IPOは株式投資の人気商品であり、これとよく似た名称と商品特性を持つのがPOである。IPOのことなら知っているが、POとの違いが分からない、あるいは今後POにも投資してみたいと考えている人は、ここでPOの知見を深めて、投資機会の拡大を狙ってみてほしい。
1,POとは何か?株式の公募・売出しによって資金調達を行うこと
POとはPublic Offeringの頭文字を並べた名称であり、「株式の公募・売出し」を意味する。
以下で、POはどのような性質の株式なのか、あるいはPOの購入方法などについて、IPO(Initial Public Offering、株式の新規上場)の場合と比較しながら、説明を進める。
POは「既上場企業が発行した新株や大株主が保有する株式を公募・売却すること」
東京証券取引所などの株式市場に自社の株式を上場させている企業が、新たに発行した株式や、大株主が保有する発行済株式を、一般投資家に向けて、株式の取得申し込みを勧誘して(公募)、売却することを「PO」と呼ぶ。
上場企業がPOを行う目的は、設備投資や研究開発費など、企業の経営資源を増強するための資金調達であることが多い。
POで公募・売出しされる株式は引受証券会社ごとに割り当てられ、一般的には社内で機関投資家や大口投資家、一般投資家向けに配分される。
一般投資家への配分株数に対して投資家からの応募が募集株数を大きく上回る場合、証券会社ごとに抽選を行って当選者を決定し、当選者がPOの取得権利を得る。
IPOは「未上場企業が新規発行株式や大株主の株式を公募・売出しして上場すること」
IPOとは、未上場企業が新たに発行する自社株式や、大株主が保有する株式を、多くの投資家を対象に、取得の申し込みを勧誘(公募)して、東京証券取引所などの株式市場に株式を上場させることである。
未上場企業は、IPOを実施することによって、収益機会の拡大や企業価値の向上、役員あるいは社員の士気向上など、さまざまな効果を得ることができる。
IPOは、公募価格より初値が大きく上回ることが多く、初値売りによる大幅な値上がり益を求めて、多数の投資家からの応募がある。そのため、IPOの一般投資家向け配分に対する応募が募集株数を上回る場合は、証券会社内で抽選を行いIPOの当選者を決めるのが一般的である。
2,POとIPOの違い
POとIPOに共通しているのは、企業の株式を公募・売出しする点である。それに対して、POとIPOの大きな違いは、公募・売出しの対象となる株式が、上場企業の株式であるか、未上場企業の株式であるかにある。
ここでは、POとIPOの違いをあらためて確認しておこう。
違い1,株式を公募する企業が上場しているか、未上場かが違う
上述のように、POとIPOの最大の違いは、実施する企業が上場企業か、未上場企業かにある。
上場企業がPOを行うのは、資金調達で得た資金を設備投資などに戦略的に充てるためである。未上場企業が行うIPOは、POと同様に資金調達が目的であるだけでなく、企業の知名度や信頼度を上げるためでもある。
違い2,公募価格の決定方法が違う
POとIPOはいずれも、公募・売出し時の公募価格(公開価格)を決めて、不特定多数の投資家に対して取得の申し込みを勧誘する(=公募)。
同じ公募の形態を取りながらも、POとIPOの公募価格の決定方法には大きな違いがある。
・POの公募価格:時価からディスカウントされた価格
POでは、企業がPOの実施を発表した後、ブックビルディング期間中に需要予測を行う。主幹事証券会社が需要予測に基づいてディスカウント率を決定すると、当日の終値から所定の割引率でディスカウントしてPOの公募価格を確定する。
公募価格が決まると、応募者多数の場合は抽選が行われる。当選者は、ブックビルディングに申し込んだ際のディスカウント率が低い順(購入価格の高い順)に決定する。
・IPOの公募価格:参考価格を元に需要予測などを勘案して決定
IPOの場合、上場している同業他社のPERや成長性、資産内容、業績予想などを参考にして、主幹事証券会社が参考価格を決定する。参考価格が決定したら、機関投資家にヒアリングを行って仮条件を決定する。
提示した仮条件でブックビルディングの結果を集計して需要予測を行い、相場環境などを勘案した上で、IPOの公募価格を決定する。
POと違って、IPOのブックビルディング参加者は、希望購入価格が高い順に当選する。
違い3,取得した株式の値動きが違う
POとIPOでは、投資家が株式を取得した後の値動きが異なる。
・PO後の値動き
POは既上場企業の株式であるため、PO実施発表後、公募による株式の希薄化に対する懸念から株価が下がりやすい。POによる資金調達が企業の成長につながる場合は好材料になり株価が上がる。
上場企業の株価は投資家心理が働きやすく、PO実施後の株価も投資家心理の影響を受けるため、値動きが予測しにくい。
・IPO後の値動き
IPOは新興企業や成長力のある企業が多いため、初値が公募価格を上回ることが多く、上場後の数年、数十年のうちに企業が急成長して株価高騰を期待できることもある。I
3,POの4つのメリット
既上場企業が実施するPOのメリットは、投資家サイドと企業サイドにおいて、主に以下のようなメリットがある。
メリット1,投資家は時価より安い価格で上場企業の株式を購入できる
POの公募価格は時価よりディスカウントされているため、同銘柄の株式を同時期に市場で購入するより割安に取得できる。
メリット2,購入時の取引手数料が無料
POは新規発行株式と売出し株式のどちらも、公募で取得者を決定する。公募により株式を取得する場合は、購入時の取引手数料は無料であるため、支払うのは購入対価だけだ。そのため、一般的な株式売買よりコストを軽減できる。
メリット3,POは返済不要の資金調達なので、企業活動の拡大を期待できる
POの公募で多数の投資家が株式を購入することで、企業は返済不要で利息が発生しない資金調達が可能になる。
資金を返済する必要がないため、施設や設備の拡充や新たな人材の確保、研究開発費の増額など、企業活動の拡大に全額充てることが可能だ。これによって、投資家は将来的な企業成長や株価上昇に期待できる。
メリット4,POによって、株式の流動性が高くなる
POによる新規株式の発行と公募、ならびに大株主が保有する株式の売出しによって、市場に出回る株式が増加する。これによって、売買が活発に行われる可能性があり、理論的には流動性が高くなると考えられる。
4,POにおすすめの証券会社比較
POに投資する際には、SBI証券、マネックス証券、auカブコム証券の3社が便利だ。
どの証券会社でもPOを取り扱っているわけではなく、その中でも常時一定数のPO銘柄を取り扱う証券会社は多くない。SBI証券、マネックス証券、auカブコム証券の3社には毎年POの取扱実績があるため、これからPOを始めるのにおすすめの証券会社だ。
上記3社の2020年1月1日から2020年12月31日までの1年間のPO取扱実績は以下の通りである。
証券会社別 PO取扱実績の比較(2020年1月1日~2020年12月31日)
証券会社名 | PO取扱件数 | 取扱銘柄の 平均ディスカウント率 |
SBI証券 | 19件 | -3.76% |
マネックス証券 | 5件 | 非公表 |
auカブコム証券 | 17件 | -3.33% |
2020年1年間の、PO取扱実績を確認できた証券会社はSBI証券とマネックス証券、auカブコム証券の3社であった。
3社のうち、取扱件数が最も多いのはSBI証券である。取扱件数が多いSBI証券とauカブコム証券では、一部銘柄を両社同時に取り扱っている。POの当選確率を上げるためには、SBI証券とauカブコム証券など、複数の証券会社から応募するのがおすすめだ。
各社が2020年中に取り扱ったPOのディスカウント率は-2%から-9%までとなっており、通常、需要予測や市況に基づいてディスカウント率が決定される。
ディスカウント率が公表されているSBI証券とauカブコム証券のディスカウント率の平均は-3.53%である。POのディスカウント率の目安としてとらえておくとよいだろう。
5,POにおすすめの証券会社の特徴を紹介
POにおすすめの証券会社である、SBI証券、マネックス証券、auカブコム証券のPO取引ルールの比較と、各社のPO抽選の特徴を簡単に紹介しよう。
SBI、マネックス、auカブコムのPO取引ルールの比較
購入代金の 入金期限 |
需要申告の 受付チャネル |
抽選日 (抽選結果 の発表日) |
PO通知サービス | |
SBI証券 | ブックビルディング 期間中の公募価格 決定日の18:00まで |
個人投資家は インターネット (メインサイト)のみ |
公募価格決定日 の18:00以降 (抽選終了後に、 メインサイトで 結果公表) |
なし ※WEBサイト上 で抽選結果を確認 |
マネックス 証券 |
ブックビルディング 参加申し込み時 |
インターネット (マネックス証券 WEBサイト)のみ |
公募価格決定後 (抽選後、 メール配信) |
抽選結果発表を メールで通知 ※当選、落選結果 の通知は行わない |
auカブコム 証券 |
ブックビルディング 参加申し込み時 |
「らくらく電子 契約サービス」 利用の個人対象。 ログイン後画面の 「お取引」で申し込み |
価格決定後に抽選、 時間は銘柄によって 異なる (抽選後、ログイン後 画面で結果発表) |
配分結果の メール通知 サービスあり |
SBI証券:個人投資家向けの全配分数量が抽選
SBI証券のPOで配分される株式は、機関投資家向けと個人投資家向けの配分に分けられる。
このうち個人投資家向け配分は、IPOでは抽選と抽選によらない配分があるのに対して、POでは全数量の取得者が抽選で決定する。そのため、SBI証券のPOでは、小口の個人投資家も、大口投資家と同じ当選確率になる。
POと同一銘柄の信用新規売りの建玉があり、価格決定日の15時30分までに解消されない場合は、PO抽選の対象とならないので注意する必要がある。
POを取り扱う証券会社が少ない中、ネット証券最大手のSBI証券では、2020年1年間に19件のPOを販売した。
IPOと同様に、PO取扱実績も業界第1位であり、PO投資を検討する際に、最有力候補となるネット証券である。
マネックス証券:POの取扱件数は少ないが、配分数量の全てが抽選対象で公平
2020年のPO取扱件数を公表している3社のうち、取扱件数が最も少ないため、POの当選確率を高めたい人には、物足りなさがあるだろう。
マネックス証券のPOは、応募者多数で同社の配分数量を上回ると、抽選によって全数量の当選者が決定される。
預かり残高や取引高が多いと当選確率が上がる優遇制度は設けられていないので、マネックス証券に口座を開設している人なら誰でも、公平に抽選に参加できるのが大きなメリットである。
なお、POは公募で株式を取得する仕組みであるため、POで取得した株式で、同一銘柄の空売りを決済(現渡し)することは禁止されているので注意してほしい。
auカブコム証券: 全配分数量の10分の1程度が個人向け抽選配分
同じ三菱UFJフィナンシャル・グループ傘下の三菱UFJモルガン・スタンレー証券が引き受ける豊富なPO銘柄(一部銘柄を除く)に、auカブコム証券から申し込める。
auカブコム証券に配分される全数量のうち、抽選によらない機関投資家やプロ口座向けの配分以外が、システム抽選による一般投資家向け配分となる。なお、抽選によらない配分数量は、抽選による配分数量の10倍程度と定められている。
6,POの3つのデメリット
POには、IPOにはないデメリットがある。あらかじめデメリットを把握してデメリットに配慮した対策を講じることで、POのメリットを最大限に生かした取引が可能になる。
必ず、以下でPOのデメリットを確認しておいてほしい。
デメリット1,短期的な値上がりをあまり期待できず、株価は下落傾向になりがち
POは、IPOのように初値が公募価格を大幅に上回ることは少なく、PO直後に売却しても、大幅な売却益を獲得することを期待できない。
POの新株発行によって、発行済株式の1株当たり利益が減少し、株式の希薄化が起こる。これが原因となって、POを実施した企業の株式が売り気配となりやすく、株価の下落につながることが多い。
短期的には下落傾向になることを理解して、POによる購入後、値下がりと同時に即売却することは避けた方がよいだろう。
デメリット2,POの効果が業績に反映されるのに時間がかかる
POによる資金調達の目的は、長期戦略に基づく設備投資などである場合が大半であり、資金調達による効果が企業の業績伸長に結び付くのに数年単位の時間がかかる。
そのため、POは短期的な株価上昇につながらず、IPOのように短期間での株式売却で値上がり益を獲得することは難しい。
業績の回復が見込めない、あるいは倒産危機といった悪材料でない限りは、株価の上昇を気長に待つスタンスでPO投資に臨みたい。
デメリット3,POのスケジュールは繰り上げられる可能性がある
PO実施の発表時に公表される購入申し込み期間や株券交付日は、公募価格決定日が早まることで、繰り上げられるケースが多い。
ブックビルディング期間は、一定の幅を持たせて設定されている。このブックビルディング期間中であれば、いつの時点でも、需要予測の集計が済み次第、ディスカウント率と公募価格が決定する可能性がある。
PO発表当初のブックビルディング期間を確認したら、スケジュールの繰上げを見込んで、早めに購入代金を入金する、または早々にブックビルディングに申し込むなど、余裕のある予定を立てておく必要がある。
7,POの商品特性を視野に入れて、投資機会の拡大につなげよう
POは既上場企業の資金調達の一種であるが、用途が長期的な経営戦略に基づく場合が多いため、株価上昇に結び付くのに時間がかかる。
そのため、POを投資機会として活用する際には、中長期投資による値上がり益の獲得や、好配当による長期的な配当利益の確保といった投資戦略を取るのがおすすめだ。これによって、PO投資の効果を最大化できると考えられる。
執筆・近藤真理
証券会社の引受業務やビジネス系翻訳携わったのち、個人投資家として活動。現在は総合証券、ネット証券の両方を使いこなし、経済、金融、HR領域で多数の媒体で執筆中。2019年にフィナンシャルプランナーの資格取得。
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