企業買収にはさまざまなルールがあり、中でも「独占禁止法」は当事者が気をつけたいポイント。仮に独占禁止法に抵触すると、計画通りにM&Aなどを進められなくなる恐れがあります。企業結合に関わる企業は、これを機に基礎知識を身につけておきましょう。

企業買収は独占禁止法に抵触する?規制の可能性がある一例

公正取引委員会,検察庁
(画像=soraneko / PIXTA)

企業買収(M&A)が実施されると、本来は競争関係にある複数の企業が協力体制を築くことになります。つまり、市場におけるパワーバランスが大きく変化するため、ケースによっては「独占禁止法」によって規制を受ける可能性があります。

独占禁止法とは、内閣府の外局である「公正取引委員会」が運用する、公平で自由な競争を促すための法律のこと。では、どのような形で企業買収を進めると独占禁止法に抵触するのか、以下でいくつか例を見ていきましょう。

○独占禁止法に抵触する企業買収(M&A)の一例
・当事者の国内売上高の合計額が大きく、市場に多大な影響を及ぼす場合
・販売提携など、市場の価格競争に影響を及ぼす形で合併をする場合
・企業結合によって、特定の取引分野の競争が制限される場合

上記のように、市場に対して特に大きな変化をもたらす企業買収は、独占禁止法によって規制されています。仮に独占禁止法に抵触すると、公正取引委員会の排除措置命令により企業買収自体が禁止されたり、または条件が付けられたりする可能性があるため、当事者の企業は細心の注意を払わなくてはなりません。

条件に該当する場合は「事前の届出」が必要に

独占禁止法には「届出規制」と呼ばれるルールが設けられており、以下の要件に該当する形で企業買収(M&A)を行う場合には、事前の届出が必要になります。

○株式取得の届出要件
【1】買収側の会社と、当該会社の属する企業結合集団の国内売上高の合計額が200億円を超えるとき
【2】売却側の会社と、その子会社の国内売上高の合計額が50億円を超えるとき
【3】企業買収によって買収側(当該会社の属する企業結合集団を含む)が所有する議決権の数が、新たに20%または50%を超えるとき
(※上記【1】~【3】のすべてを満たす場合にのみ、事前の届出が必要)

この要件に該当する場合は「株式取得に関する計画届出書」に加えて、株式取得に関する契約書や損益計算書などの添付書類も提出する必要があります。契約書のように、コピーではなく原本が求められる書類もあるため、届出の前には提出書類をしっかりと確認しておくことが重要です。

ちなみに、届出をする必要性が生じた場合は、一部のケースを除いて「届出受理から30日間」は株式取得をすることができません。

海外進出をするケースでは、現地の独占禁止法に注意

海外の企業と企業結合をする場合には、現地の独占禁止法(競争法)を遵守する必要があります。独占禁止法は地域によって規制内容などが異なるため、特に海外進出を狙う買収側の企業は細心の注意が必要です。

たとえば中国では、届出が受領された30日以内に第一次審査が実施され、さらにその90日以内に第二次審査が行われます。第二次審査は最大60日間まで延長される可能性があり、日本と比べて審査期間が長く設けられているため、慎重にスケジュールを組まなくてはなりません。

ほかにも、届出を怠った企業に年間総売上高の最大10%の制裁金が科せられるEUや、独立した経済主体として合弁会社を立ち上げることも企業結合として扱うシンガポールなど、地域によって独占禁止法の実態はさまざまです。また、多くの国では日本と同じく「国内売上高」に関する届出要件が定められていますが、地域ごとに要件を満たす金額は大きく異なります。

日本に限らず、さまざまな地域で企業結合に関するルールは非常に細かく定められているため、関係のある企業は計画を実行する前に必ず確認するようにしましょう。

判断に迷ったら、専門家に相談する方法もひとつの手段

独占禁止法はやや複雑な法律ではありますが、抵触するとその後の経営活動に大きな影響を及ぼすため、M&Aなどの前には細かく確認しておく必要があります。また、進出する地域によっては、日本よりも厳しいルールが設けられているので、特に海外進出を目指している企業は注意しなくてはなりません。

仮に「抵触するかどうかわからない…」と判断に迷う場合は、専門家に相談をする方法もひとつの手段です。企業買収を検討している企業は第三者に頼ることも想定しながら、慎重に計画を立てていきましょう。(提供:企業オーナーonline


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