仮想通貨の流出事件の影響もあってか、日本では仮想通貨・暗号通貨のブームが終わったという見方もありますが、投資家保護に向けた動きなども背景に、市場の復活とさらなる伸びを期待する声もあります。こうした中、明確化した仮想通貨税制を理解して投資を続けている人や、新たに投資をスタートする人は日本でも少なくありません。

投資家保護の動きが本格化

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(写真=Peshkova/Shutterstock.com)

投資家保護に向けた動きを牽引するのが金融庁です。顧客資産の保護などを目的に規制強化に本格的に乗り出し、仮想通貨交換業者に対する立ち入り検査も行われるようになりました。仮想通貨の自主規制業界団体である日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)も外部技術組織の立ち上げによって、サイバー攻撃に対するリスクの最小化に努めています。

大手企業の仮想通貨市場への参入も相次いでいます。黎明期の仮想通貨業界ではスタートアップやベンチャー企業が躍進しましたが、仮想通貨の流出事件などの発生からも分かるように、セキュリティ面の対策は十分とは言えない状態でした。金融業界での豊富な経営ノウハウを持つネット証券会社などの参入で、より安全な投資環境が整っていくことが期待されます。

2009年のビットコイン誕生から10年近く経った今、不確実性や不透明性が否めなかった仮想通貨が、やっと黎明期を抜けつつあると言えるでしょう。

仮想通貨の所得は「雑所得」、給与など以外で20万円を超えると確定申告が必要

実際に仮想通貨投資を行う場合には、税制の理解が欠かせません。

まず理解しておきたいことは、ビットコインなどの仮想通貨を購入・保有しているだけでは課税対象にならないということです。その仮想通貨を売却したり、その仮想通貨で買い物をしたり、ほかの仮想通貨と交換したりすることで、税務上の「所得」が生じたときに課税対象となります。

所得には「給与所得」や「退職所得」、「不動産所得」、「雑所得」などの種類がありますが、仮想通貨で生じた所得は「雑所得」に該当します。

サラリーマンの場合、通常は会社が年末調整を行うので確定申告をする必要はありませんが、給与所得と退職所得以外の含む所得が20万円を超えると、確定申告をする必要があります。この「給与所得と退職所得以外の含む所得」には雑所得も含まれます。

つまり、仮想通貨だけで20万円以上の雑所得が生じた場合や、不動産所得などと合算して20万円以上の所得があった場合は確定申告をする必要があるのです。

仮想通貨の所得への課税 45+10で最大「55%」に

サラリーマンが確定申告を行うとき、まず仮想通貨で得た雑所得などを給与所得と合算し、「所得金額」が算出されます。例えば、給与所得が1,500万円あり、仮想通貨での所得も100万円あった場合には、所得金額は「1,500万円 + 100万円 = 1,600万円」となります。不動産所得などもある場合は、この金額に加算されます。こうして計算された所得金額に応じて所得税が課税されます。

所得税は、所得金額が高くなればなるほど税率も高くなる累進課税制度で、税率は5~45%の間で設定されています。また所得金額の10%を住民税として支払う必要もあります。ちなみに、よく仮想通貨の税率は「最大55%」と表現されていますが、これは所得税の最高税率45%と住民税の10%を合算すると55%になることが由縁です。

所得税は195万円を超えると控除額も設定されています。ここでいう控除額とは、所得金額に税率を乗じた額から差し引く金額のことです。

所得金額ごとの税率と控除額は以下の通りです。

所得金額……税率/控除額
195万円以下……5%/0円
195万円を超え 330万円以下……10%/9万7,500円
330万円を超え 695万円以下……20%/42万7,500円
695万円を超え 900万円以下……23%/63万6,000円
900万円を超え 1,800万円以下……33%/153万6,000円
1,800万円を超え 4,000万円以下……40%/279万6,000円
4,000万円以上……45%/479万6,000円

課税対象となるケース(1) 仮想通貨を売却したとき

続いて、仮想通貨で所得が生じる主なケースとして、仮想通貨を売却した場合、仮想通貨で商品を購入した場合、仮想通貨を別の仮想通貨に交換した場合を例として、それぞれで所得金額の計算方法を説明します。計算においては、元々その仮想通貨を何円で購入したのかを示す「取得価額」が重要です。

保有していた仮想通貨を仮想通貨取引所などで日本円に換金した場合は、換金額から所得価額を差し引いた額が所得金額になります。例えば100万円で購入した仮想通貨が値上がりし、120万円で売却した場合には「120万円 − 100万円 = 20万円」が所得金額となります。

課税対象となるケース(2) 仮想通貨で商品を購入したとき

ビットコインなどを決済に使って商品を買った場合は、支払いに使ったビットコインの取得価額から商品の時価を差し引いた額が所得金額となります。ここでいう時価とは、その商品を日本円で支払う場合の額のことです。

例えば、取得価額が80万円のビットコインで時価120万円相当の商品を購入した場合、「120万円 - 80万円 = 40万円」が所得金額になります。

課税対象となるケース(3) 仮想通貨と仮想通貨を交換したとき

仮想通貨を別の仮想通貨に交換し、所得が生じた場合も課税対象となります。仮想通貨Aと仮想通貨Bを交換した場合には、「Aの取得価額」と「Bの時価」を差し引いて所得金額を計算します。たとえばビットコイン(BTC)とリップル(XRP)、イーサ(ETH)とリスク(LSK)を交換した、というような場合です。

例えば取得価額が60万円のビットコインで時価7万円相当のイーサを10単位(70万円)購入したとします。その場合は「70万円 − 60万円 = 10万円」が所得金額となります。

申告漏れによる追徴課税、悪質な場合には罰則も

仮想通貨に関する所得は適切に申告しなければ、申告漏れとして修正申告が必要になり、納税義務者は追徴税の課税対象になります。悪質な場合には刑事罰を受けることにもなり、正しく納税を行うことが重要です。

仮想通貨に関してはまだ税務上の取り扱いが一般に浸透していないこともあり、適切な申告にハードルがあるのも現状です。仮想通貨取引や仮想通貨での商品購入については、基本的な知識をまず身に付け、税理士などの専門家の助言も受けることも視野に入れておきましょう。(岡本一道、金融・経済ジャーナリスト / d.folio