スイス・ジュネーブに本拠を構え、世界27都市に拠点を持つプライベートバンク、ピクテ。日本にもピクテ投信投資顧問が存在するが、一般に広く知られた金融機関とは言いがたい。その一因は、ピクテの母体がもともとプライベートバンクという富裕層に特化したサービス専業であることもあるだろう。だがそれ以上に、ピクテ投信投資顧問自体、萩野社長が「100%BtoBの会社だった」というように、個人投資家に向けた発信、サービス提供をしていなかったことが影響している。しかし現在、同社はBtoCの発信に力を入れている。萩野社長がこのほど、書籍『210余年の歴史が生んだピクテ式投資セオリー』(幻冬舎メディアコンサルティング)の改訂版を上梓したこともその一環といえよう。萩野社長に改訂出版の意図、同社およびピクテグループが注力していること、そして先行きの不透明感が増す中で個人投資家がとるべき投資戦略について聴いた(取材・濱田 優 ZUU online編集長/写真・森口新太郎)
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半年で1000億円売った後、本社のパートナーに言われた意外な一言
――ピクテ・グループといえばスイスのプライベートバンクとして有名です。日本法人はピクテ投信投資顧問として営業されています。ピクテについて、萩野さんが参加された時期などを聞かせてください。
ピクテが設立されたのは1805年、日本の江戸時代にあたります。2世紀以上にわたって数多くの戦争、金融危機からお客様の資産を保全し続け、今なお成長を続けています。ピクテが日本に進出したのは1981年で、私がピクテの日本法人であるピクテ投信投資顧問に入社したのは2000年1月です。
当初はプライベートバンカーとして働こうと思っていましたが、意に反して年金業務に関わり、商品開発、個人向け投信業務をやった後、ジュネーブに2年近く単身赴任しました。それ以前には24歳から8年ほどロンドン、ニューヨークの金融市場で働いていました。
ピクテは多くの富裕層の資産を守り続けています。富裕層といえばパナマやバミューダなどのタックスヘイブンに資金を移すというイメージが強いと思いますが、実際の運用指図はロンドンなどの大都市から行われるケースがほとんどです。ピクテの場合はほかの金融機関と異なり、運用力で国外から資金を獲得しています。運用力へのニーズは年々高まっていて、入社した2000年からおよそ20年で管理運用資産は約6倍になっています。
運用力を示すいい例として、2004年にピクテが組成したマルチアセット・トータル・リターン運用は時代の先を10年ほどいっています。さまざまなヘッジファンド運用を組み合わせ、市場の価格変動の影響をほとんど受けずに価格を安定させ、収益率の目標は短期金利に年率4%プラスした、絶対収益型運用商品です。
当時ピクテはヘッジファンド部門を持っていませんでしたが、リーマンショックの際も影響を最低限に抑えましたし、運用開始以来安定したパフォーマンスを上げています。この商品はマイナス金利の時代になってから投資家の需要が急速に高まっています。もともとピクテは名だたるヘッジファンドのスポンサーとして投資を行ってきましたが、自らヘッジファンド運用もするようになり、2015年にはベスト・オブ・欧州ヘッジファンド運用会社(出所:ヘッジファンドレビュー)にも選ばれています。
――日本の成績は順調なのでしょうか?
私が入社した2000年当時、ピクテ投信投資顧問の運用資産残高は1000億円ほどでした。その後2年ほどはなかなか増えませんでしたが、2003年にバイオテック・ファンドと言う商品がヒットして半年ほどで1000億円ほど集めました。
ただ当時、スイスからピクテのパートナーが来日したんです。私としてはバイオテック・ファンドのケースがあったので褒められると思っていたのですが、「お前のやっていることは運用ビジネスではない」と言われてしまいました。つまり一度に大金を集めるのではなく、小額でいいから毎年地道に積み上げることが大事だと。彼には「ピクテのファンドは短期間にお金を集めて売り買いするものではない」と言われましたね。