この記事では遺産分割協議とは何かから、遺産分割協議書の書き方、遺産分割協議がまとまらない場合の対応まで、相続にあたって知っておきたい遺産分割協議の進め方をご紹介します。最近では、相続人が認知症で判断能力がないといったケースが増えています。また、疎遠になっている相続人がいたり、海外に住んでいる相続人がいたりというケースもあります。こうした特殊なケースについてもQ&Aを交えてご紹介します。

相続の専門家が教えるスムーズな遺産分割協議の進め方と知っておきたいQ&A
(画像=税理士が教える相続税の知識)

1.遺産分割協議とは相続人全員で遺産の分け方を決めること

人が亡くなったとき、遺産は遺言によって相続人に分配されるか、相続人どうしの話し合いによって分配されます。この相続人どうしの話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。

一般的に、遺産分割協議は四十九日の法要が終わったあたりから始めるといわれています。四十九日の法要には親族が集まるので協議しやすいという事情があるからですが、これより早く始めても構いません。
相続放棄の期限死亡から3か月以内であり、相続税の申告と納付は死亡を知った日の翌日から10か月以内と定められています。これらの期限を念頭に、早めに始めるとよいでしょう。

遺産分割協議は相続人全員で行うことが原則であり、一部の相続人だけで話をまとめた場合は、遺産分割協議をやり直さなければなりません。遺産分割協議を終えたあとで隠し子が発覚したような場合でも、遺産分割協議をやり直す必要があります。

遺産分割協議を始める前には、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を取り寄せて相続人の範囲を確認することが極めて重要になります。まるで亡くなった人を疑うようで、戸籍謄本を取り寄せるのは気が進まないものですが、相続の手続きでは戸籍謄本が必要になることが多々あります。本籍を転々としている場合は取り寄せに時間がかかることもあるので、早めに手配を始めましょう。

参考:「これさえ見ればわかる!遺産分割協議書の書き方のすべて

2.遺産分割協議のスケジュールと手順

相続の手続きのなかで、一体どのタイミングで遺産分割協議を進めていいのわからないという方は多いと思います。
ここでは相続専門の税理士がお勧めする遺産分割協議のスケジュールと各時点において行う手続きについて説明します。
基本的にはこの手順通りに進めていけば、スムーズに遺産分割協議を完了することができるでしょう。

2-1.【手順1】財産の全体を把握する

遺産分割協議といっても、相続財産が全体でどのくらいあるのかがわからなければ協議はできません。

相続が開始してご葬儀などが落ち着いてから財産の全体を把握しましょう。 また相続税の申告をする場合には、この時点で税理士に依頼をすれば、税理士が財産の把握と評価を行ってくれますので便利です。

もちろんこの段階から自宅などの大きな資産についてはどの相続人が取得するかを話し合っておくことも重要です。

2-2.【手順2】相続人全員で分割方法を協議する

財産の全体が把握できたところで、相続人全員で分割方法を協議します。
この際の注意点は、分割による相続税の負担をしっかりと考えることです。
例えば、不動産のみを取得する相続人がいる場合には、その不動産に相応する相続税を支払えるだけの現金を用意するなどです。相続人が自分で現金を用意できない場合には、遺産分割協議において相続税分の現金を取得するように話し合わなければなりません。

そのほかにも、小規模宅地の特例など分割の方法によって適用が変わってくる税法上に規定がありますので、不安な場合には専門家に相談しながら分割方法を協議していきましょう。

2-3.【手順3】遺産分割協議書を作成する

遺産分割協議が決まったら、その内容を書面にします。
遺産分割協議書の書き方には特に法令上の決まりはありません。手書きでもパソコンで印字しても構いません。ただし、実際には、遺産分割協議書は不動産の相続登記預貯金の名義変更などで必要になり、対象の不動産や銀行口座などを特定するために、内容を詳細に記載する必要があります。また、相続人全員が同意していることを証明するために、相続人全員が自筆で署名し、印鑑登録された印鑑(実印)で押印します。

それでは、実際にはどのように書けばよいのでしょうか。 下記の記事で具体的な書き方をご紹介しているので、ご参照ください。
ひな型をダウンロードして完全解説!遺産分割協議書の書き方の決定版

3.遺産分割協議書の提出が必要な手続きと提出先

相続の手続きで遺産分割協議書が必要になる代表例をご紹介します。 遺産を法定相続分で分割した場合は、必要でないこともあります。詳しくは、それぞれの関係先にご確認ください。

・ 相続税の申告:税務署に提出
・ 不動産の相続登記:法務局に提出
・ 金融機関口座の名義変更(預貯金、株式など):取引金融機関に提出
・ 自動車の相続手続き:陸運支局に提出
・ 相続税の申告:税務署に提出

3-1.不動産の相続登記

土地や家屋といった不動産の名義を相続人に変更することを、相続登記といいます。
相続登記は、法務局に出向いて行います。相続する不動産を特定するために、遺産分割協議書には不動産の内容を登記事項証明書に記載されているとおりに記載しなければなりません。

一般的に相続登記で提出が必要なものは、次のとおりです。

・ 遺産分割協議書の写し
・ 遺産分割協議書に押印した人全員の印鑑証明書
・ 相続登記申請書
・ 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
・ 相続人全員の戸籍謄本または抄本
・ 相続関係説明図
・ 固定資産税評価証明書
・ 不動産を相続する人の住民票の写し

3-2.相続税の申告

相続税の申告でも遺産分割協議書が必要になります。相続税の申告は、他の手続きとは異なり相続が開始してから10か月という期限があるので注意が必要です。
相続税の申告は、被相続人の住所を管轄する税務署で行います。必要な書類は次のとおりです。

・ 遺産分割協議書の写し
・ 遺産分割協議書に押印した人全員の印鑑証明書
・ 相続税の確定申告書
・ 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本

3-3.金融機関口座の名義変更

銀行や証券会社など金融機関口座の名義変更でも、遺産分割協議書が必要になります。 相続する口座を特定するために、遺産分割協議書には金融機関名支店名口座番号などをもれなく記載します。

一般的に金融機関口座の名義変更で提出が必要なものは、次のとおりです。

・ 遺産分割協議書
・ 遺産分割協議書に押印した人全員の印鑑証明書
・ 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
・ 相続人全員の戸籍謄本

3-4.自動車の相続手続き

普通自動車(白ナンバー)の相続手続きは、陸運支局に届け出ます。 一般的に自動車の相続手続きで提出が必要なものは次のとおりです。ただし、自動車の価値が100万円以下であることが客観的に証明できる場合には、簡便な手続きで良いとされています。

・ 遺産分割協議書の写し
・ 遺産分割協議書に押印した人全員の印鑑証明書
・ 車検証
・ 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
・ 相続人全員の戸籍謄本または抄本
・ 新しい所有者の実印および印鑑証明書
・ 車庫証明書

軽自動車(黄色ナンバー)の手続きでは、遺産分割協議書は必要ありません。
新しい所有者が軽自動車検査協会に届け出れば良いことになっています。

4.遺産分割協議に関するQ&A

遺産分割では、思いもよらない出来事が起こることがあります。 具体的な協議の進め方や、特殊なケースへの対処法をQ&A形式でご紹介します。

4-1.Q:やはり全員一か所に集合して協議しなければならないのですか?

テレビドラマなどでは喪服を着た遺族が集まって遺産分割について話し合う光景が見られますが、実際に相続人全員が集まって話し合う必要はありません。相続人が全員近くに住んでいるとも限りませんし、体調が悪く外出することが難しい相続人もいることでしょう。

遺産分割協議は相続人全員で行うことが原則なのに矛盾するようにも感じられますが、全員が協議の内容に同意していれば良いとされています。
たとえば電話連絡や書面の郵送などで協議の内容が伝わり、相続人全員がそれに同意したのであれば、協議は成立します。
遺産分割協議書への押印も、郵送で順番に回していくという方法で問題はありません。

4-2.Q:相続人が海外に住んでいますが注意すべき点は?

国際化の進展にともなって、相続人が海外に住むことも珍しくなくなりました。必ずしも相続人が全員集まって協議する必要はありませんが、海外に相続人がいる場合には他にもさまざまな問題が起こります。

◆遺産分割協議書に押印する実印
遺産分割協議書には相続人が記名押印する必要があり、手続きによっては印鑑証明書の提出が求められますが、国内に住民登録がなければ印鑑登録はできません。
日本の住民登録を抹消して海外に住所を移した相続人は、印鑑登録に代わるものとして署名証明(サイン証明)を受けます。

署名証明(サイン証明)を受けるためには、前もって作成した遺産分割協議書を持参して、滞在国の大使館や総領事館(在外公館)に出向く必要があります。
担当官の面前で遺産分割協議書に署名し、在外公館が発行する証明書と綴り合わせて割り印をすることで、署名の証明となります。

海外に遺産分割協議書を郵送する期間のほか、署名証明を受けるにも手間がかかるため、相続人が海外にいる場合は早めに対応しなければなりません。

◆住民票の写し
相続の手続きでは相続人の住民票の写しが必要になることがあります。日本から住民登録を除いて海外に住んでいる相続人は、住民票に代わるものとして在留証明が必要となります。

在留証明は、自ら在外公館に出向いて申請することが原則です。これは、申請者本人の生存確認のほか、申請者の意思確認や提出先の確認を目的としています。署名証明と同時に申請することが一般的ですが、発行までに日数を要することもあるので、前もって確認することをおすすめします。

4-3.Q:相続税の申告期限までに遺産分割協議が間に合いません。

相続人どうしでの話し合いがこじれると、相続税の申告期限(被相続人の死亡から10か月)までに遺産分割協議がまとまらないこともあります。

このようなときは、一度、法定相続分で遺産を分割したと仮定して、相続税の申告・納税を行います。
遺産分割協議が終わらないことを理由に、申告・納税の期限を延長することはできません

後日、遺産分割協議がまとまって、法定相続分とは異なる割合で遺産分割が行われれば、先に納めた相続税額と本来納めるべき税額との間に差額が出ます。
税額が不足していた場合は修正申告を、税額が多かった場合は還付申告を行います。

4-4.Q:相続人に認知症の人がいます。代理人を立てることはできるでしょうか?

相続人の中に認知症であるなど判断能力が全くない人がいる場合は、成年後見人を立てることができます。
成年後見人を立てるには、家庭裁判所に申し立てを行います。判断能力の衰えが中程度または軽度な場合は、成年後見人のかわりに保佐人または補助人を立てることができます。

成年後見人である子と成年後見されている親が同時に相続人になる場合などのように、成年後見人と成年被後見人の利益が相反する場合は、成年後見人とは別に特別代理人の選任を家庭裁判所に申し立てなければなりません。

4-5.Q:相続人に未成年者がいます。親が代理人になることはできるでしょうか?

相続人に未成年者がいる場合は、代理人を立てなければなりません。通常は親が代理人となります。ただし、代理人である親が同じ相続の相続人であれば、代理人になることはできません。
たとえば、父が亡くなり相続人である子が未成年者である場合、その子の母は被相続人の妻でもあり、同じ相続の相続人になります。このようなときは、その子の母は代理人になることはできません。

このように親と子で互いの利益が相反する場合は、特別代理人の選任を家庭裁判所に申し立てなければなりません。
親と利益が相反する未成年者が複数いる場合は、その人数だけ特別代理人が必要になります。

4-6.Q:遺産分割協議をやり直すのはどのようなとき?

遺産分割協議のやり直しには、任意でやり直す場合と遺産分割協議が無効になってやり直す場合があります。

◆任意で遺産分割協議をやり直す場合
一度遺産分割協議をまとめたものの、あとになって一部の相続人が異議を唱えた場合や、新たな財産が見つかった場合には、遺産分割協議をやり直すことができます。

ただし、新たな財産が見つかった場合は、先に行った遺産分割協議はそのままにして、新たに見つかった財産だけを対象に協議することもあります。

◆遺産分割協議が無効になってやり直す場合
次のような場合には遺産分割協議は無効になり、協議をやり直さなければなりません。

・ 戸籍上明らかになっている相続人を一人でも欠いて遺産分割協議が行われた場合。
・ 遺言によって包括受遺者(※)となっている人を除いて遺産分割協議が行われた場合。
(※)「遺産のうち3分の1を与える」といったように、遺言で財産を具体的に定めずに割合を示して相続人以外の人に財産を与えることを包括遺贈といい、包括遺贈される人を包括受遺者といいます。

ただし、次のような場合には例外として、遺産分割協議はやり直しません。
遺産分割協議に加われなかった相続人は、他の相続人から金銭を受け取ることになります。

・ 相続人が失踪宣告によって死亡したとみなされ、その相続人を除外して遺産分割協議を行い、その後その相続人の生存が判明して失踪宣告が取り消された場合。
・ 相続開始後の認知によって相続人となった人を除いて遺産分割を行った場合。

5.遺産分割協議がまとまらない時は家庭裁判所の調停手続き

相続人同士での話し合いがこじれると、遺産分割協議がまとまらないことも起こりえます。

このようなときは、家庭裁判所に調停を申し立てます。
調停とは、裁判官と2名以上の調停委員が当事者に加わり、話し合いによって遺産分割を成立させるものです。
調停が成立すると、遺産分割協議書に代わって調停調書が作成されます。

調停によっても遺産分割が成立しない場合は、審判手続きに移行します。
遺産は家庭裁判所の審判によって分割されます。

家庭裁判所での調停手続きは当人同士でも可能ですが、専門家である弁護士に手続きを依頼することで法的に不利にならないように調停を進めることができます。特に相手方が弁護士に依頼しているような時にはこちらも弁護士に依頼することが通常です。

6.まとめ

ここまで、相続にあたって知っておきたい遺産分割協議についてご紹介しました。
遺産分割協議書そのものを作成することはそれほど難しいことではありません。どちらかといえば、相続人の全員が納得できる形で遺産を分割することの方が難しいものです。相続人同士で話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所に持ち込むことになってしまいます。それでは亡くなった人も浮かばれません。

遺産分割でわからない点があれば、早めに専門家に相談することをおすすめします。
一般的には司法書士に相談することになりますが、相続税が関係するのであれば税理士に、相続人同士でモメているのであれば弁護士に相談するとよいでしょう。(提供:税理士が教える相続税の知識