ここ数年、少額からの投資をサポートする「NISA」、「つみたてNISA」、私的年金の「iDeCo」といった税制優遇が受けられる制度が次々と誕生しています。しかし、これらの制度にどのような違いがあり、どういった人におすすめなのかは意外と知らない人も多いのではないでしょうか。今回はこれらの優遇制度の違いと、目的別・職業別のおすすめをご紹介します。
iDeCoとNISA、つみたてNISAはどんな制度?
iDeCoとNISA、つみたてNISAはすべて税制上の優遇措置を受けることができますが、それぞれで優遇措置が受けられる内容や期間が異なります。そこでまず、どういった点でどのような違いがあるのか比較してみましょう。
iDeCo | NISA | つみたてNISA | |
---|---|---|---|
年間投資上限額 | 14万4,000円〜 81万6,000円 (職業や加入している 企業年金制度に よって異なる) |
120万円 | 40万円 |
運用期間 | 加入から60歳まで (最長70歳まで可能) |
5年 | 20年 |
税制上のメリット | ・掛金が全額所得控除 ・運用益が非課税 ・受取時、退職所得控除 または公的年金等控除が適用 |
運用益が非課税 | 運用益が非課税 |
途中換金 | 原則不可 | いつでも可能 | いつでも可能 |
損益通算 | 不可 | 不可 | 不可 |
運用できる商品 | 定期預金・保険商品 投資信託 |
株・投資信託 ETF、ETN (上場投資証券) REITなど |
限定された 投資信託 またはETF |
資金の引き出し | 60歳まで原則不可 | いつでも可能 | いつでも可能 |
iDeCoとNISA、つみたてNISAの強みとデメリットは?
税制優遇ならiDeCo
iDeCoの強みは、なんといっても最も税制が優遇されることです。NISAとつみたてNISAでも運用益が非課税になりますが、iDeCoではさらに掛金が全額所得控除になり、受取時にも退職所得控除または公的年金等控除を受けることができます。
特に所得控除の効果は大きく、仮に毎月の掛金が1万円(年額12万円)の投資でも、所得税10%、住民税10%とすると年間2万4,000円も税金が軽減されます。
税制優遇が充実している一方、iDeCoは原則として60歳になるまで資産を自由に引き出したり換金したりできません。60歳になるまで何事もなく生活できれば問題になりませんが、例えば怪我や病気などで仕事が続けられなくなったときでもお金を引き出すことはできませんし、転職や起業など一時的に資金が必要な時もiDeCoの資金をあてにできません。
ただし、この60歳まで引き出せないという制度のおかげで、無駄遣いをすることなく、老後確実にお金を貯めることができるとも言えます。
NISAは年間投資額が1番大きい
NISAの特徴は、年間に投資できる金額が1番高額なことです。例えば会社員の場合、iDeCoでは最高27万6,000円、つみたてNISAでは40万円までですが、NISAは年間120万円まで新規で投資ができます。
また、NISAでは投資できる商品が豊富なことも大きな強みでしょう。iDeCoでは元本確保型商品と投資信託、つみたてNISAの投資対象は投資信託(一部ETFもあり)のみとなりますが、NISAでは個別株、投資信託をはじめ、ETFやREITなど、さまざまな商品を購入することができます。
ただし、非課税期間が5年と短いため、他の2つに比べ短期で利益を出して売買する必要があります。
つみたてNISAは商品が厳選されいつでも売却できる
つみたてNISAは、投資初心者に最もおすすめな制度と言えます。この制度で購入できる商品は、販売手数料が無料なものや信託報酬が一定水準以下など、長期の積立、分散投資に適した投資信託に厳選されています。後述しますが、投資商品を選ぶときは手数料の低さはとても大切ですので、こういった手数料に制限がかかっているつみたてNISAの商品は、投資初心者でも安心して利用することができます。
つみたてNISAの運用期間は20年と長く、コツコツと長期にわたって積立投資を行うのに十分な期間が設けられていますが、iDeCoと違い途中でいつでも換金できます。このため、老後のための資金だけでなく、住宅購入の頭金や起業資金など、さまざまな目的のために利用することができるのも強みの1つでしょう。
iDeCoとNISA、つみたてNISAは併用できる?
iDeCoとNISA、つみたてNISAはそれぞれに特徴があるので、複数の制度を利用したい人もいると思います。しかし、これら3つの制度は併用できるものとできないものがあります。
まず、NISAとつみたてNISAは同じNISAという枠組みの制度のため、併用することはできません。口座を開設するときにNISAかつみたてNISA、どちらかを選ぶ必要があります。一方、iDeCoはNISAとつみたてNISA、どちらとも併用ができます。
つまり、これらの制度を複数利用する場合、「iDeCoとNISA」または「iDeCoとつみたてNISA」の併用は可能ですが、3つともすべて利用したり、「NISAとつみたてNISA」を併用したりすることはできません。
iDeCoとNISA、つみたてNISAの商品の選び方は?
税制優遇がある制度は利益が期待できる商品がおすすめ
iDeCoとNISA、つみたてNISAの共通する特徴として、投資で得る運用益が非課税になる点があります。資産を運用する方法としては、預金や定期保険などの元本が確保される商品もありますが、この運用益が非課税になる特徴は、運用益が多くなればなるほど生かすことができます。
例えば、同じ100万円の資金を、定期預金で0.1%の利益が出た場合と投資信託で5%の利益が出た場合で比較してみましょう。
表.定期預金と投資信託で運用した場合の運用益非課税の効果の差
商品の種類 | 運用利率 | 利益 | 課税後の利益 | 非課税の場合の利益 | 差額 |
---|---|---|---|---|---|
定期預金 | 0.1% | 1,000円 | 797円 | 1,000円 | 203円 |
投資信託 | 5% | 5万円 | 3万9,843円 | 5万円 | 1万157円 |
定期預金で203円税金が軽減されてもそれほど大した額ではないですが、投資信託の運用で手取りが1万157円増えるとなると、そのメリットの大きさが実感できるのではないでしょうか。
また、特に積み立て方式でこれらの制度を利用する場合、さらに運用益非課税の効果は大きくなります。先ほどと同様に、100万円の運用資金を運用利率5%で5年間運用した場合、非課税の効果がどのように推移するのかを見てみましょう。
1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | |
---|---|---|---|---|---|
運用益に課税 (20.315%) |
103万 9,843円 |
108万 1,273円 |
112万 4,354円 |
116万 9,151円 |
121万 5,733円 |
運用益非課税 | 105万円 | 110万 2,500円 |
115万 7,625円 |
121万 5,506円 |
127万 6,281円 |
積立方式による運用では、ある年についた利益にさらに利益がつくことで、利益が増えていきます。上記の結果を見てわかるように、長く運用すればするほど、利益に差がついていることがわかります。
せっかく運用益が非課税の制度を利用するのであれば、そのメリットを活かせる運用商品を選びましょう。
手数料の低さは利益につながる
金融商品には、購入時にかかる手数料や商品を保有しているときにかかる手数料など、さまざまな手数料がかかります。年間どれぐらいの手数料がかかるかは、運用の結果に大きく影響します。
例えば、年間の手数料が0.5%の商品Aと2%の商品Bを比べてみましょう。同じように年間で5%の利益を出しても、商品Aでは4.5%分(5%-0.5%)が利益として得られるのに対し、商品Bでは3%(5%-2%)分しか利益が残らないことになります。
つまり、商品Bで商品Aと同じだけ利益を得ようと思えば、商品Aより1.5%上手に運用する必要があるということです。運用の成績は自分で完璧にコントロールすることはできませんが、手数料は自分で選ぶことができます。できるだけ運用利率を上げるためにも、手数料にはこだわるようにしましょう。
商品や国の分散を考えよう
資産運用を1つの商品に絞るのは非常に危険です。その商品が値下がりすれば大きな損失が出てしまうからです。資産運用は1つの商品が値下がりしても、他の商品で利益を出すことで大きな損失を防ぐことができます。
複数の商品を選ぶ場合、同じような業界、例えば「自動車産業だけ」や「服飾産業だけ」に絞るのではなく、幅広い分野の商品を選んだ方が分散投資の効果は高まります。同様に、日本だけではなく、海外の商品もある程度は組み入れるようにしましょう。
目的別!おすすめの制度の活用法
老後の資金作りならiDeCo
資産運用のため目的が60歳以降の老後資金であれば、iDeCoのデメリットを気にすることなく利用できます。税制優遇も運用益が非課税になるのに加え、掛金拠出時や受取時に優遇が受けられるので、iDeCoは最も適した制度と言えます。
積極的に短期売買をしたいのならNISA
NISAは年間投資可能額が120万円と最も多く、5年以内であれば運用益が非課税で運用できます。また、株式や投資信託、ETFやREITなど幅広い商品が対象なので、自分で好きな商品を選び、短期的にリターンを追求したい人にぴったりの制度です。
じっくりと資産を形成したいならつみたてNISA
つみたてNISAの投資可能額は年間40万円、月々にすると3万3,000円程度です。毎月コツコツと積み立て、15年や20年といった長いスパンで、多目的に使えるお金を貯めていきたいという人には最適の制度です。
職業別!おすすめの制度の活用法
公務員、会社員
収入が安定している公務員や大企業の会社員の方は、転職や企業の予定がなければiDeCoの利用がおすすめです。継続的に収入が見込めるのであればiDeCoの途中換金ができないというデメリットはさほど影響しませんし、iDeCoでは拠出時や受取時も優遇が受けられるからです。
ある程度貯金ができれば、NISAやつみたてNISAでさらなる資産運用にも挑戦してみましょう。
自営業
自営業の人は将来の年金が会社員の人より少ないのが心配な点ですが、収入が不安定な人はいざという時のために使える資金を確保する必要があります。
そこで、まずおすすめなのはつみたてNISAです。つみたてNISAを利用すれば貯金代わりにコツコツと積み立ててお金を貯めることができますし、必要になればいつでも換金できます。
ある程度お金が貯まって事業が軌道に乗ってきたら、iDeCoなどで老後の資金を準備していきましょう。
専業主婦(夫)
iDeCoでは掛金が所得控除になる税制優遇が大きなメリットですが、専業主婦(夫)など収入が少なく、そもそも所得税がかからない人にはそのメリットは活かせません。したがって、iDeCoを利用するより、つみたてNISAを利用した方が、途中でお金が引き出せ多目的に使える分、有利に運用ができます。
優遇制度を賢く利用して老後の資金作りを
税制面で優遇される制度、iDeCo、NISAとつみたてNISAについて、その違いと特徴をご紹介しました。これらの制度は1年間に投資できる金額や投資可能な商品、そして運用期間に違いがあります。資産運用をするには何かしら目的があると思いますが、それぞれのメリット・デメリットを理解し、目的にぴったりの制度を上手に利用してみてください。
文・松岡紀史(ファイナンシャル・プランナー、ライツワードFP事務所)
筑波大学経営・政策科学研究科でファイナンスを学ぶ。20代の時1年間滞在したオーストラリアで、収入は少ないながら楽しく暮らす現地の人の生活に感銘を受け、日本にも同様の生活スタイルを広めたいという想いから、帰国後AFPを取得しライツワードFP事務所を設立。家計改善と生活の質の両立を目指し、無理のない節約やお金のかからない趣味の提案などを行っている。
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