この記事を読んでいる人は、相続が発生した後のさまざまな手続きについて、どの専門家に相談すればいいのか分からないと悩んでおられることと思います。

実際に相続について対応できる専門家と一口に言っても、税理士、司法書士、行政書士、弁護士、信託銀行などさまざまです。専門家に依頼した場合の費用や相談料も気になるところで、相続の手続きを自分で行うことができないかと考える人も多いのではないでしょうか。

この記事では相続手続きを進めていく上で、上手に専門家を選定するポイントや知っておきたいことをご紹介します。

相続の専門家を選ぶときに知っておきたいこと
(画像=税理士が教える相続税の知識)

1.相続手続きの分野によって相談すべき専門家は異なる

相続の手続きの中でも、相続税のことは税理士に、不動産の名義書換は司法書士に、遺族どうしでもめている場合は弁護士にといったように、内容によって相談すべき専門家は異なります。

残念ながら、相続に関する手続きを一手に引き受けることができる専門資格はありません。相続士や相続アドバイザーという資格がありますが、他の専門家との橋渡しをするコーディネーターの役割を担っているといってよいでしょう。

1-1.相続税に関する相談は税理士に

相続の手続きで最も気になるものの一つが相続税の申告ではないでしょうか。しかし、実際に相続税が課税されるケースは全体の約10%にすぎません。相続税は、遺産が少なくとも3,600万円なければ課税されないということを覚えておくとよいでしょう。

もし、相続税が課税される10%のケースに当てはまりそうな場合は、税理士に相談しましょう。税金に関する具体的な相談や税額の計算は税理士にしかできません。たとえ報酬を受け取らなくても、税理士でない人がこれらの行為をすることは禁止されています。

ただし、税理士といってもすべての人が相続税に詳しいとは限りません。税理士の多くは所得税や法人税の申告を業務としており、相続税を専門にしている税理士は少ないのが現状です。

相続税の申告では遺産の価値を評価する必要がありますが、評価の方法によって税額が大きく変わることがあります。相続税を専門にしている税理士は遺産の価値を評価するノウハウを持ち合わせているため、より有利な形で相続税の申告をすることができます。

相続税に関することは、相続税を専門にしている税理士に相談することをおすすめします。

参考:「相続税申告の税理士報酬・相場の実態と税理士選びのポイント

1-2.あらゆる手続きで頼れる司法書士

司法書士は、相続に必要なさまざまな手続きを代行することができます。特に、土地や家屋など不動産を相続する場合は司法書士に相談するとよいでしょう。司法書士が代行できる手続きは次のとおりです。

  • 相続に必要となる戸籍謄本の取り寄せ
  • 遺産分割協議書の作成
  • 不動産の相続登記(名義変更)
  • 相続放棄や調停など家庭裁判所への申立て

1-3.手続き内容によっては行政書士にも依頼できる

不動産の名義変更や相続放棄など、司法書士に依頼すべき相談内容がなく、次のような手続きを依頼したい場合は、行政書士に相談することもできます。ただし行政書士は不動産の相続登記ができませんので、不動産がある人は最初から司法書士に相談にいくとよいでしょう。

相続の専門家を選ぶときに知っておきたいこと
(画像=税理士が教える相続税の知識)

1-4.遺族どうしでもめている場合は弁護士に

遺族どうしで相続の話し合いがまとまらない場合は、弁護士に相談します。当事者に代わって交渉することは、弁護士にだけ認められています。

このため相続人同士が揉めていて外部の第三者に相談する場合には、選択肢は弁護士のみと考えてもよいでしょう。

ただし、税理士と同様に弁護士にも専門の分野があります。遺産相続について詳しいかどうかは、前もって確認する必要があります。

1-5.ワンストップで相談できる窓口

相続に関する手続きは、内容によって相談すべき専門家が異なることをお伝えしていますが、実際に複数の専門家を訪ねて回るのは負担になります。

ここでは、1か所に相談するだけで手続きができる窓口をご紹介します。ただし、手続きができる内容はそれぞれの窓口で異なるため、依頼するときには業務の内容をよく確認することが大切です。

信託銀行
信託銀行では、自行に預けられている資産だけでなく他の金融機関の預貯金や不動産も含めて、相続に関する手続きを引き受けています。ただし、報酬は最低でも100万円と高額であるため、いわゆる富裕層に向けたサービスと位置づけられます。

地域の相続センター
行政書士や司法書士などが運営する「相続センター」といった名前の窓口では、相続に関するさまざまな相談に応じてもらえます。

信託銀行に比べて報酬は低く、身近な相談窓口としては便利ですが、依頼できる業務の範囲をよく確かめる必要があります。相続税の申告が別料金になる場合や、そもそも相続税の相談を受け付けていない場合もあります。

相続診断士・相続アドバイザー・FP
相続専門の資格として、相続診断士や相続アドバイザーといった資格があります。FP(ファイナンシャル・プランナー)も、幅広い範囲の相談にこたえることができます。

ただし、これらの専門家が活躍できるのは、どちらかといえば相続が起きるまでに対策を立てる場合です。実際に相続が起こった場合には、他の専門家との橋渡しをするコーディネーターの役割が期待されます。

2.相続手続きの目的別の専門家一覧

相続手続きの目的によってどの専門家に相談すればよいかを表にまとめました。ただし、これらの資格を持っている人でも、すべての人が相続手続きに詳しいとは限りません。相談するときは、その人が相続手続きに詳しいかどうかをよく確認することが重要です。

相続の専門家を選ぶときに知っておきたいこと
(画像=税理士が教える相続税の知識)

3.各種相続手続きの専門家のおおよその費用

ここでは、相続手続きのおおよその費用をご紹介します。もちろん事務所によって報酬の金額は異なり、同じ事務所でも遺産の金額によって報酬が変わることもあります。あくまでも目安として参考にしてください。

3-1.税理士に依頼する場合

かつては税理士法で税理士報酬の最高限度額が定められていましたが、現在では、税理士報酬は自由化されています。

相続税の申告を税理士に依頼した場合の報酬は、相続財産の金額の0.5%~1.0%が目安となっています。これよりも安い金額で請け負う事務所もありますが、報酬の安さだけではなく、相続税の申告実績がどれほどあるかといった観点から税理士を選ぶことも大切です。

相続税の申告の税理士報酬について詳しいことは、次の記事を参考にしてください。

参考:「相続税申告の税理士報酬・相場の実態と税理士選びのポイント

3-2.司法書士・行政書士に依頼する場合

日本司法書士連合会が2013年にまとめたアンケートによると、不動産の相続登記を司法書士に依頼した場合の平均的な報酬額は5万円~7万円程度です。ただし、安いところでは3万円以下、高いところでは10万円を超えることもあります。なお、報酬以外に登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)と戸籍謄本の手数料など実費が必要です。

参考:「日本司法書士会連合会 | 司法書士の報酬

日本行政書士会では、5年に一度、行政書士の報酬額を調査しています。2015年の調査結果から、次の業務について報酬の目安をご紹介します。

相続の専門家を選ぶときに知っておきたいこと
(画像=税理士が教える相続税の知識)

参考:「報酬額の統計 | 日本行政書士会連合会

複数の手続きが関係する場合は、それぞれの手続きについて報酬が必要になります。また、報酬に加えて立替費用などの実費も必要になります。

3-3.弁護士に依頼する場合

以前は日弁連(日本弁護士連合会)が弁護士報酬の基準を定めていましたが、現在は弁護士の報酬は自由に決めることができます。

弁護士報酬の目安を知りたいという要望に応えるため、日弁連は全国の弁護士に報酬額を聞き取ったアンケート結果をまとめています。集計は2008年で少し古いのですが、このアンケート結果から遺産相続に関する報酬の目安をご紹介します。

参考:「日本弁護士連合会│弁護士報酬ってなに?

遺産分割の調停
遺産分割協議がまとまらず調停を申し立てて、5,000万円の遺産を取得した場合の報酬の目安は次のとおりです。

相続の専門家を選ぶときに知っておきたいこと
(画像=税理士が教える相続税の知識)

着手金と報酬金は遺産の金額によって変動します。また、相談料、立替費用などの実費、出張日当なども必要になります。

遺言の執行
遺言の執行を弁護士に依頼した場合の遺言執行手数料は、20万円前後から100万円前後まで広範囲に分かれます。遺言の内容は人によって異なり、業務の内容もさまざまであることが要因と考えられます。

遺言執行手数料以外に、相談料、立替費用などの実費、出張日当なども必要になります。

3-4.信託銀行に依頼する場合

信託銀行に相続手続きを依頼した場合の報酬は、遺産総額の数%というように遺産総額によって変動することが一般的です。ほとんどの場合、最低料金が100万円となっています。不動産の名義変更や相続税の申告がある場合は、司法書士や税理士への報酬も必要になります。

4.専門家に依頼せずに自分で相続手続きを行うことは可能か?

相続の手続きは、必ずしも専門家に依頼する必要はありません。これらの手続きはそもそも本人が行うべきものだからです。ネットや書籍でもさまざまな相続手続きの方法が解説されているので、それらを参考にして自分で手続きをすることができます。

しかし、相続人が多かったり相続財産が多かったりすると、手続きだけで時間を取られることもあります。日々の生活や仕事の合間を縫って、手続きのために役所に出向くことは想像以上の負担になります。

手間を少なくして間違いのない手続きを進めるためには、適切な専門家に相談することをおすすめします。

5.まとめ

親族が亡くなったときは、悲しみが癒えない間に葬儀を行わなければならず、相続手続きのことまではなかなか考えられないものです。それが突然のことであればなおさらです。

そのようなときは、相続手続きについて専門家に相談できると心強いものです。ただし、すべての手続きを一手に引き受けることができる専門の資格はなく、複数の専門家に相談する必要があります。どの専門家に相談すればよいかは、この記事でご紹介した内容を参考にしてください。相続手続きについてワンストップで引き受ける窓口もあるので、活用するとよいでしょう。(提供:税理士が教える相続税の知識