不動産を相続した人は相続登記をしなければなりません。相続登記はいつまでにしなければならないか、期限を知りたい人は多いのではないでしょうか。

実は、相続登記には期限がありません。誰が不動産を相続するかが決まっていれば、落ち着いたころに相続登記の手続きをしても問題はありません。

しかし、相続登記を長い間放置するとさまざまな不利益を被ることになります。この記事では、相続登記を放置していた場合の不利益についてお伝えします。

1.相続登記には期限がない

相続登記
(画像=税理士が教える相続税の知識)

相続に関する手続きには期限が定められています。相続放棄の手続きは3か月以内、相続税の申告は10か月以内といったものが代表的です。

しかし、不動産の名義変更にあたる相続登記には期限が定められていません。相続登記は難しそうで費用もかかるという理由から放置する人も多く、結果として何世代にわたって放置されているケースもあります。

2.相続登記を放置していた場合に被る不利益

相続登記に期限がないと知って安心した人も多いでしょう。しかし、相続登記をしないで放置しておくとさまざまな不利益があります。不利益を被るのは相続登記をしないで放置した人自身よりもその人の子供や孫にあたることが多く、世代が進むほど解決が難しくなっていきます。

2-1.不動産を売ることができない

相続登記を放置したままでは、不動産を売却したり担保に差し出したりすることはできません。

相続登記をしなければ、その不動産の名義は亡くなった被相続人のままになっています。相続人同士で誰が相続するかを決めていても、相続登記をしなければ第三者に対して所有権を主張することはできません。

相続した不動産を売却したり担保に出したりするときは、相続登記をして名義を相続人のものにする必要があります。ただし、相続から長い期間が経過して世代が代わると、次に説明するように権利関係が複雑になって、相続登記が難しくなります。

2-2.相続人が増えて権利関係が複雑になる

不動産の名義人が亡くなってから長い時間が経過して世代が代わると、次の図で示すように相続人の数が増えて権利関係が複雑になります。名義人のひ孫の代になると、相続人が十数人に及ぶことも珍しくありません。

相続登記
(画像=税理士が教える相続税の知識)

相続人が増えると話し合いは困難に

相続人が増えるにつれて、誰が不動産を相続するかの話し合いは簡単にはまとまらなくなります。上の図の家族構成を例に、世代が進むにつれて相続の話し合いが困難になっていく様子を説明します。

●名義人の子供の世代

名義人の子供が全員健在であれば、相続人は兄弟姉妹どうしにあたります。兄弟姉妹のトラブルはあるとしても、比較的話し合いをしやすい状況にあります。相続登記をしていないだけで、誰が相続するかの合意はできていたというケースもあります。

この例では「長女が土地を相続する」ことで合意ができていたと仮定します。しかし、相続登記は行われませんでした。

●名義人の孫の世代

名義人の子供が亡くなれば、相続権は名義人の孫に移ります。家庭の環境にもよりますが、いとこどうしで遺産相続について話し合うことになり、兄弟姉妹どうしの場合に比べると話し合いは難しくなります。

図の1番の相続人は、長女(つまり自分の母親)が土地を相続すると聞かされていました。しかし、相続登記がされていないため、改めて自分の兄弟やいとこ同士で話し合いをしなければなりません。手続きが面倒で期限もないことから、相続登記はしませんでした。

●名義人のひ孫の世代

孫が亡くなればひ孫に相続権が移ることになります。ここまで世代が進むと、親族とはいえ、面識のない人どうしで遺産相続について話し合うケースもあります。

相続人が増えると、海外に住む人や認知症で意思表示ができない人のほか、未成年者や行方不明者がいる場合もあり、話し合いはより難しくなります。

図の1番の相続人は、土地を売却する必要に迫られました。自分の兄弟をはじめ、いとこも何人か亡くなっています。相続権はその子供(つまり名義人のひ孫)に移るため、相続人が多くなります(図の5番から19番)。

1番の相続人は、おい、めい、いとことその子供を含めた18人を相手に相続の話し合いをしました。相続人はみな「長女が土地を相続する」という最初の合意を知らないため、話し合いは難航しました。こんなことならもっと早く相続登記しておくべきだったと後悔しています。

相続人全員の実印が必要

誰が不動産を相続するかの話し合いがまとまったとしても、手続き上、遺産分割協議書を作成して相続人全員の実印を押さなければなりません。

相続人が多いと離れて住む人もいて、郵送で遺産分割協議書をやり取りすれば時間がかかってしまいます。相続人全員との連絡を司法書士に依頼することもできますが、相続人が増えると報酬は高くなります。

2-3.手続きに必要な書類が入手できなくなる

相続登記には、不動産の名義人の出生から死亡までの戸籍謄本が必要になります。そのほか、名義人の最後の氏名や住所が登記記録と異なる場合や、名義人の本籍が登記記録の住所と異なる場合は、住民票の除票または戸籍の附票も必要になります。

ところが、住民票の除票や戸籍の附票は保存期間が5年と定められています。名義人が亡くなってから5年以上経って相続登記をする場合は、住民票の除票や戸籍の附票が入手できない可能性があります。

住民票の除票や戸籍の附票が入手できなくても相続登記をする方法は残されていますが、自分で手続きをすることは困難で、司法書士に依頼する必要があります。

3.まとめ

相続登記には期限がありません。手続きの手間や費用を嫌って放置したり、手続きを忘れてしまったりなどの理由から何世代にもわたって相続登記が行われていないケースもあります。

相続登記を放置していた場合には、第三者に対して所有権が主張できないため、その不動産の売却ができなくなるといった不利益があります。時間が経過してから売却することになった場合は、改めて相続登記の手続きが必要になりますが、相続人が増えて権利関係が複雑になります。

相続登記を放置したことによる不利益を被るのは、登記しないで放置した人自身よりもその人の子供や孫にあたることが多く、世代が進むほど解決が難しくなります。子供や孫の代にトラブルを持ち越さないためにも、相続登記は早めに済ませるようにしましょう。

(提供:税理士が教える相続税の知識