コロナ禍の影響が拡大の一途をたどる2020年上半期。あらゆる業界が大きな経済的打撃を受ける中、これまでの事業からの脱却や方向転換を強いられている企業も多い。今回、取り上げる三越伊勢丹の取り組みは、コロナ禍以降の生き残りを賭けた試行錯誤のひとつといえるだろう。

知らないと失敗するECの要点とは

三越伊勢丹,赤字
(画像=Sarunyu L/Shutterstock.com)

今年7月、流通専門の経済紙を見て、流通業界には衝撃が走った。1面全面を使って三越伊勢丹ホールディングスの電子商取引(EC)事業への取り組みが紹介されていたからだ。

三越伊勢丹は、バイヤーを始め、販売員や外商などさまざまな経歴の持ち主を600人集め、EC専門部隊を創設。スタジオに1日200~250品目の商品を採寸したり、撮影したり、オンラインで紹介する文言の作成などの施策を行っている。つい先日まで店頭で「いらっしゃいませ」と接客していたような全くの素人まで、2ヵ月の研修を受けさせて動員。「年間の売上高を300億円まで引き上げたい」としている。

実は、これまで百貨店業界の各社もECには挑戦してきた。ところが成功した百貨店は皆無だ。現に三越伊勢丹の杉江俊彦社長も「何もできていなかった」と誌面で打ち明けている。それもそのはず。衣料品を中心とする百貨店の商品をECのプラットホームに載せていくのは至難の業だからだ。

百貨店では、各店舗ごとに入居しているアパレルメーカーやブランドが異なり、たとえ同じメーカーでも色やサイズ、材質など、販売している商品や在庫が全て異なる。そうした商品を全て1品ずつ管理する「単品管理」ができていなければ、オンラインで注文されたときにすぐさま対応できない。

流通業界の最大手、セブン&アイ・ホールディングスの強みはこの単品管理が徹底されていること。だからこそコンビニのセブン-イレブンは同業他社に圧倒的な差をつけてトップに座り続けている。しかし、それでも傘下のそごう西武の商品の管理に手間取り、ECは成功していない。

だが、三越伊勢丹は、そんな“無謀”な戦いに、遅ればせながら挑戦しようとしている。取引先の幹部らは、「すでにアマゾンや楽天といった企業がシェアを握っている市場に、素人同然の三越伊勢丹が竹槍で挑むようなもの。協力要請も来ているが、うまく行きそうにないものに協力するか思案している」と冷ややかな見方が広がるが、三越伊勢丹には挑まなければならない理由があった。

コロナショックを打開するためのEC

「新型コロナで銀座三越の免税店フロアは閑古鳥が鳴いている。昨年末まで日本人を探す方が大変だったくらいにぎわっていたインバウンド客が、銀座の街から消滅してしまったからだ」