要旨

● 3月短観における今期の収益計画によれば、売上高の半期ごとの伸び率は19年度以降も鈍化を続けるが、経常利益については19年度下期に増収増益を達成すると計画している。夏場に向けて中国経済の持ち直しが見え始め、収益回復への市場の期待が高まれば、株式相場の押し上げ要因となることが期待される。

● 2019年度に最大の増収計画を立てているのが「対個人サービス」であり、それに続くのが「宿泊・飲食サービス」、「対事業所サービス」、「化学」、「不動産」と、サービス関連業種が連なる。19年度はこれまでの雇用者報酬の増加に加えて、働き方改革等に伴う余暇時間増加の恩恵を受けやすいサービス関連の増収計画が期待される。

● 経常利益計画から19年度の業績を牽引することが期待される業種を見ると、燃料価格や原料の古紙調達価格が落ち着いた「紙・パルプ」、原油価格急落に伴うマージン悪化や在庫評価損で昨年度が大幅減益となった「石油・石炭製品」、高い増収計画を立てている「宿泊・飲食サービス」、「木材・木製品」、昨年度に設備老朽化に伴う操業トラブルが相次いだ「鉄鋼」と続く。売上高と同様のサービス関連に加えて、昨年度に原油をはじめとした市況価格急変動の悪影響を受けた企業がけん引役として期待される。中国経済の回復の恩恵も受けやすい業務用機械や電気機械が下期に二けた増益計画を立てていることにも注目。

● 大企業製造業の想定為替レートは、2019年度 108.9円/㌦だが、足元のドル円レートは111円台。中でも保守的に今期の為替レートを想定しているのが、「生産用機械」の107.9円/㌦、それに続くのが「木材・木製品」の108.2円/木製品」の108.2円/㌦、「非鉄金属」の108.3円/㌦、「非鉄金属」の108.3円/㌦、「自動車」の108.6円/㌦、「業務用機械」の108.7円/㌦となっている。 ● 今後は米中通商協議や英国のEU離脱に伴う円高のリスクもあるが、中国経済の回復を受けて各国で景気に対する過度な懸念が後退する一方で、FRBが利上げ打ち止め姿勢を維持して為替レートが安定をしていれば、こうした今期の為替レートを保守的に想定している輸出関連産業に属する企業を中心に今期業績の上方修正も期待される。

業績
(画像=PIXTA)

今年度は増収減益の計画

 4月1~2日にかけて公表された3月短観の大企業調査は、3月下旬にかけて金融・保険を除く資本金10億円以上の大企業約2千4百社に対して行った調査であり、3月12日に公表された法人企業景気予測調査に続いて、今期業績予想の先行指標として注目される。

 そこで本稿では、同調査を用いて、4月下旬から本格化する期末の決算発表で堅調な今年度計画が見込まれる業種を予想してみたい。

 資料1は、3月短観の調査対象大企業(全産業、除く金融)が計画する半期別売上高・経常利益前年比の推移を見たものである。まず売上高を見ると、18年度下期は依然として前年比プラスの計画となるものの、前回調査からは▲1.1%の下方修正となっており、19年度に至っても前年比プラス幅が縮小する計画となっている。

 一方、経常利益は18年度下期から前年比で大幅減益に転じており、前回調査からの修正率も▲2.6%となっている。ただ、19年度の経常利益も減益計画となっているものの、下期に前年比で+2.0%の増益に転じる見込みとなっている。このことから、企業は業績の底を今年度前半と見ており、今年度後半は持ち直すと予想している。

 つまり、産業全体で見れば、売上高の半期ごとの伸び率は19年度以降も鈍化を続けるものの、経常利益については19年度下期に増収増益を計画している。特に、夏場に向けて中国経済の持ち直しが見え始め、収益回復への市場の期待が高まれば、株式相場の押し上げ要因となることが期待される。

3月短観から見た19年度業績見通し
(画像=第一生命経済研究所)

増収期待のサービス関連

 続いて、3月短観の売上高計画を基に、2019年度において大幅な増収が見込まれる業種を選定してみたい。資料2は19年度の業種別売上高計画を上期と下期に分けて、前年同期比の状況を見たものである。

 結果を見ると、製造業では「木材・木製品」「鉄鋼」「非鉄金属」「造船・重機、その他輸送機械」、非製造業では「通信」「鉱業・採石業・砂利採取業」を除く全ての業種で増収計画となる中で、最大の増収計画を立てているのが「対個人サービス」の前年比+4.7%である。それに続くのが「宿泊・飲食サービス」の同+2.9%、「対事業所サービス」の同+2.7%、「化学」の同+1.8%、「不動産」の同+1.7%であり、サービス関連業種が連なる。

 従って、19年度の業績見通しにおいては、こうした業種に関連する企業についてどれほどの計画が打ち出されるかが注目されよう。特に、19年度はこれまでの雇用者報酬の増加に加えて、働き方改革などに伴う余暇時間増加の恩恵を受けやすいサービス関連の増収計画が期待される。また、不動産も人手不足に伴うオフィス需要が旺盛のようだ。

3月短観から見た19年度業績見通し
(画像=第一生命経済研究所)

増収のけん引役は昨年度悪かった素材関連

 続いて、3月短観の経常利益計画から19 年度の業績を牽引することが期待される業種を見通してみよう。(資料3)。

3月短観から見た19年度業績見通し
(画像=第一生命経済研究所)

 結果を見ると、増益率が最も大きいのは燃料価格や原料の古紙調達価格が落ち着いた「紙・パルプ」の+8.4%となる。それに続くのが原油急落に伴うマージン悪化や在庫評価損で昨年度が大幅減益となった「石油・石炭製品」の+7.3%、高い増収計画を立てている「宿泊・飲食サービス」の+6.5%、「木材・木製品」の+6.2%、昨年度に設備老朽化に伴う操業トラブルが相次いだ「鉄鋼」の+5.0%となる。

 このように、今期の経常利益見通しでは、全産業の増益幅を牽引する業種として、売上高と同様のサービス関連に加えて、昨年度に原油をはじめとした市況価格急変動の悪影響を受けた紙・パルプや石油・石炭製品、電気・ガス、鉄鋼に関連する企業がけん引役として期待される。これら以外の業種でも、中国経済の回復の恩恵も受けやすい業務用機械や電気機械が下期に二けた増益計画を立てていることにも注目だろう。

保守的な為替レート想定で業績上方修正期待も

 なお、3月短観の収益計画では、企業の想定為替レートも公表されることから、業種別の想定為替レートも今期業績見通しの修正の可能性を読み解く手がかりとして注目したい。

 資料4にて実際に今期の想定為替レートを確認すると、大企業製造業における事業計画の前提となる想定為替レートは、2019年度上期108.8円/㌦、下期108.9円/㌦となっているが、足元のドル円レートは111円台となっている。

3月短観から見た19年度業績見通し
(画像=第一生命経済研究所)

 中でも足元のドル円レートよりも保守的に今期の為替レートを想定しているのが、「生産用機械」の107.9円/㌦、それに続くのが「木材・木製品」の108.2円/㌦、「非鉄金属」の108.3円/㌦、「自動車」の108.6円/㌦、「業務用機械」の108.7円/㌦となっている。

 以上の結果を踏まえれば、今後は米中通商協議や英国のEU離脱等に伴う円高のリスクもあるが、中国経済の回復を受けて各国で過度な景気に対する懸念が後退する一方で、FRBが利上げ打ち止めの姿勢を維持して為替レートの水準が安定を続ければ、こうした今期の為替レートを保守的に想定している輸出関連産業に属する企業を中心に今期業績の上方修正も期待される。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣