2019年8月、公的年金の健康診断ともいえる財政検証が発表された。これを見て、「人生100年時代は安心ではないからこそ、ライフプランを立てる必要がある」と心新たにした方も多いはずだ。今後は、できるだけ長く、最低でも65歳まで、できれば70歳まで働くことを検討することが必要になるだろう。今回は、人手不足における高齢者の雇用について考えてみたい。

定年後の賃金は下がって当たり前?判例に見る高齢者雇用

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(写真=Jacob Lund/Shutterstock.com)

2018年6月に、とても興味深い2つの判決が下りたことをご存じだろうか。その1つである長澤運輸事件について紹介しよう。この最高裁での判決は、私たち専門家にとっても、今後高齢者を雇用する上での指針がわかりやすく示されたものであったと言える。

内容を簡単に説明しよう。これは、定年後にそれまでと同じ仕事をしているのにもかかわらず、定年後の賃金が20%以上減額された社員が、「労働契約法20条の不合理に当たる」と会社を訴えたことから始まった事案だ。結局、職務などは同一とした上で、関連する賃金規定を調べたところ、精勤手当など2つの手当を除き、定年前後の賃金の相違は違法でないとの判決が下された。

同日に判決が出たハマキョウレックス事件という事案で、正規社員と非正規社員の手当を比較し、「非正規社員に手当がないのは不合理」というかなり厳しい判決が出たことを考えると、長澤運輸の判決は合理的でわかりやすい説明だったのでホッとした方も少なくなかったはずだ。

ただし、この2つの事件は「非正規と正規雇用」「正社員と嘱託」ということで、「名称を変えれば、給与を下げられる」と考えていた会社を思いとどまらせたに違いない。長澤運輸の事件では、定年前後で賃金が下がる社員に対する配慮があった。「年金が支給されるだろう」という理由で給与を下げ、しかも手当までなくしてしまうと、社員から裁判を起こされるような時代になったことは肝に銘じておいてほしい。

住居手当などは、正社員と嘱託または契約社員で転勤の有無が異なるため、支給されないことは違法ではないと判断された。また、賞与を嘱託社員に支給しないことも不合理ではないという判断だった。いずれも賃金規定を確認し、違法かどうかを判断している。このことをしっかり理解することが重要だ。

事業主と話していると、賃金の総額にこだわって、社員の給与や手当はこれくらいにしようと考えている人が多いように思う。しかし、この判決を見れば、それぞれの手当には支給されるべき理由があることがわかる。その手当が必要かどうかを考えて総額を考えなければ、その合理性を問われるリスクがあるのだ。