(本記事は、野木 志郎氏の著書『日本の小さなパンツ屋が世界の一流に愛される理由』=あさ出版、2019年1月20日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
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プライベートのつながりをすぐ仕事に結びつけるほど野暮なことはない
プライベート脳と仕事脳
私はプライベートと仕事の人間関係を脳の使い方で考えたりします。「脳?」と言われるかもしれませんが、プライベートは右脳、仕事は左脳といった感じです。
私はよく朝早くから会社の始業時間である午前9時までは右脳を使い、デザイン仕事をしたりします。そして、始業後は、ずーっと左脳を使って実務関係の仕事。そうすると、夕方頃にはもう完全に麻痺状態で、アフターファイブは右脳を使いたくなってきます。早くお酒を入れてリラックスさせ、音楽を聴きに行ったり、バンドをやったり、気の許せる人と会食したりと、右脳が喜ぶことを中心に行動したくなります(そんなん言い訳じゃあ! と言われそうですが……)。
そのアフターファイブで右脳を喜ばすことを目的としているところに、左脳的な仕事の話が入ってくると途端に脳がショート(笑)。だから仕事の話をすると、ほとんど忘れているんです(これは私の周りの人、取引先も含めて全員が周知の事実です)。
もちろん仕事上の会食は頻繁にあります。この時が大変。左脳を使うのは夕方でもう終わっているので、飲んでいる時には仕事の話はほとんどしません。仮にしたとしても、処理能力がないので、すべて忘れています(笑)。
右脳と左脳をうまく連携させることができない不器用な人間と言ってしまえばそれまでですが、一緒にうまく使おうとするとショートする。なんかここら辺が人間関係に通じるところがあると思ってしまいます。
仕事だけでなく、プライベートで会食があって、いろんな方と知り合うこともあります。紹介されたり、紹介したり。でも、プライベートでつながっても、すぐ仕事につなげることはありません、と言うかしません。
くだらないと思われるかもしれませんが、これが人付き合いのセンスなのかもしれません。仕事の業界が近くて、お互いにメリットがあって、「次回ビジネスしましょう!」という話であればいいのですが、人を介してプライベートで知り合った人に突然仕事の話を持ちかけるのは、ピンポンも押さないで、土足で相手の部屋に踏み込むようなもの。そこまでやると「仕事困ってるの?」と思われるのがオチですし、損です。絶対にアカンとは言いませんが、あなた自身のセンスを疑われます。
誤解を招くといけないので言っておきますが、私は基本的に来る者は拒みません。人が来るのはまったく問題ないですが、こちらからは行きたくない、ということです。
そこまで神経質になる必要はないと思われるかもしれませんが、人の第一印象は意外と最後までモノを言います。
私の場合、たまたま知り合った人が、攻めたい会社の人であったとしても、あえてそこで仕事の話で攻め、アポイントを取るのではなく、逆に相手にもう一度会いたいと思わせるくらいのインパクトを与えて、アポイントを取らせてほしいと相手に言わせるように話題を持って行きます。人付き合いのセンス、めっちゃ大切やと思います。格好悪いことはやめておきましょう。
餃子荘ムロでは「自転車」「食べ物」の話だけ?
先述の餃子荘ムロで他のお客さんと話す時は、ビジネスのビの字も出てきませんでした。後々ビジネスでつながることがあるにしても、その場はほとんど趣味の話だけ。音楽と自転車と食べ物の話、たまに女の話(笑)も出ましたが。名刺に刷られた会社名や業界や肩書に縛られない場所だったからこそ、会話もはずんだのです。
もし「どんなお仕事ですか」「そちらの業界の景気は」「御社でしたら△△さんと一度お仕事させていただいたことが……」なんて野暮な話をはじめてしまったら、きっと相手の地位や年齢を気にしながらの会話しかできないでしょう。
相手の地位が高いとわかれば、知らず知らずのうちにへりくだる態度を取るかもしれませんし、同じ業界で競合他社の社員だと判明すれば、気を許しにくくなる。せっかくのアフターファイブが仕事の延長になって気持ちが休まりません。
人間同士がつながりを持つのに、ビジネスとプライベートは分けるべきだと思います。最近、SNS大流行なんで、ビジネスとプライベートの境目が難しいですが、SNSは近況報告の場で、人とつながるためのツールだと思うと、ちょっと違和感を感じてしまうのは私だけでしょうか? 人とつながるのはリアルだけで十分だと思います。
仕事だけでも多くの人と会うのに、プライベートまで仕事と一緒にしたら、もうね、大変っすよ。脳がショートして……、しんどいっす!
大事なヒトとの出会いを取り持つのは大事にしているモノ
NOBUさんって知ってますか?
私は「NOBU」グループの(オーナーシェフ)松久信幸(NOBU)さんと包帯パンツでつながりました。
NOBUさんとの出会いは、ある歯医者さんがきっかけです。千趣会時代に通っていた会社近くの歯医者さんが私に合わず困っていたところ、上司がホテルオークラ別館にあるミヤタデンタルオフィスを紹介してくれました。行ってみると宮田典男先生の腕前が実に確かで、それからすっかり行きつけになってしまいました。
しばらく通っているうちに私が会社を辞めて独立することになり、そのことを宮田先生に伝えたところ、「どんな事業をやるの?」と興味津々。「包帯でパンツを作ったんですよ」「何それ!」
そこで商品を渡して宮田先生に穿いてもらったところ、大変気に入ってもらえました。私はここぞとばかり、宮田先生にパンツを何枚か渡し、厚かましくも「周りに渡せる人がいたら渡してください」とお願いすると、どでかい会社の社長さんをはじめ、いろいろな方にパンツを渡してくださったのです。
そのひとりが、NOBUさんでした。
ご存知の方には説明するまでもありませんが、NOBUさんこと松久信幸さんは、新宿の寿司屋で修行したのち、24歳でペルーに渡って日本食レストランを開業。その後は、アルゼンチンのブエノスアイレスで働いた後、アメリカのアラスカ州にはじめて自分の店を持ちますが、なんと火事でお店をなくしてしまわれます。しかしそこから再起を遂げるのです。
1987年、ビバリーヒルズに「MATSUHISA」をオープンすると、ハリウッドセレブたちの間でまたたく間に評判となり、常連客だったロバート・デ・ニーロさんとともにNYに日本食レストラン「NOBUニューヨーク」を開店。
「NOBU」で食事をすることは、セレブの間でひとつのステータスとなっていきました。
現在、日本では虎ノ門にNOBUトーキョー(in 虎ノ門)を展開する他、世界中で44店舗を、「MATSUHISA」は世界で8店舗を展開しています。
包帯パンツが取り持つご縁
そのNOBUさんが、ミヤタデンタルオフィスがかかりつけであることを宮田先生にお聞きした私は、軽い気持ちで「それならNOBUさんに、包帯パンツをお渡し願えますか?」とお願いしました。
その時、会社を立ち上げたばかりでもあったので、小さなチャンスでもモノにしたい、とにかくひとりでも多くの人に包帯パンツを穿いてもらいたい、そう思って必死でした。ただ、ミヤタデンタルオフィスに置いてあるNOBUさんのレシピ本を見て「この方は誰ですか?」と聞いたくらいなのですから、NOBUさんがそんなにすごい人だとはまったく知りませんでした(NOBUさん、すんません!)。
そうこうしていると、後日先生が「NOBUさん、パンツすごく気に入ってたみたいだよ」と教えてくれました。それはよかったと胸をなでおろしていると、今度はすごいサプライズが!
ある時、宮田先生のほうから「急な患者さんが入ったので」と、予約した時間の急な変更をお願いされました。私は予定がなかったので承諾し、指定された時間に行って治療台へ。そこで、口を開けているまさにその時、何やら向こうのほうから大男が近づいてくるではありませんか。
宮田先生が一言、「こちらNOBUさん」。口空けたままの私は「んがんがんが!」。これにはほんとびっくりしました。
ちょうどNOBUさんが私と同じ日に予約を入れたので、私の時間をちょっとずらせば紹介できる、と先生が仕組んだのです。
その後NOBUさんを通じて、ロバート・デ・ニーロさんやジャズミュージシャンのケニー・Gさん、元サッカー・イングランド代表のデビッド・ベッカムさんの手に包帯パンツが渡る……ことになるのですが、この時はそんなこと知るよしもありません。
「包帯パンツ」という、自分にとって一生の仕事にしてもいいと思えるモノが、宮田先生やNOBUさんとの出会いを取り持ってくれたのです。
その人に興味を持てなければその先の人ともつながれない
目当ては“先〟にいる有名人?
NOBUさんと知り合ってから「親しい」と呼べる関係になるまでに、実は5、6年はかかっています。そもそも、カリスマ料理人と私みたいな小さい会社の経営者が親しくなれただけでも奇跡なのですが、親しくなれた理由に心当たりがあるとすれば、ひとつだけ。私が仕事を拡大するために「NOBUトーキョー」に通っているのではなく、「NOBUトーキョー」を楽しむようになったからだと思います。
NOBUさんが世界中のセレブやVIPと親交があることは、知り合ってすぐにわかりました。私としては正直、NOBUさんを介して包帯パンツをセレブやVIPにめっちゃ売り込みたかった(笑)。けれども、それはNOBUさんにとって決して楽しいと言えることではありません。
もっと言えば「パンツ」なので、渡した相手に変な誤解を生む可能性すらある。だから決してお願いはしませんでした。
宮田先生にNOBUさんを紹介いただいてから、「NOBUトーキョー」には毎月通いました。NOBUさんは毎月一度3日間だけ帰国されるのですが、その間お店はNOBU WEEKと呼ばれるイベント状態に……。とにかくその3日間は、NOBUさんに会いに来る人でお店はいっぱいなのです。
先にも書いたように、通いはじめた当初は「包帯パンツ」をひろめたい、著名人を紹介してもらいたい、野木志郎を気に入ってもらいたい、そんな野心が大きかったと思います。つまり、「NOBUさんの先にいる人」を期待していたのです。しかし、その頃はNOBUさんと会っても挨拶する程度の間柄でしかありませんでした。
ただ、何度も通って、NOBUさんの苦労話などを聞くにつけ、会えば会うほど「この人はすごい」と尊敬するようになりました。そして「NOBUトーキョー」に行く目的がいつの間にかNOBUさんの熱い思いや、いろんな話を聞くことに変わり、NOBUさんに会うことが毎月一度の自分へのご褒美デーになっていったのです。最近では、私の座ったテーブル席が、NOBUさんの休憩席になってきたりして、本当にありがたいことだと思っています。
こんなこともありました。ひとりで「NOBUトーキョー」に行った時、NOBUさんはコースメニューの試食をしている最中でした。私が挨拶するとNOBUさんは「野木さん、こっちにおいで」と私を呼び寄せ、一緒にコース料理の試食をさせてくれたうえに、意見まで求められたのです。もちろんすべて「むっちゃ美味いっす!」としか言っていませんが(笑)。
今ではただただ、NOBUさんと知り合えたことに感謝しています。
私にとっての「NOBUトーキョー」に通う理由は、その〝先〞を期待しているからではなく、ただNOBUさんに会いたいからだけなのです。
その「先」が関係なくなると、質問が変わってくる
目の前にいる人の〝先〟にしか興味がない人は、相手にも〝先〟に関する質問しかしません。たとえば、NOBUさんに対してであれば、「最近、デ・ニーロと会ってるんですか?」「最近『NOBU』に来た有名人って誰ですか?」などなど。そんなこと聞いてどうするの?って感じですよね。でも、昔の私ならそうしていたと思います。
目の前にいる人自身に興味がある場合は、質問が変わってきます。NOBUさんに対する私の質問を例に挙げるなら、最近実際に聞いた質問ですが、「どないしたらNOBUさんみたいな大成功を収めることができるんですか?」
ちなみにNOBUさんの答えは「今のままの情熱を持って行けば必ず成功する」くっそー! 一言一言がカッコええな~!
僭越ながら、今の私も似たようなことをNOBUさん側の立場として味わっています。「最近NOBUさんと会ってます?」「ああ、今度会いにお店に行くよ」「じゃあ私も連れてってください」……って何やねん! どつくぞ! 自分で行けや!
こういうことは、世の中にたくさんあります。取引先の人と懇親の食事を囲んでいる時、本当にこのテーブルでの会話を楽しんでいるのか、その〝先〞の大きな取引や便宜を期待しているのか。そんなものは、すぐにわかっちゃいます。「目的は何?」と。それがわかった時点でその人とのつながりは「即アウト」です。
野木志郎
1960 年、大阪府高槻市生まれ。立命館大学法学部法学科卒業。1987年株式会社千趣会入社。紅茶、出版物、音楽CD、磁器、プラスチック製品等々の仕入れや、モデル「SHIHO」単独のファッションカタログをプロデュースするなど、新商品、新規事業を中心に担当する。2002 年に千趣会を辞め、父親の会社「ユニオン野木」に入社。その後「包帯パンツ」を開発し、2006年にログイン株式会社を設立して独立する。人と同じことをするのが大の苦手で、2008 年にプリントのかわいいパンツが流行する中、戦国武将をイメージしてデザインした包帯パンツ「甲冑パンツ」を原宿の東郷神社にて発表。このことがきっかけで全国の新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどあらゆるメディアに合計500 回を超える取材を受けるほど注目を集める。包帯パンツは2019年1月現在、世界で130 万枚を売上げ、世界的なシェフ・松久信幸(NOBU)氏やロバート・デ・ニーロ氏など、国内外の著名人にも多くのファンを持つ。
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