政府の未来投資会議は、希望する高齢者がより長く働けるように企業の継続雇用年齢を65歳から70歳に引き上げる方針を表明した。働く高齢者を増やすことで人手不足を解消し、年金など社会保障制度の安定を図ることが目的だ。これまでも2013年に施行された改正高年齢者雇用安定法が、65歳までの雇用延長を企業に義務付けており、定年を65歳まで延ばす企業も増えつつある。今後は「生涯現役社会」を目標に、さらに定年を延長する動きも出てこよう。
「定年」とは、『官庁や企業などで退官・退職する決まりになっている一定の年齢』(新明解国語辞典)とある。一般的には「定年退職」という言葉が使われることが多い。その理由は、これまで多くの人が終身雇用制のもと長く同一企業で働き、「定年」を迎えることはすなわち「退職」を意味したからだろう。しかし、今日では定年後も嘱託で雇用を継続したり、あらたに個人事業主になって働いたりする人も増えており、必ずしも「定年」が「退職」とは限らないのである。
私は本日「定年」を迎えるが、定年後も原稿を書いたり講演したりという従来の仕事に変わりはなく、「定年退社」はするが「定年退職」はしない。人生100年時代の「生涯現役社会」においては、多くの人が「定年」が「退職」を意味するのではなく、年齢の定めのないあらたな仕事へ再出発するのかもしれない。政府には、同一企業での定年や雇用の延長だけではなく、定年後に個人が自らの能力を十分活かせるような「雇われない」働き方ができる多様な就業環境の整備が求められる。
私は満50歳の誕生月に初めてフルマラソンに挑戦した。その後、走る楽しみを覚え、15年近くもランニングをやっている。近年は10キロ程度を走ることもつらくなったが、定年を迎える節目に再度フルマラソンを走ろうと決意した。約1年間トレーニングを重ね、先日ホノルルマラソンを完走した。42.195キロのコースを走りながら、これまでの企業人生を振り返り、多くの方たちとの出会いに感謝するとともに、これから始まる定年後のあらたな暮らしへ想いを馳せた。
長寿化した人生において定年はひとつの通過点であり、あらたな社会との関係性を構築する好機だ。まだまだ人生というマラソンは続くが、以前と同じようなペースで走り続けることは難しいだろう。加齢を受容し、周囲の景色を楽しみながら歳相応の走り方が必要だ。年齢を重ねると健康状態や経済状況、人生観や価値観などは人によりさまざまだ。「生涯現役」とは、一人ひとりがマイペースで人生の最期に至るまでの道を楽しむ「道楽」というマラソンのことではないか、と思う。
(参考) 研究員の眼『「定年」と「退職」~いつまでも“個”活かせる「停年」社会』(2013年1月15日)
* 2007年から12年間にわたり351本のコラムを執筆しました。多くの方々にお読みいただいたことを心より感謝いたします。(了)
土堤内昭雄(どてうちあきお)
ニッセイ基礎研究所 社会研究部 主任研究員
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