新型コロナウイルスの感染拡大によって、人々の生活様式は大きく変化しています。また、ビジネスの領域においてもリモートワークをはじめとしたDX(デジタルトランスフォーメーション)化が加速しており、ビジネスのあり方そのものに大きな変化をもたらしています。こうした状況の中、急成長している企業が米アマゾンのクラウドサービス「AWS(アマゾン ウェブ サービス)」のシステム構築・保守・運用を一貫して手掛けるサーバーワークス。今回は、企業リサーチレポーターの馬渕さんが同社の大石良社長にインタビューし、事業の内容や成長性などを探りました。

大石良 RYO Ooishi
サーバーワークス代表取締役社長
1973年新潟市生まれ。1996年、東北大学経済学部を卒業し、総合商社の丸紅に入社。インターネット関連ビジネスの企画・営業に従事する。2000年に独立してサーバーワークスを設立し、代表取締役に就任。AWS認定ソリューションアーキテクトプロフェッショナル。
馬渕磨理子 MARIKO MABUCHI
フィスコ企業リサーチレポーター 京都大学公共政策大学院で法律、経済学、行政学、公共政策を学び、修士過程を修了。法人の資産運用・管理を行い、そこで学んだ財務分析・経営分析を生かして2016年からフィスコリサーチレポーターに就任。個別銘柄の分析を手掛けるほか、フィスコ・シンクタンク研究員としてマクロ経済や世界情勢などの研究を行っている。『プレジデント』(プレジデント社)や『週刊SPA!』(扶桑社)、『日経ヴェリタス』(日本経済新聞社)などへの寄稿や日経CNBCへの出演など各メディアで活躍中。

「ドッグフーディング」で時代を先読み

サーバーワークス#1
(撮影=末松正義、作成=ZUU ONLINE)

馬渕 本日はよろしくお願いします。まず、創業のきっかけと、創業からのビジネスの変遷についてお話いただけますか。

大石 2000年2月にEコマースのASP事業で創業し、モバイル対応を進めていました。2004年にネット経由で大学受験生に対して入試の合否情報を提供するシステムを開発し、大学向けにサービス提供を開始していました。この「合否案内サービス」は200校近くの大学に導入されましたが、合否発表が行われる2月の特定の日にアクセスが集中するため、ピーク時には約200台のサーバーが必要となる半面、ピークを過ぎるとサーバーは非稼働となるため、投資効率に課題を抱えるビジネスモデルでした。

馬渕 なるほど。サーバーの効率化が課題だったわけですね。現在のメイン事業である米AmazonのAWSとの出会いはいつ頃でしょうか?

大石 サーバーのパンク問題は、累積してどんどん大きくなっていきました。その解決策を探していたところ、2006年にAmazonが従量課金で仮想サーバーを貸し出すサービス(当時はAmazon EC2)を提供していることを知り、2007年に実際に触れてみたんです。すると、「これはITの世界が大きく変わる」と感じ、2008年には「社内サーバー購入禁止令」を出しました。仮想サーバーは「サーバー機器を購入する」「管理する」「スペースを確保する」「納期を待つ」といった必要が一切ない画期的なものだったのです。

馬渕 実際に自分たちが使ってみて、「これはいける!」と思われたのですね

大石 はい。ITの世界ではよく「ドッグフーディング」という言葉があります。ドッグフードは出荷する前にドッグフード会社の社長が実際に食べてみて、出荷できるものかどうかを判断すると言われているのですが、ITの世界でも実際に自分たちで使ってみて決めるという、独特のやり方があるんです。自分たちが使うことで仮想サーバーサービスは拡大すると確信し、そのうえで2009年からAWSの日本企業への提供を始めました。

馬渕 かなり時代を先行している感じだったと思うのですが、先行者利益はあったのでしょうか。

大石 確かに、ビジネスは早すぎてもダメなんです。2008~2009年の事業初期は販売実績が年間で1、2社程度でした。現在は約800社まで伸びましたが、初期の市場開拓には苦労しましたね。 馬渕 なるほど。そもそもAWS自体がどのようなものであるのか、まだ一般には知られていない側面があると思います。詳しく教えていただけますか。

大石 そもそも、コンピューターの持ち方には「オンプレミス」と「クラウド」の2パターンがあります。オンプレミスはコンピューターを買って、自社の中で情報システムを保有し、自社内の設備によって運用するケースです。一方のクラウドは、必要な時に必要な分だけを使い、使った分の金額を払います。

さらに、クラウドも2つに分類することができます。1つは、SaaS(サース)です。インターネットを経由してソフトウェアを提供するたぐいのもので、たとえば、Salesforce(セールスフォース)、Chatwork(チャートワーク)、Sansan(サンサン)などがそれに当てはまります。アプリケーションの数だけプレイヤーが存在するわけですね。

一方、AWSではIaaS(アイアース)という領域でインフラをサービスとして提供します。インフラなので、規模の経済が効きやすく、プレイヤーの寡占が起きやすい側面があります。実際に、世界でもプレイヤーはほぼ4社ですから。

馬渕 たったの4社なんですか!SaaSとはずいぶんと違いますね。

大石 そうなんです。この領域は、1位がAWS、2位がMicrosoft、3位がGoogle、4位がアリババと寡占がかなり進んでいる世界なのです。私たちは早くから、「これからはオンプレミスから、インフラを借りる方向にシフトしていく」と考え、ビジネスを進めてきました。簡単にいうと、AWSの導入やいままで持っていたコンピューターをAWSに移していくためのお手伝いをしています。

馬渕 時代を先読みされたということですね

大石 我々自身がドッグフーディングをして、「これが未来だ」と確信して突き進んできた結果と言えます。ITの世界ではより便利なもの、よりコンパクトなものが選ばれます。その点でも、クラウド化の流れは当然のことなのです。

「AWSのことならどこにも負けない」という立ち位置を大切に

馬渕 業界シェアナンバーワンのAWSの専業インテグレーターであるところが御社の強みであることはよく分かりましたが、マイクロソフトなど他社のサービスは扱わないのでしょうか?