残高証明書は指定した日の預金残高を銀行が証明するものです。相続の手続きでも銀行の残高証明書が必要になる場合があります。
残高証明書の取得は、通常は名義人本人または代理人が手続きを行います。ただし、相続のために取得する場合は、本人が死亡しているため通常とは異なる手続きが必要です。
この記事では、相続が始まってから(名義人が死亡してから)口座の残高証明書を取得する方法についてお伝えします。
1.残高証明書は遺産分割と相続税申告に必要
多くの人は銀行に預金の口座を持っています。ローンなど借り入れをしている人もいるでしょう。預金は相続の対象であり、借入金もマイナスの財産として相続の対象になります。相続では故人が死亡した時点の預金や借入金の残高を明らかにする必要があります。
ある特定の時点の預金や借入金の残高を証明するものとして残高証明書があります。相続では主に次のような場合に必要です。
- 遺産分割のための残高確認
- 相続税申告書の添付書類
遺産分割のための残高確認
相続人どうしで遺産分割について話し合うときは、遺産がいくらあるかを明らかにしなければなりません。預金や借入金の残高を証明するために残高証明書を取得します。
預金は通帳記帳で足りる場合もありますが、最近は通帳のない口座が多くなっています。また、借入金には通帳がないので、死亡時点の残高は個別に確認しなければなりません。
相続税申告書の添付書類
相続税の申告書には、預金や借入金の残高がわかる書類の添付が求められています。相続税申告書の添付書類として残高証明書が必要になります。
別途、経過利息計算書が必要になることもあります。定期預金の利息は満期日に付与されますが、預入期間の途中で名義人が亡くなった場合は、預入日から死亡日までの経過利息も相続税の課税対象になります。
2.故人の預金口座を調べる方法
残高証明書は、故人が取引していた銀行の支店ごとに取得の手続きをします。
故人が遺言書や財産目録を残していて、どの銀行のどの支店に預金口座があるかがわかればよいのですが、多くの場合は故人の預金口座の所在を調べるところから始めなければなりません。
2-1.一般的な方法
故人の預金口座の所在を調べるには、次のような方法があります。
- 預金通帳・キャッシュカードを探す
- 借入の契約書・返済予定表などを確認する
- 故人あての郵便物を確認する
まず、故人が持っていた預金通帳とキャッシュカードを探します。定期預金では預金証書が発行されていることもあります。借入金については、契約書や返済予定表などを確認します。
故人あての郵便物を確認することも有効な方法です。銀行からの郵便物も取引関係を調べる手掛かりになります。
2-2.ネット銀行・無通帳口座の場合
最近はインターネットを通じて取引をするネット銀行が普及しています。従来の銀行でもインターネット取引の普及で通帳のない口座(無通帳口座)があります。
ネット銀行や無通帳口座では通帳が発行されず、銀行によってはキャッシュカードも発行されない場合があります。
預金通帳やキャッシュカードがなければ故人の預金口座を調べることは難しくなりますが、次のような方法で調べることができます。
- 故人あての郵便物を確認する
- パスワードを生成するカードやトークンがないか確認する
- 故人あてのメールやスマートフォンアプリを確認する
- 他の銀行口座の入出金記録を確認する
ネット銀行や無通帳口座では、インターネットでログインするための情報が書かれた書面やカードが郵送されます。また、取引に使用するパスワードを生成するカードやトークンと呼ばれる端末(下図参照)が送られることもあります。そういったものが残されていないか確認するとよいでしょう。
ネット銀行では連絡事項の大半はメールで行われ、取引のつどメールが送信されることもあります。故人が使っていたパソコンや携帯電話・スマートフォンを確認できるのであれば、受信メールも取引関係を調べる手掛かりになります。スマートフォンに銀行の取引専用アプリが入っている場合もあります。
このほか、他の銀行からの入出金の記録も手掛かりになります。たとえばキャッシュカードがない口座では、他の銀行の口座を経由してお金を出し入れせざるを得ないため、その口座の通帳に送金の記録が残ります。
2-3.ゆうちょ銀行では現存調査をしてもらえる
ゆうちょ銀行では、故人の貯金の有無が不明な場合に現存調査をしてもらうことができます。
郵便局の窓口にある「貯金等照会書」に必要事項を記載して提出します。このとき、貯金の名義人と相続人の関係を示す戸籍謄本などが必要になります。詳しくは下記のページを参照してください。
3.残高証明書の取得手続き
故人の預金口座の所在がわかれば、それぞれの銀行で手続きをします。店舗がある銀行は原則として支店の窓口で手続きをしますが、ネット銀行では電話と郵送で手続きをすることになります。
この章では、銀行で残高証明書を取得するときの基本的な手続きについてお伝えします。詳しい手続き方法や必要書類については、それぞれの銀行に直接確認してください。
なお、必要書類の準備や残高証明書の発行には時間がかかるため、早めに準備することをおすすめします。
3-1.銀行に残高証明書の発行を依頼する
残高証明書を取得するには、故人が取引していた銀行の支店の窓口で発行を依頼します。同じ銀行でも別の支店で手続きをすると、発行までに時間がかかることがあります。ネット銀行の場合は、カスタマーセンターなど所定の窓口に電話で連絡します。
手続きができる人
手続きは相続人、遺言執行者、相続財産管理人のうちのいずれか1名で申請できます。
死亡日時点の残高証明書を依頼する
残高証明書は名義人が亡くなった日のものを取得します。
- 残高証明書の取得に必要なもの
- 名義人が死亡したことがわかる戸籍謄本等(「法定相続情報一覧図の写し」でも可(※))
- 申請者と名義人との関係がわかる戸籍謄本、遺言書、審判書など
- 申請者の実印と印鑑証明書
- 預金通帳・預金証書・キャッシュカードなど
- 所定の手数料
銀行によってはこれら以外のものも必要になることがあります。
(※)「法定相続情報一覧図の写し」は、法務局で手続きすることで交付が受けられます。詳しくは下記の記事を参考にしてください。
3-2.残高証明書を取得すると口座が凍結される
残高証明書を取得するときは、預金口座が凍結されて入出金ができなくなることに気をつけなければなりません。
他の人による不正な引き出しを防ぐため、銀行は預金の名義人の死亡を知った時点で預金口座を凍結します。預金口座が凍結されると引き出しができないほか、公共料金などの自動引落もできなくなります。入金を受けることもできません。
相続人や遺言執行者などが残高証明書を取得すれば、銀行は預金の名義人の死亡を知ることになり、預金は凍結されてしまいます。
凍結された口座からお金を引き出すためには、別途、相続手続きが必要です。名義人と相続人の戸籍謄本のほか、遺言書があれば遺言書を、相続人どうしで遺産分割協議をした場合は遺産分割協議書を提出します。残高証明書の発行と相続手続きを並行して行う銀行もあります。
原則として亡くなった名義人の預金は凍結されますが、葬儀などでどうしてもお金が必要な場合は、個別に対応してもらえる場合もあります。そのような事情があるときは、銀行の支店の窓口で相談されることをおすすめします。
4.まとめ
以上、相続が始まってから銀行の残高証明書を取得する方法についてお伝えしました。残高証明書は遺産の額を明らかにする目的のほか、相続税申告書の添付書類としても必要になります。
残高証明書の取得は、故人が取引していた銀行・支店ごとに手続きが必要です。遺言書や財産目録などで預金の明細が整理されていなければ、故人が持っていた口座を調べるところから始めなければなりません。この記事では、故人の預金口座を調べる方法も詳しくお伝えしました。
実際に残高証明書を取得されるときは、手続きの方法や必要書類などについてそれぞれの銀行に確認してください。
(提供:税理士が教える相続税の知識)