経営者は、会社を永続的に発展させるため、常に次世代へのバトンタッチを念頭に置かねばならない。過去には実子や親族を後継者として時間をかけて育て、次世代のリーダーとして事業を譲るケースが多かった。

昨今は「家業」という言葉も廃れ、必ずしも同族内での事業承継が最良の選択肢ではなくなりつつある。ここでは、次代につなぐ後継者の育て方について、上場企業の例を見ていこう。

ユニクロ柳井氏は息子に移譲?後継者選びは10年がかりのソフトバンク孫氏

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(画像=Pictrider/Shutterstock.com)

上場企業であっても、創業家や創業社長が中心となり、同族経営をしているケースは多い。最も著名な例は、社長が創業家(豊田家)出身のトヨタ自動車だろう。

また、日本屈指の辣腕経営者として知られるファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が昨年、2人の息子をそろって取締役とし、話題を呼んだ。柳井氏も70歳を迎え、そろそろ引き際を考えつつあるのかもしれない。そもそも柳井氏自身、家業だった紳士服小売店を継いで、一代でグローバルブランドの「ユニクロ」に育て上げた経緯がある。

一方で、創業者があえて実子を後継者に選ばないケースも。例えば、今や通信事業者から日本屈指の投資ファームに変貌を遂げつつあるソフトバンクだ。孫正義社長には娘が2人いるとされているが、表だって父親のビジネスには関わっていないようだ。

孫氏は後継者を実子から選ぶつもりは今のところないようで、一時はGoogle出身のニケシュ・アローラ氏を副社長に据えて、彼が後継者候補だと公言していたこともあった。しかし、ニケシュ氏とは既に袂を分かち、2017年の株主総会では「後継者は10年かけて選ぶ」と発言している。

「ココイチ」の宗次氏、夫婦2人で築いた店や財産は息子に相続させず

夫婦二人三脚で「カレーハウスCoCo壱番屋」を日本一のカレーチェーンに育てた宗次徳二夫妻も、後継者選びで世間をあっと言わせた。

宗次徳二氏は53歳という若さで引退し、経営を妻の宗次直美氏に引き継いだ。夫妻には一人息子がいるが、夫妻は早い段階で「壱番屋は夫婦2人で作ったものだから、息子には譲らない」と決めていたという。

実際に、子息は会社の経営にはタッチせず、プロゴルファーとなって実業家の両親とは全く異なる道を歩んでいる。さらに宗次徳二氏は経営者として一線を退いた後、チャリティー活動にまい進しており、ココイチで築き上げた財産は息子に相続させず、全て寄付するつもりだという。

一方、夫妻に代わってココイチの経営を継いだのは、19歳でアルバイトとして勤め上げた浜島俊哉氏だ。宗次徳二氏は妻の直美氏が社長になったタイミングで浜島氏を副社長に据え、あらかじめ「社長になる自信がついたら、いつでも言ってくれ」と言い置いてあったという。

そして、2002年に浜島氏からの「来期から社長をやらせてほしい」という申し出を受けて、経営を譲った。浜島氏は17年の長きにわたって社長を務め、2018年に海外事業を統括していた葛原守氏に社長の座を譲った。

徹底した現場主義は後継者育成やフランチャイズ拡大にも浸透

自ら手塩にかけて育ててきた会社を第三者に譲るのは簡単なことではなく、宗次氏の鮮やかな引き際には驚きの声も多数上がったが、もともとココイチは独自のフランチャイズシステムでも知られている。

「ブルームシステム(BS)」と呼ばれるココイチのフランチャイズシステムは、十分な経験を積み、しっかりと企業理念を理解した社員にのれん分けする制度だ。入社後に複数の店舗勤務を経験し、経営に必要な能力を培ったのちに、フランチャイズオーナーとして独立する。

これまで700人近いオーナーが誕生しているが、開業3年以内に廃業しているオーナーの割合は2.8%。開業10年以内での廃業は10.9%。実に9割のオーナーが経営を軌道に乗せているのだ。
現場からたたき上げた人材を後継者に据え、さらにフランチャイズパートナーとしても囲い込む。これも全て、創業者宗次氏の徹底した現場主義のたまものだろう。

後継者育成は永遠の課題

このように、後継者選びや育成のスタイルこそ違うものの、成功する経営者は常に、次代へのバトンタッチを念頭においているものだ。次代のリーダーとなる後継者の育成は、経営者の永遠の課題ともいえるだろう。(提供:百計ONLINE


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