企業経営において、「理念」や「ビジョン」が大切ということはご承知のとおりかと思います。会社の理念やビジョンを社内に貼り出し、ホームページに公開することはもちろんのこと、毎週のように朝礼で唱和している会社もあるかもしれません。しかし、あらためて、自社の価値は?と問われると返答に窮してしまう方が多数いらっしゃるようです。

理念やビジョンが組織の末端にまで浸透していない原因の1つは、価値観の共有ができていないことにあります。では、理念やビジョンと価値観はどのように違うのでしょうか。また、それらはどのように関係しているのでしょうか。

理念(ミッション)で良い会社は作れるのか

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(写真=Backgroundy/Shutterstock.com)

経営理念あるいはミッションを明確にして企業経営に活かす「理念経営」という考え方があります。確かに、理念は「企業がどのような社会的使命を持っているか」を認識することで、「将来、会社がどうあるべきか」というビジョンを導き出すためにも欠かせないものといえます。

しかし、一現場の従業員にとっては「どこか押し付けられている」という感覚を覚える人もいないとは言い切れません。結果、理念ばかりが空回りして、実際に組織を動かすための原動力に直結しない、つまり、理念やミッションを持つだけでは良い会社とは言えないのはおわかりいただけるかと思います。

企業経営にあたり、理念の掲揚は不可欠ですが、同時に理念からのトップダウンだけでは満たせない面があります。経営者も、従業員も、顧客も全員が満足する企業を求めるのであれば、従業員一人ひとりが自分たちの会社の価値観を理解・共感することで、従業員自身が、「この仕事を本当にやりたい」と思えるよう変革を促すこと、すなわち、企業の価値観を共有することで組織行動を変えていくというのが本来あるべき企業の姿なのです。

価値観の共有が企業の未来を生み出す

企業の中で大切にすべき価値観、すなわち、顧客やステークホルダーに企業が提供する「本質的な価値」を従業員と共有することで、従業員自らが主体的かつ自律的に行動するような経営のあり方、こうした価値を中心とした組織変革を「価値経営」と呼んでいます。

当然ですが、価値はやがて「利益」という目に見えるものに変わっていきます。顧客に対して価値を提供し続けることが企業の使命であり、そうであるからこそ安定的な利益が生まれ、企業も永続していく 、そのような好循環こそが企業経営の目指すべき姿であり、経済社会もそうした考え方を自然と受け入れられる風潮になりつつあります。

従業員にも個人事業主にも共通する仕事のスタンス

理念はあるべきものですが、その理念と自分の行動がどう結びついているかがわかっていなかったら、それはただ唱えるだけのものになってしまいます。「自分が今やっている行動は世の中にその理念をどのように体現しているか」、シンプルにいえば「どうして相手は私に仕事を頼むのか」ということを理解して、それを堂々と伝えていこうというスタンスが大切です。

たとえば、名刺交換のときに「私は営業の仕事をしています」とだけいったら当然ライバルは山ほどいます。そうではなく、「あなたどういう人か」と問われたときに「私が得意なのはとにかく一緒になってお客様の利益を最大化する方法を考えることです」ということができれば、「それでは、あなたに頼もうかな」ということにもなるのです。

もし、従業員一人ひとりがこのようなスタンスで仕事をしていれば、それが一つの会社の価値観を構成していくことになり、組織にとって強力な経営資源にもなるわけです。

価値観から導き出される言葉や行動は強い ~ 価値発掘のススメ

こうした価値観の共有からもたらされる従業員の言葉や行動は、もしかすると経営理念や社訓とまったく同じような内容のものかもしれません。しかし、それはそれで素晴らしいことです。単に紙に書いていた理念を読み上げただけとは意味合いが異なります。

もし、共有できるような価値観などあるのだろうか、とお考えの方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度、組織内で「価値の発掘」を実施してみてはいかがでしょうか。適切なプロセスでおこなえば、意外と「社長の思い」と同じ言葉に集約されていくものです。

価値はプロ意識を高める

価値やバリューという言葉は、使い勝手の良い言葉ではありますが、実際には意味深く、企業経営にとって有用性の高い言葉であることがおわかりいただけましたでしょうか。あくまでも「価値」の対価が「お金」という経済活動の原理原則を鑑みると、「価値」の追究は当然の帰結かもしれません。

従業員一人ひとりが、自社のサービスないし自分自身の「価値」に気づいて日々の業務に携わることができれば、その対価として適正な報酬をいただくという意識も高まり、プロフェッショナル意識が芽生えますし、「価値」を意識すると、もっと高い価値を提供できないかという欲求も芽生えます。従業員にとっては自分自身の存在価値を感じることができますし、使命感も出てくるでしょう。実は、価値を考え抜くことは「やりがい」を高める効果も期待できるのです。

社内からの視点だけでは価値に気づけないことも

ただ、企業に内在する価値は、経営者や組織に属する従業員からすれば、当たり前過ぎて気づきにくいことも少なくありません。そのような場合はよく注意をして、従業員や顧客の声に耳を傾けたり、ときには外部の第三者に意見を聞いてみたりすることで、そこを乗り越えることが必要です。そうして企業は自社の価値を見出し、わかりやすく言語化することによって、組織で共有できるところまで落とし込みます。もちろん、それを組織全体に伝え続け、環境の変化に応じて見直すことも大事です。

今後国内では大きな経済成長は望めず、成熟社会で需要も飽和気味です。それでもなお他社との競争に打ち勝って存続していくためには、「価値経営」の考え方を企業戦略のベースに置き、より長期的な目線で顧客への提供価値を磨き続ける方法が有効ではないでしょうか。(提供:みらい経営者 ONLINE


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