12月短観予測:内外の逆風を受けて景況感は悪化、設備投資計画もやや慎重化
●増税後の景気落ち込みが反映される
12月13日に公表される日銀短観12月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が2と前回9月調査から3ポイント低下し、4四半期連続での景況感悪化が示されると予想する。4四半期連続の悪化となった場合、景況感悪化の継続期間はリーマンショック前後(2007年12月~2009年3月調査の6四半期連続悪化)以来の長さということになる。また、大企業非製造業の業況判断D.I.も17と前回から4ポイント低下し、2四半期連続で景況感が悪化すると見込んでいる。
前回9月調査では、米中貿易摩擦の激化・長期化やそれに伴う海外経済の減速、円高の進行などを受けて大企業製造業の景況感がやや悪化した。また、非製造業でも大型連休特需効果の剥落に加えて、天候不順や韓国人訪日客減少などを受けて景況感がやや悪化していた。
その後、10月1日に消費税率引き上げ(以下、「(消費)増税」)が実施されたため、今回の12月短観は増税後初の調査にあたる。 ここで、前回14年4月の消費増税直後に行われた同年6月調査を振り返っておくと、増税後の景気の顕著な落ち込みを受けて、企業規模や製造業・非製造業を問わず、景況感に明確な悪化が見られた(大企業製造業・非製造業ともに業況判断D.I.は5ポイント低下)。
一方、今回の消費増税による景気への影響に関しては、「政府による手厚い対策に加え、駆け込み需要が限定的に留まったことで、落ち込みはかなり限定的に留まる」との見立てが事前では大勢であった。
しかしながら、既に公表された10月の経済指標を見ると、小売販売額や鉱工業生産など多くの指標で予想以上の落ち込みが見られる。11月の自動車販売や主要百貨店売上も戻りが鈍く、前回増税直後と比べて落ち込みが小幅とは言い難い状況だ。増税後の景気の全容は未だ不明だが、消費増税に輸出の低迷、台風19号による経済活動停止、日韓関係悪化に伴う訪日客の落ち込みといった悪材料が重なったことで増税直後の経済活動は想定以上に落ち込んだ可能性が高い。
前回調査後、米中摩擦緩和の動きや円安、ITサイクルの底入れ感など一部前向きな材料もあるものの力不足であり、今回調査での景況感悪化は避けられないだろう。
大企業製造業では、米中貿易摩擦や海外経済の低迷を受けて輸出の低迷が長引くなか、消費増税と台風19号の影響が加わり、景況感が悪化するだろう。前回調査以降、為替がやや円安に振れていることは景況感の下支えになる。業種別では、特に駆け込み需要の反動減と台風に伴う操業停止で生産が落ち込んだ自動車で顕著な悪化が予想される一方、ITサイクルに底入れ感がみられる電気機械が下支えとなりそうだ。
非製造業も、増税に伴う消費の落ち込み、台風19号による営業休止、日韓関係悪化に伴う訪日客の落ち込みなどを受けて、景況感が悪化するだろう。特に消費落ち込みの影響をダイレクトに受ける小売での景況感悪化が鮮明になりそうだ。
中小企業の業況判断D.I.は、製造業が前回から3ポイント低下の▲7、非製造業が5ポイント低下の5と予想。大企業同様、製造業・非製造業ともに景況感が悪化するだろう。
先行きの景況感は方向感が分かれそうだ。海外経済の回復は遅れているが、米中貿易摩擦に関して部分合意に向けた交渉が続いており、貿易摩擦緩和への期待が高まっている。また、ITサイクル持ち直しへの期待もあり、製造業では先行きにかけて景況感の持ち直しが示されそうだ。一方、非製造業では、前回消費増税後のように、増税後の内需回復の遅れが懸念されるほか、日韓関係改善に伴う韓国人訪日客の回復も見通せないことから、先行きにかけて景況感の低迷が見込まれる。
●設備投資計画のモメンタムは低下
2019年度の設備投資計画(全規模全産業)は前年比2.9%増(前回調査時点では同2.4%増)へとやや上方修正されると予想している。例年12月調査では、中小企業で計画が具体化してくることによって上方修正されるクセが強いためだ。従って、上方修正自体を前向きに評価することはできず、近年の同時期の調査と比較した場合のモメンタム(上方修正の勢い)が重要になってくる。
今回の上方修正幅は前回調査比で0.5%ポイントと、例年同時期の平均的な上昇幅(直近5年平均で1.3%ポイント)に比べて小幅に留まるだろう。
海外経済の低迷や国内景気の落ち込みに伴って収益が圧迫されており、企業の投資余力(キャッシュフロー)は低下してきているとみられる。また、米中貿易摩擦には緩和にむけた動きがあるものの、依然として流動的であり、事業環境の先行き不透明感が払拭されたわけではない。このため、一部企業で設備投資を見合わせたり、先送りしたりする動きが生じているとみられる。
人手不足に伴う省力化投資や研究開発投資、都市再開発関連投資などが引き続き設備投資計画の下支えになることで計画の下方修正は回避され、前年比でもプラスが維持されることで、設備投資計画は「引き続き堅調」との評価を受けそうだが、修正状況には企業の慎重スタンスが現れる結果になりそうだ。
●注目ポイント:非製造業の景況感、設備投資計画
今回の短観では、「消費増税直後の景気の落ち込みが企業マインドにどれだけ悪影響を与えているか」が明らかになる。そうした中で特に注目されるのは、非製造業の景況感と設備投資計画だ。
昨年来、米中貿易摩擦の影響等によって輸出が下振れる一方で、堅調な内需が日本経済を支えてきた。日銀短観においても、これまで輸出減の影響を受ける大企業製造業の業況判断D.I.が低下基調を辿る一方で、内需との連動性が高い非製造業のD.I.は比較的底固く推移してきた。従って、今回、非製造業の景況感が足元でどこまで悪化しているか、そして先行きにかけて回復が見込まれているのか否かが、「堅調な内需の持続性」を占ううえでポイントになる。
また、企業の景況感悪化が内需の一つの柱である設備投資計画にどれだけ波及しているかも注目される。計画の勢いが明らかに鈍っている場合には、増税後の景気回復が遅れるリスクの高まりを示唆することになる。
●日銀金融政策への影響:好材料ではないが限定的
今回の短観では、企業の景況感が幅広く悪化すると見込まれるが、当面の日銀金融政策に与える影響は殆どないだろう。
日銀は7月以降、追加緩和を匂わし続けたあげく、結局実施を見送っている。このことは、日銀の追加緩和余地は既に乏しく、世界経済の失速や急激な円高進行といったよほどのことがない限り追加緩和に踏み切ら(れ)ないという日銀の現状を示唆している。
今回、消費増税後の景気落ち込みを受けて企業の景況感悪化が見込まれることは、日銀にとってもちろん好材料にはならないが、景況感の悪化自体は想定の範囲内でサプライズではないとみられる。従って、日銀は当面現状の金融政策を維持しながら、増税後の景気回復度合いを注視する姿勢を続けるだろう。
上野剛志(うえのつよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト
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