あなたは身の回りで亡くなった人に相続人がいない、または相続人はいるが全員が相続放棄をしてしまい、相続財産を管理する人がいなくてお困りではないでしょうか。
特に特定受遺者や特別縁故者(※)などの財産を受け取る権利がある方は、相続財産管理人について知る必要があります。
なぜなら、亡くなった人が財産を残されていたときに、債権者や特定受遺者、特別縁故者などの利害関係者は、このままの状況にしておくと相続財産から自分がもらえるはずの財産をもらうことができなくなってしまう恐れがあるからです。
まずは、相続財産が不当に失われることがないように、家庭裁判所で相続財産管理人の選任を行いましょう。 相続財産管理人とは、相続財産の調査や管理、換価等を行うための役割を担う方になります。
裁判所での手続きときくと、煩雑で素人では難しそうと感じるかもしれませんが、ご自分で行うことも可能です。 ここでは、相続財産管理人の仕事や選任方法、また選任後の大まかな流れを解説していますので、参考にしてください。
(※)特定受遺者=遺言で指定された財産を受け取る人。 特別縁故者=被相続人と同一生計だった人や被相続人の療養看護に努めた人など。
1.相続財産管理人とは
1-1.相続財産管理人が必要とされるケース
相続財産管理人とは、亡くなった人の相続財産の調査や管理を行う人のことで、その相続財産に関わる利害関係者が家庭裁判所に選任を申し立てることができます。
相続財産管理人が必要とされるケースの代表例は、相続人がいない人の相続財産を受け取ろうとする場合です。具体的には、次の【A】のようなときに【B】のような行為をする場合が考えられます。
【A】
- 相続人全員が相続放棄した。
- もともと相続人がいない(父母、祖父母が全員亡くなり、兄弟姉妹、配偶者、子がいない場合など)。
【B】
- 被相続人に対する債権を債権者が回収しようとする場合。
- 被相続人の特別縁故者が、相続財産の分与を受けようとする場合。
- 被相続人が共有していた不動産の共有者が、被相続人の持分を取得しようとする場合。
一般的に、相続財産は被相続人が亡くなった時点から相続人の共有財産となり、遺言や相続人どうしの話し合いによって配分が決められます。配分が決まるまでの手続きや相続財産の管理は、相続人が共同で行います。
上記【A】の例のように相続人がいない場合は、相続財産は債権者や特定受遺者、特別縁故者などの利害関係者に与えられます。このとき、利害関係者が自ら相続手続きや相続財産の管理をするのではなく、相続財産管理人を立てて手続きを進めることになります。
1-2.相続財産管理人の仕事
相続財産管理人は、一般的にはお亡くなりになった方の居住地域で活動している法律の専門家が選ばれることが多く、次のような業務を行います。
- 相続財産の調査
- 相続財産の管理・換価
- 相続財産からの支払
まず、被相続人の相続財産がどれぐらいあるかを調査し、相続財産を管理します。債権者に対する支払いがあれば、相続財産から支払います。必要に応じて相続財産を競売にかけることもあります。 これらの業務の一連の流れは、「3.相続財産管理人の選任後の流れ」でご紹介します。
2.相続財産管理人の選任手続きの流れ
- 必要書類の準備
- 家庭裁判所への申立て
- 審判
相続財産管理人は、利害関係者からの申し立てによって家庭裁判所が選任します。利害関係者は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てを行います。 なお、申し立ては、「申立書」に必要事項を記載し、次項で説明する添付書類を添えて家庭裁判所に提出するだけで可能です。申立書の書式や記載例については、以下の家庭裁判所のページを参照してください。
また、実際に申し立て手続きを行うには司法書士や弁護士に依頼することもできますが、ご自身で行っていただくことも可能かと思います。 裁判所というと敷居が高くて、相談できないイメージをお持ちの方も多いですが、実際には相談窓口もありますので、手続きに関して直接相談に行かれてもよいでしょう。
2-1.相続財産管理人の選任申し立てに必要な書類
相続財産管理人の選任申し立てに必要な書類は次のとおりです。
- 相続財産管理人選任の申立書(家事審判申立書、800円分の収入印紙を貼付)
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍も含む)
- 被相続人の父母の出生から死亡までの戸籍謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本
- 【被相続人の子(およびその代襲者)で死亡している人がいる場合】被相続人の子(およびその代襲者)の出生から死亡までの戸籍謄本
- 【被相続人の兄弟姉妹で死亡している人がいる場合】被相続人の兄弟姉妹の出生から死亡までの戸籍謄本
- 【代襲者としての甥または姪で死亡している人がいる場合】被相続人の甥または姪の死亡の記載がある戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続財産を証明する資料(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預金通帳の写し、残高証明書など)
- 申立人と被相続人との利害関係を証明する資料(戸籍謄本、金銭消費貸借契約書写しなど)
- 【相続財産管理人の候補者がいる場合】候補者の住民票または戸籍附票
(家事審判申立書 記入例)
引用元:裁判所HP
被相続人に相続人がいないことを確認するためには、父母の代までさかのぼって戸籍を調べる必要があります。これらの戸籍は複数の市区町村から取り寄せなければならないことも多く、もれなく収集するためには司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
2-2.相続財産管理人を選任するための費用と報酬について
必要書類を集める費用 相続財産管理人の選任申し立てに必要な書類を発行してもらうには、市区町村役場に支払う手数料が必要です。戸籍謄本と除籍謄本・改製原戸籍の手数料は次のとおりです。
- 戸籍謄本 1通あたり450円
- 除籍謄本・改製原戸籍 1通あたり750円
出生から死亡までの戸籍謄本は、移籍や法令の改正によって何通かに分かれることが多いので、その数だけ手数料が必要です。このほか、戸籍附票と住民票の発行にも手数料が必要ですが、金額は市区町村によって異なります。さらに、書類の収集を専門家に依頼した場合は、専門家に対する報酬も必要になります。
相続財産管理人の選任申し立ての費用 相続財産管理人の選任申し立てに必要な費用は次のとおりです。
- 収入印紙800円分
- 連絡用の郵便切手
- 官報公告料 3,775円
収入印紙は申立書に貼って提出します。連絡用の郵便切手は、家庭裁判所によって必要な額が異なります。官報公告料は、家庭裁判所の指示があってから支払います。
相続財産管理人の報酬 相続財産管理人の報酬は相続財産から支払われます。通常、この報酬は親族の場合は無報酬となり、弁護士や司法書士等の専門家が担当する場合には、財産規模によってかわってきますが、月額約数万円程度となります。相続財産が十分でない場合は、次の項目でご紹介するとおり「予納金」を納めなければならないことがあります。
2-3.選任の請求にあたり「予納金」を納める必要
相続財産の大半が不動産であって現預金が少ない場合や相続財産自体が少ない場合などでは、相続財産管理人への報酬が支払えない恐れがあります。このようなとき、あらかじめ報酬にあたる額を「予納金」として家庭裁判所に納めなければならない場合があります。
相続財産管理人の報酬が相続財産から支払うことができれば予納金は全額返還されますが、予納金は数十万円から百万円程度必要とされます。
3.相続財産管理人の選任後の流れ
家庭裁判所によって選任された相続財産管理人は、次のような手順で相続財産を管理・処分します。法律でさまざまな手続きが定められており、すべての手続きが終わるまでに1年以上かかることもあります。
- 相続債権者・受遺者に対する請求申出の公告
- 相続債権者・受遺者への支払
- 相続人の捜索の公告
- 特別縁故者への財産分与
- 不動産持分の共有者への帰属
- 国庫への帰属
3-1.相続債権者・受遺者に対する請求申出の公告
家庭裁判所によって相続財産管理人が選任されれば、その旨が官報で公告されます。
相続財産管理人の選任の公告から2か月以内に相続人が見つからなかった場合、相続財産管理人は相続債権者・受遺者に対して請求の申し出をするように公告しなければなりません。相続債権者・受遺者の存在がわかっている場合には、相続財産管理人はこの公告とは別に個別に請求を申し出るよう促します。
相続債権者・受遺者に対する請求申出の公告の期間は2か月以上必要です。相続債権者・受遺者は、この期間内に申し出をしなければ遺産を受け取ることはできません。
3-2.相続債権者・受遺者への支払
相続債権者・受遺者に対する請求申出の公告の期間が終了すれば、相続財産管理人は、相続財産から相続債権者・受遺者に対して支払いを行います。まず、相続債権者に対して支払った後、受遺者に対して支払います。相続財産管理人は、必要に応じて相続財産を競売にかけます。
ここで相続財産をすべて使い切って残余財産がなくなれば、手続きは終了します。
3-3.相続人の捜索の公告
相続債権者・受遺者に対する請求申出の公告の期間が終了してもなお相続人が見つからなかった場合は、相続人の捜索の公告を行います。この公告の期間は6か月以上必要です。
この公告によって相続人が現れた場合には、相続財産は相続人に与えられ、手続きは終了します。
3-4.特別縁故者への財産分与
相続人の捜索の公告の期間内に相続人が見つからなかった場合、相続財産は家庭裁判所によって特別縁故者に与えられます。
財産分与を受けたい特別縁故者は、相続人捜索公告の期間の終了後3か月以内に、家庭裁判所に特別縁故者への財産分与を申し立てる必要があります。
3-5.不動産持分の共有者への帰属
相続人も特別縁故者もいない場合であって、被相続人の相続財産に不動産の共有持分がある場合には、その不動産の共有持分は他の共有者に分け与えられます。
3-6.国庫への帰属
以上の手続きを経てもなお残る相続財産があれば、最終的に国庫に帰属、すなわち国のものとなります。
4.まとめ
被相続人に法定相続人がいない場合で、利害関係者が相続財産を受け取るためには、自ら手続きを行うのではなく、相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てて、相続財産管理人の指示に従うことになります。相続財産を受け取るためには、さまざまな手続きが必要であり、間違えると手続きが無効になってしまいます。
被相続人に相続人がおらず、自身が利害関係者に当てはまる可能性があるときは、まずは、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。(提供:税理士が教える相続税の知識)