経済協力開発機構(OECD)のデータによると、2017年の日本の労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は、1時間当たり47.5ドル。米国と比較すると、3分の2程度しかない。これはOECD加盟36カ国中20位で、先進7カ国中では1970年以降47年にわたって最下位という不名誉な結果を残している。このように、長年にわたって日本の労働生産性の低さは指摘されてきた。
しかし、超高齢化社会の到来とグローバル社会での競争激化の中で、企業や政府はようやく重い腰を上げようとしている。日本人の働き方が見直される中で、ホワイトカラーの生産性向上に寄与すると期待されているのが「OCR」と「RPA」だ。今回は、この「OCR」と「RPA」について詳しく紹介していく。
(参照:公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較」)
2017年度のRPA市場は4.4倍成長
RPA(Robotic Process Automation)とは、ロボットによる業務自動化のことを指す。定型的なパソコン操作(入力、クリック、コピー、ペーストなど)をあらかじめプログラム上で設定しておき、自動的に実行するシステムだ。一方で、OCR(Optical character recognition)は光学文字認識技術を指す。紙の文書に記載された内容を特殊なスキャナで読み取り、電子データ化する技術だ。
調査会社のアイ・ティ・アールによると、2017年度(2017年4月~2018年3月)のRPA市場は売上金額ベースで35億円。前年度の8億円から約4.4倍もの急成長を遂げた。一方で、同年度のOCR市場規模は34億円となっている。同社は2017年度を「それまで金融・保険業など一部の業種で先行していたRPAツール導入の動きが、他業種へも広がった年」だと位置づけ、今後も市場拡大が続くとみられる。2022年度のRPAツール市場規模は400億円まで成長する見通しだ。
1年間で110万時間のパソコン作業を削減=三井住友ファイナンシャルグループ
上記の調査でも指摘されているように、RPAやOCRはペーパーワークの多い金融や保険業界で積極的に取り入れられ始めている。三井住友ファイナンシャルグループは、2017年4月からの3カ年計画で、デジタル化による生産性向上やペーパーレス化を目指している。生産性向上の切り札とみなされているのがRPAの導入だ。
本格導入からの1年間で、700項目の作業についてのべ110万時間ものパソコン作業を削減する効果を得たという。例として、営業担当者が顧客を訪問する際のレポート作成の自動化がある。以前は、担当者が社内システムなどから情報収集し、1件ずつ手作業で作成していたが、これを自動化。始業前にソフトウェアがその日の営業訪問先を確認し、顧客ごとに最適なレポートを作成する。
レポート作成をソフトウェアに任せることで、営業担当者は提案内容の精査など、より付加価値の高い業務に専念できるようになったのだ。また、金融取引でミスや問題がないかチェックする部署では、データ処理を自動化し、エラーが発生したケースだけ、行員が目視で確認するようにオペレーションを変更した。いわば、人間はソフトウェアやロボットを「監視」する役割だ。
こうした業務改革により仕事内容にメリハリが出たほか、働き方改革を進める上での士気向上にもつながったのだ。このほか、手書きの文書をOCRで読み取ってデータ化することで、海外送金を請け負う部署で処理件数が拡大し収益増にもつながっているという。
RPAやOCRの導入、行政でも
RPAやOCRの導入による業務効率化の動きは、行政機関でも推進されつつある。行政コスト削減のために正職員の採用は抑えられ、非正規雇用に置き換わり職員全体の人数も削減されているのだ。一方で、少子高齢化やグローバル化による外国人住民の増加など、難しい課題にも直面している。そうした中、コンピューターで代替できる業務をRPAによって自動化し、行政サービスの付加価値の向上が求められているといえるだろう。
実際、茨城県つくば市では、424時間以上かかっていた業務をRPAで自動化したことで、79.2%もの業務時間削減を実現したという。今後、減り続けていく労働力をどのようにやりくりし、業務の質を維持していくのか。企業や行政の工夫が求められている。(提供:百計ONLINE)
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