2019年末に閣議決定された2020年税制改正大綱には、子ども版NISA(少額投資非課税制度)ともいわれる「ジュニアNISA」の廃止が盛り込まれました。2023年までの制度として、期限の延長は行われないようですが、廃止されることにより思わぬメリットが生まれました。この記事では、ジュニアNISAの概要や、廃止にともなうメリットを紹介します。
目次
ジュニアNISAとは何か?誕生の経緯から振り返る
廃止決定によって、はじめて「ジュニアNISA」という制度を耳にした人もいるかもしれません。そもそも、なぜ政府は未成年者を対象としたNISA制度を創設したのでしょうか。それを紐解くために、まずはNISA創設の背景から説明していきます。
なお、ジュニアNISAと比較するため、本記事では通常のNISAを「一般NISA」として解説します。
2014年:一般NISAの創設
現在、金融庁は「貯蓄から投資へ」という合言葉とともに、投資による資産形成を推進するため、さまざまな取り組みを行っています。この背景には日本人が保有する金融資産における資産運用(投資)の割合が、アメリカやヨーロッパの諸先進国に比較して、極端に低いという実情があります。人々の寿命が延伸していくなか、老後を見据えた資産形成を図るうえで投資は有効な手段。金融庁はこうした実態を危惧し、2014年1月に一般NISAを創設したのです。
NISAのモデルとなったのは、イギリスのISA(Individual Saving Account = 個人貯蓄口座)です。ISAの日本版として“Nippon”の頭文字を加えたことから、NISAという名称になっています。
一般NISAは“少額投資非課税制度”といわれるとおり個人投資家のための税制優遇制度であり、株式や投資信託などの配当金・譲渡益などが非課税となる制度です。一般NISA口座を開設すると毎年120万円の投資収益が、最長5年間にわたり非課税となります。
2018年1月からは、長期・積立・分散投資を支援するための制度として、「つみたてNISA」もスタートしています。
2016年:ジュニアNISAの創設
一般NISA創設から2年後の2016年、ジュニアNISAが創設されました。未成年者を対象とした、少額投資非課税制度です。0歳~19歳までの未成年者が対象で、年間の非課税枠は80万円とされており、その非課税期間は一般NISAと同じく5年とされています。
ジュニアNISA誕生の理由、そのひとつは日本が諸外国に比べて金融経済教育が遅れているという課題にあるようです。学校教育の現場において、お金に関する教育はほとんどなされていない現実があります。そこで未成年者が、税制優遇を受けながら投資を実践できる場となるのがジュニアNISAです。ただし、実際の運用管理は原則として親権者や祖父母が行います。
またジュニアNISAは、将来かかる大学授業料などの準備金として中長期的な資金形成を促す狙いもあります。80万円の年間非課税枠を5年間の非課税期間で運用すると最大で400万円を運用することができます。こうした政府側の考えもあり、この制度では18歳まで払い出すことができないという制限がありました。
2023年にジュニアNISAが廃止される理由とは
今年2020年12月に制度改正が決定し、2023年にNISA制度が改正されることになりました。一般NISAやつみたてNISAは5年間の延長が決定されましたが、ジュニアNISAは2023年での廃止が決定しました。
廃止が決定された大きな理由は、口座開設枠が伸びなかったことが挙がっています。金融庁よる2020年6月時点の利用状況調査では、NISA(一般・つみたて)口座で1,445万966口座ありましたが、ジュニア口座は38万3,073口座にとどまっています。買付額を見ても、NISA(一般・つみたて)口座では20兆1,536億1,360万円ありましたが、ジュニアNISA口座での買い付け額は2,070憶3,595万円と大きな差があります。
買付額に至ってはNISA制度全体に占める割合が1.02%と非常に低く、ジュニアNISAの人気のなさが浮き彫りとなっています。不人気の理由は、やはり使い勝手の悪さにあるといえるでしょう。つまり、もともとの創設理由のひとつ「子ども将来のための資産形成」という目的から、「18歳まで非課税で引き出すことができない」という制度設計にしていた点があだになってしまったようです。
廃止で得られる大きなメリットは?
2023年に制度廃止が決定したジュニアNISAですが、いま再び注目を集めています。制度廃止により、得られるメリットはあるのでしょうか。ジュニアNISAの制度概要から見ていきましょう。
ジュニアNISAの概要
・利用できる人 | 日本に居住している0歳~19歳(口座開設年の1月1日現在) |
---|---|
・非課税対象 | 株式・投資信託等への投資から得られる配当金等や譲渡益 |
・口座開設可能数 | 1人1口座 |
・非課税投資枠 | 新規投資額で毎年80万円が上限 |
・非課税期間 | 最長5年間 |
・投資可能期間 | 2016年~2023年 |
・運用管理者 | 口座開設本人(未成年者)の二親等以内の親族(両親・祖父母等) |
・払い出し | 18歳までは払い出し制限あり → 制度廃止後は撤廃 |
出典:金融庁
▽利用できる人
日本に居住している0歳から19歳までの未成年者ですが、その基準は誕生日ではなく“口座開設年の1月1日”現在になっています。
▽投資可能期間
投資可能期間は2016年~2023年までとなっており、2023年で制度自体が終了し、それ以降は新たな投資はできません。
▽運用管理者
口座開設者は未成年者本人となりますが、口座の運用管理者は原則、親権者や祖父母となります。
▽払い出し
中長期的な資産形成を目的としていることから、18歳まで払い出しができないという厳しい制限がありました。しかし、2023年の制度終了後は自由に非課税での払い出しが可能となります。払い出しは、口座開設者が20歳になるまで可能で、20歳になると課税口座へ払い出されます(18歳以降は新規での買い付けはできません)。
ジュニアNISAの制度廃止で得られるメリット
2023年の制度廃止により得られる大きなメリットは、「払い出し」の部分にあります。
廃止が決定する前は、口座開設者が3月31日時点で18歳になる年の1月1日以降にならなければ、非課税で払い出しができないという制限がありました。なお、18歳になる前に払い出しを行うと、過去の利益に対して課税され、ジュニアNISA口座も廃止されます。もちろん、災害などやむを得ない事由による場合、非課税での払い出しは可能でしたが、その場合でも口座は廃止されました。
この“払い出し制限”が制度廃止後の2024年に解除され、いつでも非課税で払い出しすることができることになりました。投資可能期間は2023年までとなりますが、以降は口座開設者が20歳になるまで保有可能かつ自由に払い出しができる点で利便性が向上したといえます。
一般NISAとも異なる?利用時の注意点
一見魅力的にも思えるジュニアNISAですが、デメリットともいえるいくつかの注意点があります。
ジュニアNISAのデメリット1:損益通算・繰越控除ができない
損益通算とは、他の口座で保有している金融商品で得た利益と損失を相殺することです。株式投資や投資信託などの譲渡損失は、確定申告を行うことで最大3年間繰り越して損益通算することができます。
しかし、ジュニアNISA口座で保有している金融商品については損失が出た場合でも、損益通算や繰越控除ができません。これは一般NISAについても同様で、NISA口座では売買損失はないものとみなされます。
ジュニアNISAのデメリット2:金融機関の変更ができない
一般NISAでは、1年に1回金融機関の変更が認められていますが、ジュニアNISAでは基本的に金融機関の変更はできません。それでも別の金融機関でジュニアNISA口座を開設したい場合には、一度、いまのジュニアNISA口座の廃止手続きをするなどの条件があります。
これからジュニアNISAの活用する2つのアイデア
制度廃止の決定によって、いつでも非課税で払い出すことができるようになったジュニアNISA。利便性が向上したことで、具体的にどのように活用できるようになったのでしょうか。
これからジュニアNISAを活用するアイデア1:世帯での非課税枠が広がる
ジュニアNISA口座は、1人1口座開設することができます。子どもが2人いる場合、年間80万円×2人ぶんの非課税枠を得ることができそうです。配当や譲渡益に課せられる本来の税率は20.315%(源泉徴収税率)ですから、かなりのアドバンテージとなります。
これからジュニアNISAを活用するアイデア2:払い出す必要がない場合は20歳まで継続保有する
さしあたり払い出して使うことがなければ、口座開設者が20歳になるまで、非課税扱いで運用することができます。2023年をもって新たな買い付けはできなくなるものの、20歳になるまでは継続して非課税口座で運用することが可能です。
教育資金の準備として一考の価値あり
2023年に制度廃止が決定されたジュニアNISAについて解説してきましたが、制度廃止により、新たなメリットが生まれたようです。制度廃止後には自由に払い出すことができるようになったことから、使い道は大きく広がりました。世帯での非課税枠が広がりましたので、使わない手はないと思います。
投資信託などを利用し、できるだけリスクを回避しながら、少額から資産運用を始めてみるのもよいのではないでしょうか。教育資金を準備する方法のひとつとして一考の価値はあると考えます。(提供:JPRIME)
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