多額の遺産を受け取った場合は、相続税を納めなければなりません。 相続税は税率が高いため、遺産が多ければ税額は驚くほど高くなります。相続税を納めるために遺産を処分したといった話も聞かれます。
このような重い税負担を免れるため、税務署に見つからないように自宅に「タンス預金」として現金を隠しておけばよいと思う人がいるかもしれません。
しかし、タンス預金は盗難や災害に遭うリスクがあるばかりでなく、隠しているタンス預金はやがて税務署に見つかってしまいます。
この記事では、「タンス預金」が相続税対策としていかにリスクが高く無意味であるかについてお伝えします。
1.「タンス預金」とは?
「タンス預金」とは、個人が金融機関に預けないで自宅で保管しているお金のことです。タンスに限らず、本棚や仏壇、金庫に入れていても、庭先に埋めていてもタンス預金と呼ばれます。
市中に出回っているお金の量の統計から推測すると、タンス預金は近年増える傾向にあります。シンクタンクの試算では、日本国内のタンス預金は40兆円ほどあるとされています。
歴史的な低金利でお金を金融機関に預けるメリットが薄れていることに加えて、マイナンバーで国に資産を把握されるのではないかという懸念からタンス預金が増えていると考えられます。
2.「タンス預金」のメリット・デメリット
「タンス預金」のメリットは、必要なときにお金を使うことができる点です。 一方、デメリットは、お金がなくなるリスクが大きい点です。 これから、タンス預金のメリット・デメリットを詳しくご紹介します。
2-1.必要なときにお金を使うことができる
「タンス預金」として自宅に現金があれば、必要なときにお金を使うことができます。金融機関の営業時間や手数料を気にする必要もありません。
このようなメリットは、家族が亡くなって相続が発生したときに特に有効です。
預金者が亡くなったことが金融機関に知られると、相続する人が決まるまで預金口座が凍結され、お金を引き出すことができなくなります。 家族が亡くなった直後は葬儀費用など何かとお金が必要になるので、手元に現金があると安心でしょう。
そのほかのタンス預金のメリットとしては、金融機関の破たんの影響を直接受けないことや、マイナンバー制度の影響を受けないことがあげられます。
2018年から預金口座にマイナンバーを登録できるようになります。登録は任意ですが、2021年をめどに義務化も検討されています。マイナンバーで国に資産を把握されると心配する人もいますが、タンス預金ではこうした心配はありません。
2-2.お金がなくなるリスクが大きい
「タンス預金」の最大のデメリットは、盗難や災害に遭ってお金がなくなる恐れがあることです。
金庫に入れておけば大丈夫と思われがちですが、金庫ごと持ち去られる可能性があります。また、外から盗みに入られるだけでなく、タンス預金の存在を知っている身内や知人が持ち去る可能性もないとはいえません。
災害のリスクも見逃せません。水害で家財が流されれば、タンス預金は見つからなくなります。大規模な火災では、耐火金庫でも役に立たないことがあります。
相続のときに特有のデメリットとしては、遺族がタンス預金を見つけられないことがあげられます。
生前にタンス預金の所在を家族に話していなければ、亡くなった後で家族がタンス預金を見つけることは難しくなります。家族がタンス預金を見つけられなければ、そのお金はなかったことになり、そのまま闇に消えてしまう可能性もあります。
タンス預金にはメリットもありますが、お金がなくなるリスクはメリットをはるかにしのぐデメリットであると考えられます。
3.「タンス預金」はなぜ税務署にバレるのか!?
「タンス預金」をする動機には、相続税対策と考える人が多く、自宅で現金を保管していれば税務署に見つからないと考えられているからです。 しかし、税務署は自宅にあるタンス預金を見抜いてしまいます。
3-1.税務署には強い調査権限がある
人が亡くなったときは市区町村役場に死亡届を提出しますが、この内容は税務署に通知されることになっています。
税務署は過去の所得をもとに、亡くなった人にどれぐらい遺産があるかおおよその見当をつけています。亡くなった人に多額の遺産があるのに相続税の申告がなければ、税務署は遺族に「相続税のお尋ね」という文書を送って問い合わせをします。それでも相続税の申告がなければ、調査を始めます。
税務署には強い調査権限があり、亡くなった人の預金口座の過去の入出金を調べることもできます。預金口座から多額の出金があれば、遺族にその使い道を聞きます。使い道に不審な点があれば、自宅に出向いて財産を隠していないか捜査することもできます。
3-2. 税務調査で未申告のタンス預金が見つかった場合のペナルティ
税務署が行う税務調査で未申告のタンス預金が見つかると、本来の税額に加えて重加算税がかかります。重加算税は遺産の仮装・隠ぺいがあるときに課されるもので、本来の税額に40%が加算される非常に重いペナルティとなります。
隠していた金額が大きく悪質な場合は、国税局が検察に告発することもあります。裁判の結果、罰金刑を含めた有罪判決が下される人も後を絶ちません。
4.「タンス預金」は相続税対策にはならない
ここまでお伝えしたように、「タンス預金」は財産がなくなるリスクが高い上に、税務署の調査で見つかった場合はペナルティがかけられます。タンス預金は相続税対策としては意味がないばかりか、無用のリスクを負うことがお分かりいただけたと思います。
亡くなった人から遺族に受け継がれたものは、タンス預金であってもれっきとした遺産であり、相続税の課税対象になります。相続税を申告するときは、タンス預金を含めて正しい内容で申告するように心がけましょう。
5.まとめ
タンス預金をする人には、適切な預け先がなかったり、マイナンバー制度の影響を懸念していたりと、いろいろな事情があります。 ただし、相続税を免れることを目的にしているのであれば、それは無意味でリスクの高い行為です。
税務署は亡くなった人の遺産の額をおおむね把握していて、相続税の申告がなかったり申告額が少なかったりすると調査を始めます。
「タンス預金」の無申告が発覚すると、高額の税金を納めたうえに、罰金を含めた刑事罰が科されることもあります。相続税を申告するときは、タンス預金を含めて正しい内容で申告をしましょう。(提供:税理士が教える相続税の知識)