大衆化する相続税の背景にあるもの

相続税増税
(画像=チェスターNEWS)

アベノミクスによる経済政策に、税金の話は必要不可欠だ。法人税減税、消費税・相続税・所得税増税の政策からも、現状の日本が進む方向が見えてくる。長年続いていた消費税5%時代が終幕を迎え、ついに8%への増税へ舵がとられた。しかしこれはまだまだ過程に過ぎず、いずれは消費税10%への増税政策が待ち構えている。

消費税という税金は、多くの人に関係する税金だ。金額の大小はあるが、物やサービスの提供を受ければ、消費者の資産や所得の高低に関わらず一律の税率が課される。一方で、相続税に目を向けてみると、ある一定以上の資産を所有している人が亡くなった場合に、その財産を所有している人にかかるのが相続税だ。

過度な格差をなくし、資産を再分配するために設けられている税金であるが、バブル崩壊以降、相続税が課税されている人の割合は僅か4%程度にとどまっている。多くの人に関係する消費税を増税しておいて、資産家向けの相続税が優遇されているのは納得がいかない、そういった国民の声を予想してか、はたまた国債頼りの財政改善の一策か、様々な見方はあるが、相続税が増税されることになった。

相続税増税がメリットになることも!?

相続税の増税の裏側では、贈与税関連の新設特例や優遇措置が目立つ。平成25年4月に新設された教育資金贈与特例は、利用者が多く、各金融機関が顧客争奪に力を入れている。また平成27年度の税制改正でも、子育て支援のための贈与特例や、住宅取得資金贈与特例の非課税枠が大きくなることが決まっている。

日本の個人金融資産の合計は1500兆円とも言われているが、その6割を60歳以上の高齢者が所有しているという統計情報があり、政府としては、相続税増税も狙いの一つだが、一方では高齢者が所有する眠るタンス預金を、流動化させ経済を活性化させたいという狙いもある。

そこでまず登場した、教育資金贈与の非課税特例であるが、この特例がヒットした背景には次の二点が挙げられる。

1.孫を対象にしたものであること

自分の子へは厳しいが、孫となると、ついつい財布のひもがゆるんでしまうのが、祖父母の心情だ。相続時精算課税制度をはじめ、従来は「子」を対象にした贈与特例が多かったが、ここ最近は「孫」が加わる特例が目立つようになった。

2.教育資金に使途を限定したこと

孫がいくらかわいいからといって、何百万円というお金をいきなり贈与するには抵抗があるだろう。そこで、贈与した資金の使途を「教育資金に限定する」という要件を加えたのが、この特例のヒット理由の大きな一つだ。あまり若いうちから、大きなお金を自由に使わせてしまうことはよくないという考えも多くあり、この要件により、贈与者側の心情面に配慮したかたちとなった。

相続税の増税により、都心部ではサラリーマン家庭にまで相続税増税の影響が出ることが予想され、相続税の大衆化が叫ばれている一方で、生前贈与推進の政策がとられており、子や孫世代から見ればメリットになることもありそうだ。

将来の年金受給への不安を口にする若者が増えてきているが、親が相続税が課税される程の財産を所有していれば、そういった世代間格差はある程度埋まることが予想される。いくら増税されるとはいえ、たとえ相続税を支払っても税引後で必ず手元に入ってくる財産があり、それを頼りにしている人も多いはずだ。そういった意味では、格差の問題というのは世代間格差よりも家族間格差の問題に繋がっていくのもかもしれない。いずれにしても、これまでは一部の富裕層にしか関係しなかった相続税の課税対象が広がっていく中で、高齢者世代とそれを受け継いでいく世代の両者が、長期的な視点で財産管理の方法を模索していくことが必要な時代が訪れている。

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