
「#7」、「#8」と続けて開業医や、これから開業医になろうとしている方向けに節税のテクニックを紹介してきた。人によっては節税効果が小さいものもあるかもしれないが、複数のテクニックを“重ねがけ”すれば、かなりの節税効果を得られるのではないだろうか。税理士の井上慶祐さんに聞いた「開業医の節税テクニック」も今回で最後。ぜひ、ここで紹介された節税テクニックを取り入れ、高額納税の悩みを解決してもらいたい。

トラスティーズ・コンサルティングLLP、井上慶祐税理士事務所代表。会計ファームでは税務コンプラアンス業務のほかに経営戦略や財務改善、再生支援などの多岐に渡る業務を経験。非上場企業や不動産オーナーといった資産家の相続、事業承継対策に特化し、金融、不動産までカバーした組織再編や株価対策、相続申告など、全国各地の資産税案件に従事する。また、M&A関連業務を中心とした税務デューデリジェンスやアドバイス、最近は一般社団法人フォレストック協会のヴァイスプレジデントとして、脱炭素に特化した企業ブランディングやCSRプログラムの提供も行っている。
「小規模企業共済」や「国民年金基金」で節税+将来の不安を軽減
「小規模企業共済」は、小規模企業の経営者(あるいは役員)が、廃業や退職時の生活資金などを積み立てる共済制度である。掛金が全額所得控除できるといった税制面でのメリットに加え、事業資金の借入れも可能だ。いわば、規模が小さい企業の経営者のための「退職金」制度といっていいだろう。残念ながら、医療法人の役員は加入できない。
個人の開業医は同制度の対象であり、引退時に積み立てた掛け金を退職金として受け取ることができる。#7の「医療法人化のメリット」でも述べたが、退職金は給与やボーナスで受け取るよりも低い税率が適用される。引退後の生活の備えや、将来的な医療法人化に向けた資金の確保など、さまざまな用途に活用できそうだ。
掛金は所得控除となるので、積み立てをしつつ、所得税及び住民税の節税をすることも可能である。ただし、掛金納付月数が、240カ月(20年)未満のうちに任意解約をした場合は、解約金が掛金の合計額を下回ることになる。もちろん、毎年の所得控除による節税効果を考えると一概に損するとは言えないが、注意は必要だ。下の図表で所得金額ごとの節税額がわかるので、参考にしてもらいたい。

勤務医が一念発起して開業医になると、勤務医時代の社会保険(厚生年金)がなくなって国民年金のみになるため、その点で不安を覚えるかもしれない。