ベンチャーを取り巻く環境の変化や、ベンチャーがいい人材を採るために経営者、経営陣が心掛けるべきことについて聞いたインタビュー。磯崎哲也氏へのインタビュー最終回は、ベンチャーキャピタリストがすべきことや、どんな人物がベンチャーキャピタリストに向いているのか、について聞いた。(取材・濱田 優 ZUU online編集長/写真・森口新太郎)
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ベンチャーキャピタリストがすべきこと、起業がVCに求めるべきこととは?
――特にスタートアップが元気なアメリカは長らく経済が拡大していて、どこかで調整が入るという懸念があります。日本もそうで、株式市場が後退局面に入るじゃないかと。そういうことがベンチャーの環境に、ここ5年、10年のスパンで影響していくのでしょうか。
それはある程度ありますね。本来、スタートアップと株式市場は違うメカニズムで動いています。上場企業の中にも、社長・経営者も高齢で「30年かかって社長になりました」というイノベーション起こそうという気もない会社もあれば、若くてやる気満々のところもあって、そこが「上場企業」として一つにくくられて評価されるべきではないんですが、そうはいっても株式市場全体として相場に左右される傾向はあります。
スタートアップも同様に、市況が悪化してるときに上場しようかといっても、「ちょっと最終ラウンドの投資家が投資した株価以上の値が付きませんねえ」といった話になっちゃうので見送ったりして、そうこうしてる間にいいチャンスを逃してしまうかもしれない。そういう意味でも影響は受けます。
ただ間違いなく未上場企業に投下されるお金は大きくなっていますし、それによっていい人が来て、すごいことができるようになって、そうするとますますいい人が集まって……という流れができてきていますし、この流れは止まることはないと思います。実際にすごい会社になって企業価値が上がっていれば、株式市場全体の相場が下がったとしても、価値は上がるはずです。
――そこで思うのは、「俺も起業しよう」「スタートアップ行って、頑張って働いて上場させよう」ではなく、「そういう人を支援しよう」と支える側に回る、ベンチャーキャピタリストになるということの魅力、面白さ、大変さはどこにあるのでしょうか? 磯崎さんも若いベンチャーキャピタリストの方とお仕事されてると思うんですけど、彼らはどこにやりがいを感じてるのでしょうか。
まずベンチャーといってもいろいろあって、日本でも年間数万社とあるわけですが、その中には「8席のラーメン屋をコツコツやるぞ」という人もいれば、「上場を目指す」という人もいます。エクイティファイナンスは、最終的に株式を売却して資金回収するので、M&Aでのexitがまだ発達していない日本では、大型の回収方法としては年間100社程度の上場しか出口がない訳です。
エクイティファイナンスというのは日本ではまだ、基本的には上場を目指す人向けの話です。銀行融資は儲けていれば誰でもチャンスはあるんですけど、ベンチャー投資というのは、非常に申し訳ないですけど、全員のためにあるものではないですよね。日本全体から見れば、ごく一握りの、極めてトガった人たちのためのファイナンスです。
ベンチャーに接した人は、「こんなにワクワクすることが、世の中にあるとは知らなかった」とみんな気付きます。
僕は1997年ごろ、カブドットコム証券の創立メンバーと会って、生まれて初めてファンドレイジングということをやりました。そこでの体験は「こんなにワクワクすることが世の中にあったのか!」というものでした。「これで行ける!」と思ったら翌日「やっぱり駄目そう」って、その落差は胃が痛くなるほどで、そんな日の連続だったんですけど、本当に楽しかったし、驚きばかりでした。
つまり、スタートアップには人を惹きつけるものすごい力があります。
アメリカではMBA出た一番優秀なやつは起業、その次がベンチャーキャピタルに行く、あとは戦略コンサルティングファーム……と続くといわれます。ベンチャーキャピタルは、スタートアップの株式全体の10%とか20%しか持たないのが普通です。ベンチャーキャピタルの資金のほとんどは、ファンドに出資をしている投資家のお金なので、ベンチャーキャピタリストに入ってくる成功時のお金(「キャリー」)は、キャピタルゲインの2割というのが世界標準です。だからスタートアップの株式の10%を持っていたとしても、作り上げた企業価値全体の2%しかもらえないということです。
会社を創業して、1兆円の会社つくって、創業者は株を30%持っていれば3000億円になるわけですけど、VCは2%で200億円ということになります。一番儲かるのは、やっぱり自分で起業してすごい会社をつくることですよね。
人生一回だけなので、本当に世の中を変えるスゴいことをしたいと思ったら、ベンチャーキャピタルじゃなくて起業したほうがいいかもしれません。ベンチャーキャピタルで間接的にそういう会社を生み出すことに役には立てますが、関わった企業の創業者を超えるほど有名なベンチャーキャピタリスト、というのはあまりいないと思います。
ただし、起業家が1つの会社を5年10年かかって育てる間に、ベンチャーキャピタリストは10社20社といった会社に関わることができます。リスクは分散されているし、より広範囲な知見に触れることができる可能性があるわけです。
あとベンチャーキャピタルの1つのファンドは10年の期間があるので、サイクルが非常に長く、途中で気軽に始めたり止めたりはできません。スタートアップの創業者も、成功したら10年、20年とCEOをやらなきゃいけないので同じですが、スタートアップの従業員は、2年3年で会社を変わっていく人も多いので、創業者やベンチャーキャピタリストとはサイクルが違います。
今日本でベンチャーキャピタルをやってる人や、「ベンチャーキャピタリストになりたいです」という若い人の中には、「起業家のほうがいいんじゃないの?」というタイプの人もいると思いますね。
――起業家向きかベンチャーキャピタリスト向きか。どこが違うのでしょうか?