(本記事は、金村秀一氏の著書『生産性が3倍になる!右肩上がりの会社が必ずやっている現場ルール』=自由国民社出版、2019年3月30日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
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「まゆみ」の法則
部下を育てるために、上司に必要な3つのことがあります。それは「待つ(ま)」「許す(ゆ)」「認める(み)」です。これらをまとめて、「まゆみ」の法則と言います。
まず、「待つ」。部下が仕事をできるようになるまでじっくり待つ。ある人が1日でできることを、別の人は1年かかる場合があります。その間は、自分を含むほかの人が、代わりに仕事を背負う必要がありますから、本当は1年どころか一日も早く習得してひとりでやってほしいところでしょう。
けれど、そのときに決して言ってはいけない言葉があります。それは、「みんながキミの分まで頑張っているのだから、早くできるようになってくれよ」「なるべく早く頼んだよ」など、事を急かすセリフです。
部下が花開くまで辛抱強く待つことこそが上司の責任とも言えるでしょう。
私なら、まず「1週間でできますか?」と聞き、「ちょっとそれは……」と無理そうな答えが返ってきたら、「じゃあ、東京オリンピックまでにはできますか?」と聞きます。東京オリンピックまでは(本書執筆時の2018年ですと)少なくとも1年半くらいはありますから、いくら何でもそれまでにはさすがにできるでしょう。まずは、相手に「できます」と言わせることが大切です。
頼み方にもコツがあります。それは、「12345、これをやってね」と具体的に手順も含めて細かく指示することです。特に、ゆとり世代の人たちは言わないとやらない、という評がありますが、逆に言うと、彼らは「言えばきちんとやる」のです。そのために、上司は与えるものをきちんと整備し、準備しておくことが大切です。
残念ながら、多くの会社ではこの具体的な手順、先の例で言えば、「12345」にあたる部分がきちんと決まっていません。そのため、指示が人によって異なったり、あいまいになったりしがちです。それが、部下にとっては、「きちんと教えてくれないからわからない」につながるのではないでしょうか。そのために役立つのが先にもお話ししたマニュアルです。
次に「許す」。これは失敗したときに責めず、許したうえで、それをどのように回収すればいいかを一緒に考えることです。
最後に、「認める」。これには3つの価値があります。ひとつは、「いてほしい存在だよ」と伝える「存在価値」。ふたつ目が、「数字が出なくて大変なのによく続けているよね」という「プロセスの価値」。3つ目が、「今の行き詰まりを突破するまでに、あとこのくらいかかるだけだよ」と伝える「成果の価値」です。
なかなか待てないし、許せないし、認められないのが人間です。
ですが、これに気をつけて行なっていると、社員は必ず、しっかりと育っていくはずです。
反抗する部下に、どう対応するか?
部下の中には、反骨精神が旺盛で、言うことにいちいち反発したり、楯突いたりする人もいるでしょう。そのような人たちにはどのように対応したらいいでしょうか?
楯突く部下にはふたつのタイプがいます。
ひとつは、「なぜこれをやらないのですか? こちらのほうがいいのではないですか?」と自分の提案を持ってくるタイプ。
このタイプの人には、その案を実際にやらせてみるのがいいでしょう。「では、自分で音頭を取って一度やってみて」と任せるのです。うまくいったら成長するでしょうし、たとえうまくいかなかったとしても部下にとってはいい経験になるはずです。
もうひとつは、自分の提案もなくただ批判するタイプです。
そのような人たちのことを、私は「言うだけ野党」と呼んでいます。国会中継などを見ているとわかりますが、「ああじゃない、こうじゃない」と否定するだけして、「じゃあ、どうしますか?」と聞いても、明確な答えは出てきません。そのような場合には、「では、代替案を持ってきて」と言います。
ふたつのタイプのうち、自分の案を持ってくるタイプは約2割、残り8割はたいてい「言うだけ野党」です。
ちなみに、私の会社では部下が提案したことはしっかりとやってもらいます。
以前、Cという社員が、「給与や昇給の条件など、評価の仕組みがおかしいのではないですか?」と言い、代替案を持ってきました。そこで、あるとき、その評価法に基づいて社員全員の給与を査定することにしたのです。
その結果、どうなったでしょう? 以前の4倍ほどの社員から、「なぜこのような評価になったのでしょうか? おかしいと思います」というクレームがきたのです。そこで、Cくんに説明してもらうことにしましたが、納得のいくような説明を施すことができず、最後にはみんなに謝る、という事態になりました。
もし「言うだけ野党」の部下があらわれたら、きちんと「自分の案」を提案してもらい、できることなら自分で先陣切ってそれを実行してもらいましょう。うまくいけばほめればいいし、うまくいかなければ「経験を積めたのだからよかったな。また次に期待しているよ」と言えばいいだけです。
それから、「ナナメの関係」を利用するという方法もあります。
上司と部下は「上下」の関係、同僚や同期は「横」の関係です。これに対して、「ナナメ」の関係というのは、他社の社長さんや社員など「第三者」のことを指します。できれば、同じ業種、もしくは似たような取り組みをしているなど、何らかの共通点がある人がいいでしょう。ちょっと離れた距離にいる人からの思いがけないひと言に、目からウロコが落ち、狭くなっていた視野が広がることがあります。
できる上司は部下に良い習慣を強制する
マネージャーの仕事のひとつに、部下に良い習慣を強制することがあります。本人が乗り気でなくても身につけさせるのです。「習慣」ですから、日常的に行なうことが大切です。
たとえば、「ハガキを書く」ということを習慣にするのであれば、「今日お会いしたお客様は売上に大きく貢献してくれそうだから、ハガキを書こう」「昨日お会いしたお客様はたいして買ってもらえそうにないから書かなくてもいいや」という思いつきはダメです。一度決めたら、いつでも、どのようなお客様に対しても、一貫してハガキを書くのです。
ある営業マンは筆ペンでハガキを書くのが大好きで、「どうしたらお礼のハガキを喜んでもらえるか」だけをずっと考えていました。彼のハガキは大評判で、それに伴って、彼は営業成績も上位でした。
彼は筆好きが高じて、しまいには書家になってしまいましたが、もし彼が私の同僚だったら、私は彼にそのハガキを全部見せてもらい、それを真似て徹底的に練習するでしょう。そして、部下にもその方法を教えます。なぜなら、ハガキを書くと高確率で契約がついてくることがわかっているのですから、それをやらない手はないですよね。
良い習慣を部下に強制させるためには、まずマネージャーが良い習慣を身につけておく必要があるでしょう。それが、先にお話しした「環境整備」につながります。
「時を守り、場を清め、礼を正す」という言葉があります。「時を守る」と「礼を正す」は時間厳守、礼儀を正すこと、「場を清める」は文字通り、整理整頓を徹底することです。時間を守れない人は、たとえ今現在数字を取れていても、後々どこかでとんでもないミスをやらかします。場が乱れている人は、多くの場合、部下を育てるのがあまりうまくありません。
本当にできる上司は、場も人も整っています。責任を取る覚悟ができている、とも言えるかもしれません。一見、フラフラしていて本当に仕事をしているのかよくわからないように見えても、困ったときにはしっかりと部下を助けることができます。その覚悟ができている人は、たとえ想定外のことが起ころうとも思考が止まったり、固まったりすることはありません。ましてや逃げ出すことなどないでしょう。
優秀な部下を育てるためにやっておきたいこと
社長をはじめ、上の立場に立つ人は、どんどんと新しい仕事をつくる必要があります。そのためには、既存の仕事をどんどん部下に振ることが大切です。
自分よりも経験の浅い人に仕事を任せるのは、実は非常に忍耐とパワーがいります。「本当は自分でやったほうが断然早いし、精度も高いのにな」と思うこともあるでしょう。
それでも、部下に仕事を振らなければなりません。そうしないと、自分の仕事がたまっていき、やがて既存の仕事に忙殺されて身動きが取れなくなってしまいます。とても新しい仕事に手をつけることなどできません。
自分で仕事を抱えることは、成長の妨げにもつながるのです。
初めて部下に仕事を任せた場合、その出来はよくて「50点」といったところでしょう。あまり期待してはいけません。自分の半分程度の出来だと思っていたほうがいいでしょう。それをチェックして、「この部分を、もう少しこうやってくれる?」とアドバイスして戻します。それを何回か繰り返していきます。そのうちに、徐々に精度も上がり、直す箇所も少なくなっていきます。しまいには一度投げただけで、満足のいくものが戻ってくるようになるでしょう。
先に、優秀な人は打席数に数多く立っている、という話をしましたが、打席に立つ機会を与えてあげるのも、上司の役目です。経験をさせてあげる。仕事のアドバイスを野球に例えると、「もう少し肩を引いたほうがいいよ」というような細かいフォームチェックにあたります。
少しずつアドバイスを繰り返すうちに、やがてひとりで打席に立って、ヒットを打てる選手へと育っていくのです。
話は聞いても共感はしない
最近、「部下がゆとり世代で、何を考えているかさっぱりわからなくて……」とか「部下に仕事を頼む言い方がよくわからない」と悩む上司の方が増えているようです。ゆとり世代の人たちのことがわかるかわからないかで言うならば、私だってわかりません (笑)でも、彼らの話は聞きますし、しっかりと仕事は振ります。
ここで大切なことは、話は聞いても、共感したり、考えに賛同したりする必要はない、ということです。その代わり、ダメ出しもしなければ、「俺の若いときには……」などと自分の持論を押しつけるようなこともしてはいけません。ただ、「そうなのかあ」とあいづちを打ちながら、耳をかたむけるだけです。そして、「でも……これやってね」と、やってほしいことはきちんと頼みます。それはそれ、これはこれです。
話を聞くと、つい何か言いたくなってしまうかもしれませんが、「ただ聞く」ということも時には必要です。
「聞く」ということで言えば、私は月に1回奥さんの話をひたすら聞く「取り締まられ役会」という時間を設けています。つい、「でも、それは……」などと口をはさみたくなることも時にはありますが、それは我慢。とにかく「今日は妻に言いたいことを言ってもらう日。私は聞き役に徹する日だ」と肝に銘じて、つき合っています。
人は話を聞いてもらうことで、気持ちがスッキリしたり、自分の気持ちに気づいたりします。それによって家族円満になるならおおいにけっこうではないでしょうか。
部下とのつき合いも同じです。
聞き役に徹することで、関係が良好になることは非常に多いです。
金村秀
ウィルウェイグループ代表取締役社長。成功し続ける社長のための経営塾『100年塾』塾長。1973年東京生まれ。東京国際大学卒。1995年弱冠21歳の時に創業。企業のWEB制作や顧客管理、マーケティングサポート、飲食業界、人材派遣業界など会社の成長ステージに合わせて事業を展開し、創業社長として今期25年目を迎える。経営計画書と環境整備を主軸とした経営により、労働生産性は中小企業の3倍と高い生産性を実現。少数精鋭の強みを生かしながら、過去最高益を更新し続けている。これまで四半世紀の経営経験から得たノウハウと、右肩上がりの高収益企業を創造する経営計画書による経営の仕組みを、社員30人未満の小さな会社の社長を対象とした経営塾『100年塾』で2012年から主宰。全国各地であらゆる業種の組織改善・業務向上の指導を行う。現役社長が直接指導する経営手法は多くの社長たちから反響を呼び、お客様満足度は92・6%、全国各地での講演・セミナー開催は年間90回を超える。主な著書に『赤字社員だらけでも営業利益20%をたたき出した社長の経営ノート』(角川中経出版)、『社員29人以下の会社を強くする50の習慣』(明日香出版)など、累計3万部を超える。
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