞く。

「そういうニュースを聞いたから、よく聞くから」が理由である。しかし、犯罪の統計を見ると、強姦、窃盗、殺人など主な重犯罪は戦後急激に減少して今に至っているのがわかる(図表1)。

IT婚活時代
(画像=ニッセイ基礎研究所)

つまり、今が一番安全な時代なのである。

IT化によってネットの向こうに簡単に身近な情報までも広がるようになった。

紙媒体の新聞記事やテレビのニュース番組であれば、掲載枠・放送時間枠という情報量制限がかかるが、ネットサイトであればかなりの情報量を搭載することも可能である。そのために起きるようになった現象である。従来であれば目にすることのなかったような身近な情報も、サイトの向こう側には目につくほど多く掲載されている時代となったのである。

アメリカとソ連の冷戦時代が終わり、ベルリンの壁が倒壊されて、大枠では世界が平和な方向に向かうと、ニュースはより身近な犯罪を取り上げるようになる。

その結果、人々は急に身近な犯罪記事を多く目にするようになり不安になる、という図式があるのであれば、なんとも皮肉なことである。

では、パートナー探しにおいてフィルターバブルに陥らないようにするにはどうすればいいか。

答えは簡単で、「逆さまのことを考える」。

いくつかの方法を挙げてみたい。

(1)一時点ではなく、推移を調べる

年の差婚が増えた!?と目にしたら、「やはり女性は金持ちの年上好きか・・・」などと落胆せず、昔からの年の差婚の割合の推移を調べる。実際は年の差婚は減少の一途である。そして、年上妻割合がいまや4組に1組である。

(2)トレンドに流されてカッコイイ判断をしていないか、考える

晩婚時代到来!と言われたら、「そうかまだ結婚は早いのか」「ヤンママかっこわるい」などと時代の潮流と自分の人生を安易に一体化せず、まず身近で若く結婚した人、若いうちに結婚したいと思っている人の気持ちや事情を広く知ろうと考える。

(3)もう1つの「真逆の人生」を想像する

少子化・結婚したくない男女増加!と言われたら、「なら俺も子どもはいいかな、ぼっちもいいかな」ではなく、子の多い人の人生、パートナーがある自分の人生のメリットも考えてみる。

常に、流される方向と逆の視点を持つようにする。これだけで十分、流されたパートナー選びの悲劇から逃げることができるだろう。

バブル時代、「ニート・フリーター増加」という一見キャッチーな言葉に踊らされ、職業人生の最初に流され、その後辛酸をなめた人々がいる。

ネットの情報 は、自分の目に入る情報が(個人の検索のクセによって)偏りやすい・(検索結果の応用として)偏って提示されることや、不完全であることに気づきにくい。

推薦やランキングのアルゴリズムの影響に流されないよう、落ち着いた視点で、運命の人を探すようにしたいものである。

天野馨南子(あまのかなこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 研究員

宇野毅明
国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系 研究主幹

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