コロナ禍で多くの企業が売り上げを落とし、減収減益に沈んだばかりか、じつに6割に上る企業が業績予想を発表できないという異常事態となった。そこで、中でも影響が大きかったと思われる業界について分析し、今後について考察してみた。
売上が減っても人件費と家賃は垂れ流し
「新型コロナウイルスの感染拡大による影響を、現時点において適正かつ合理的に判断することが困難だと考え、未定としております」
2020年3月期決算では、決算短信の最初のページに記される「2021年3月期の連結業績予想」の欄に、こうした文言がずらりと並んだ。年初から新型コロナが猛威を振るい、業績にどれくらいのダメージがあるか見通すことができなかったためだ。
厳しかったのは外食産業。3月から店舗の一部を閉鎖したり、営業時間を短縮したりして売り上げが前年同期の6〜7割、ひどいところになると9割程度といった企業が相次いだためだ。中でも、最もダメージが大きかったのが、小池百合子東京都知事からやり玉に挙げられた“夜の街”の代表格でもある居酒屋業態。ワタミを始めコロワイド、大庄、チムニーといった企業の売り上げ上位は軒並み大きな減収減益に沈んだ。
最大の原因は、「トップラインの減少に合わせて、販売管理費も削れればいいのだが、すぐに対応できるわけがなく、減収した分だけモロに営業利益へのダメージとなった」(外食企業幹部)ため。外食産業において最大のコストである人件費と家賃が簡単には削れないというわけだ。
賃貸で入居している店舗について、大家と家賃交渉するなど努力はしているものの、「大家さんも大変な状況なので全て認められるわけでもなく、認められても時間がかかり減収のスピードに追い付いていかない。また雇用も守らなくてはならないので人件費も削れず、結果、営業赤字に陥った」と、この幹部は苦い表情を浮かべる。
21年度決算は業績悪化が本格化
しかし、ある外食チェーンの幹部は、「20年3月期ははまだマシな方」と明かす。というのも、同期決算のうち影響が大きかったのは3月のみ。期が変わった4月以降、緊急事態宣言が宣言されて外出自粛が本格化、飲食店にも夜間の営業自粛が促されるなど、「店を開けていてもお客さんは来ないし、開けているだけで非難を浴びるまでになっていったため、居酒屋を中心にほとんどの店舗を閉めざるを得なくなった」(外食企業幹部)からだ。
そのため4月、5月の売上高はほぼゼロ。人件費や家賃といった販売管理費はかかるため赤字の垂れ流しになり、2021年3月期の「少なくても上半期は大きな営業赤字に転落する可能性が大きい。状況次第では、下半期にも影響が及ぶかもしれない」と外食企業幹部は明かす。
大半の外食企業が、4月、5月の既存店売上高を対前年同月比2〜3割程度と見ている。6月は緊急事態宣言が解除されて若干上向いてくるもののすぐには戻らず、上半期は5〜6割程度とする企業が多い。
下期についても、テレワークや巣ごもり消費の普及によって、客足は前期水準まで戻らず、良くて8割、多くの企業がそれ以下の水準にしか戻らないのではないかと答え、結果、減収減益に陥るだろうという外食企業が大半となっている。
こうした状況に追い込まれた結果、ワタミや塚田農場を展開するエー・ピーカンパニーのように、食品スーパーを始めとする異業種企業へ休んでいる従業員を「出向」という形で派遣したり、給料の一部は別の企業で働いて稼いでもらったりという企業も出てきた。
さらに、居酒屋専業の企業からは、「赤字を垂れ流すわけにも行かず、不採算店については大規模に閉鎖せざるを得ない」という声も聞かれる。別の外食企業の幹部は、「まずは不採算店の店舗減損を計上せざるを得ない状況で、最終損益は大きな赤字に転落する」「不採算店の2〜3割程度は閉鎖せざるを得ないかもしれない」と明かす。
また、「大人気を博した業態が“賞味期限切れ”を起こしているさなかに、コロナに見舞われた。メイン業態だったが、この際、大規模に縮小し、業態転換を図るしかない」といった外食企業もある。
苦戦の中で一人気を吐くマクドナルド
こうした中で、ひとり気を吐くのは日本マクドナルドホールディングス。新型コロナの直撃を受けながらもV字回復を果たしているからだ。5月7日に発表した4月の既存店売上高は前年同月比6.5%、全店売上高も同6.7%増と売り上げを伸ばしているからだ。
といっても、マクドナルドも新型コロナの影響は受けている。3月の既存店売上高は−0.1%と、4年ぶりのマイナスに沈んでいるからだ。それをわずか1ヵ月で驚異的な上昇に転じたのだから、業界では驚きの声が上がっている。
強さの背景にあるのは、「客単価の伸び」だ。マクドナルドも4月20日から店内客席の利用を禁止したため、4月の既存店客数は同18.9%減となっている。にもかかわらず売り上げが伸びているのは、客単価が同31.4%増という驚愕の数字となっているためだ。
この“伸び”を牽引しているのは、「家族利用」の増加。緊急事態宣言による外出自粛で、親はテレワーク、子どもも学校が休校で自宅にいる家庭が激増している。そうした家族がドライブスルーやデリバリーで人数分を注文しているため、客単価が大きく上昇したわけだ。
それだけではない。新型コロナに襲われたタイミングで、子どもたちに大人気の“マイメロディ×リトルツインスターズ”のハッピーセットをトミカと提供したり、アプリで家族が使いやすいようなクーポンを提供したりするなど、攻めの姿勢でさまざまな仕掛けを展開しているのだ。
弁当を展開するだけではダメ
外食業界には「テイクアウト業態だからだ」といった見方もある。もちろん、それも間違いではないが、マクドナルドは苦しくなるタイミングで適切な戦略を次々に打ち出していたからこそ、一人勝ちになることができたのだ。
そういう意味で、居酒屋チェーンを始めとする多くの外食企業が、矢継ぎ早に弁当を展開したりテイクアウトに乗り出したりしている。しかし、その大半が店舗で展開しているメニューを弁当に詰めたりしているだけ。価格こそ少し安くしている外食企業もあるが、セールスポイントが価格では客単価の向上にはつながらない。
顧客が何を求めているのかを把握し、しっかりと戦略を練った上で効果的に展開しなければ、「雀の涙ほどの売り上げ」(別の外食企業幹部)にしかならないのだ。
※2020年6月20日執筆
文・MONEY TIMES編集部
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