次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスの混在する大変化時代に対峙し、どこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。
今回のゲストは、データセクション株式会社代表取締役社長兼CEOの林健人氏。「企業のデータ部門を担う」という由来を持ち、ソーシャルメディア分析やリテールマーケティングを行っている同社が変遷の末たどり着いた事業展開や、今後の未来構想を聞いた。
(取材・執筆・構成=落合真彩)
早稲田大学卒業後、現在の日本IBM(旧PwCコンサルティング)に入社。多数のコンサルティング案件に従事。2007年より現SCSKのCVCとして設立されたグループ会社にて新規事業開発投資を行う。そこでデータセクションと共同でソーシャルメディア分析事業の新規事業開発したことをきっかけに2009年データセクションの取締役COOに就任。 ビッグデータ分析企業として2014年東証マザーズに上場。2018年にはデータセクションの代表取締役社長に就任しAI技術を活用したソリューション開発を行う。2019年には海外企業のM&Aを行うなどグローバルで20カ国にサービス展開するグローバルカンパニーに。今後は日本発のグローバルIoT企業を目指す。
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
「一過性のブームで淘汰される会社にはならない」そのために、着実に1つの業界を攻める
冨田:データセクションさんが上場された2014年当時は、“大ビッグデータバブル”というような時代で、それを象徴するような会社だったと記憶しております。そこからマーケットが変わる中で事業も変わってきたと思いますので、その変遷のところを最初にぜひ語っていただけると幸いです。
林:創業した2000年当時は、いわゆるドットコムバブルで、インターネットという新しい場所を生かしてサービスがどんどん展開されている時代でした。ただ、その裏側には当然、購買履歴や個人の住所、クレジットカード番号、趣味嗜好といったデータがたまっているわけです。
当時は「ビッグデータ」などの言葉はありませんでしたが、この裏側のデータ分析をすることによって、企業経営が変わるのではないか、という思いで創業した会社です。「私たちは『企業のデータ部門』であり続けるんだ」ということが、データセクションの名前の由来になっています。
データ分析に関する課題として、「何のために分析するのか」「どう活用するのか」という目的がないまま進めてしまう点が挙げられます。僕はデータセクションを、AIやDXのブームが過ぎ去ったら忘れられるような会社にはしたくないとずっと思っているので、いかに業界の課題を解決するかを常に考えています。
元々はテキストマイニングが得意だったので、ソーシャルメディアのテキストデータ分析を中心に行ってきました。ただ、これも結局は要素技術でしかなく、肝心なのは技術をどういうソリューションに仕立て上げ、インパクトを与えて事業の役に立つかです。僕たちは上場以降、あらゆる業界、あらゆる企業にPoCという形でたくさんのデータ分析やAI活用を行ってきましたが、広く浅く何でもやっているということは、何もしていないのと等しいのではないかと思うようになりました。
そこで、「データセクションは何をする会社なのか?」というところに立ち戻りました。考えた末、中途半端にいろいろな業界に手をつけるのではなく、まず着実に1つの業界でデータ分析の仕組みを確立していこうという方向に舵を切りました。これが2017年頃です。
上場しているとはいえ、規模もまだまだ小さなスタートアップ企業だと思っているので、1つ1つの業界のお客さまにきちんと向き合って業務課題を解決する会社になりたいと思い、ファーストステップとして、今はリテールテックの領域に絞り、集中投資しています。
リテールテックを皮切りに、横展開していく仕組みをつくる
冨田:ありがとうございます。直近の決算資料では「選択集中フェーズ」から「拡大投資フェーズ」であると押し出されています。選択と集中の結果、リテールテックに絞られて、その領域で成功の仕組みを確立できてきたから、今度はそれを横展開していくフェーズに入るというタイミングということでしょうか。
林:おっしゃるとおりです。もう1つ、グローバル展開も行っています。グローバル展開を掲げるのは、日本産業界に対する課題感があるからです。2000年代から、ソーシャルメディアの会社は日本でもいくつか生まれましたが、今グローバルスタンダードになっているのはFacebookやTwitterです。でも、僕は日本にもそうなれるチャンスはあったのではないかと思うのです。
IT系だけじゃなく、各業界の技術オリエンテッドなところで、日本で開発されたサービスやプロダクトがもっとグローバルで広がってもいいんじゃないかと昔から思っていて。データセクションがグローバル展開することで、データ分析という企業経営の根幹になる領域で、グローバルで活躍できる企業が日本から生まれたんだと思われるようになりたいと考えています。
冨田:ありがとうございます。例えば音声認識などでは、圧倒的なデータ量を持っている企業が強くなりますよね。端末まで持っているGoogleが良い例だと思います。その中で強みとなり得るのは、「データ解析やディープラーニングの精度」と、「データ量にアクセスして、データ精度を上げていける仕組みの構築」ではないかと思います。現状データセクションさんでは、各業界・各社さんごとのカスタマイズを重視されているので、後者についてはあまり重視されていないのでしょうか。
林:いや、元データは持ちたいと思っていますね。おっしゃるとおり、データ解析精度にはデータ量が肝になりますので、データ量を自社にためられると揺るぎない強みの1つになると思います。リテールテックでカメラを店舗に設置するのも、データ収集のインターフェイスを抑えたいと考えているからです。
Googleさんの解析だと、専門分野に特化したところの精度は専門的にやっているところよりは弱くなります。僕らは例えば医療現場に音声解析を導入していくことで、医療領域に関してはGoogleさんの精度よりも高いものを実現できると思っています。このような専門領域をどんどん築き上げていこうと思っています。
業界特化のスタートアップを集めた「スタートアップユニオン」構想
冨田:専門用語が求められる市場と、世間一般に広がっている市場とはまた別にあるということですね。そういう意味では、業界ごとに切って参入することが非常に生きると思います。デジタル上だけではなくリアルの店舗データも持つようになったということも大きな一歩だと思いますが、データセクションさんのコアコンピタンスは他にもありますでしょうか。
林:もう1つ強みと考えているのは、PoCで終わらせないことですね。やっぱり最初の段階ではAIが自動的に業務課題を解決してくれるなんてことはなく、生みの苦しみがあります。ですが僕らはお客さまに寄り添い、仕組みとして、手段として技術を使うことを常日頃から大事にしているので、しっかりヒアリングして、コストパフォーマンスの部分もご納得いただいてから開発をしていきます。そこまでお客さまと対話し落とし込むことができるというのは強みだと思います。
冨田:落とし込むためにはその領域ごとのある程度一定の専門性が必要になると思いますし、バーティカルに切っていく強みが発揮されますね。そうやって精度を上げながら横展開をしていくことで、1つ1つ業界を倒していくと。
林:はい、おっしゃるとおりですね。
冨田:そのうえでここから未来への方向性を伺いたいと思います。先ほどグローバル展開ということ、バーティカルに業界を絞って1つ1つ広げていくことをお聞かせいただいたのですが、大きな方向性を少しお話しいただければと思います。
林:業界をバーティカルに切って、1業界ずつ粛々と落とし込んでいく。そうしたときに、例えばいまやっているリテールテックに関して、すでにリテールにめちゃくちゃ特化していいサービスを展開しているスタートアップ企業って、グローバルで見るといっぱい見つかるんです。
そういう企業が例えば資金力がなかったり、リテールの知見は非常に厚いものの、AI開発の技術力が不足していたりすることがあります。そういった会社とはWin-Winになれると思うので、ビジョンを同じくして持てるのであれば、どんどんM&Aしてスタートアップユニオンみたいなものをつくりたいですね。
グループとして成長していくため、M&A戦略も工夫
林:僕らはPoCで終わらせずに業界の役に立つインパクトを与えることを大事にしていますが、やはり業界の課題がしっかりわかっていないとPMFはできません。その業界の課題をよく理解しているスタートアップや、これからその事業を立ち上げたいと思っている人たちがいたら、どんどん巻き込んでいきたいです。
例えばグループ会社の1つであるJach Technologyというチリの会社は、20カ国ほどで展開している企業です。そのネットワークがあるので、他のグループ会社の新しいサービスができたときに、20カ国に一気に展開することもできます。これをグループ全体としての強みと捉え、将来的にユニオンをつくりたいなと構想しています。
冨田:ユニオンになった場合のデータセクション社の機能は、コアテクノロジー保有やR&D、事業投資となるとのことですが、業界ごとのカスタマイズを進める中でも、その業界だけに閉じるのではなく、データセクションが中央で技術を持ち、別業界への開発や投資に充てていくというイメージでしょうか。各グループ会社には業界での技術やデータ解析のレベルを最大化するところにフォーカスしてもらって、本社機能みたいなものを含めたところは自社が担うと。
林:そうですね。ユニオンみたいな構成になったときに、各社がデータセクショングループ全体に対する貢献をしていこうという視座を持ってもらえるように、株式対価M&Aをしています。データセクションの株主になることで、自分たちの領域だけではなく、グループ全体、新たな業界含めて連結してうまくいくことを考えてくれると思います。
どうしても自社だけですべてやろうとすると、AIエンジニアやDXエンジニア、プロジェクトマネージャーの人材派遣業になってしまうんですよね。それはそれで一定の案件は受注できると思いますが、自社サービスの開発にはつながらない。それではデータセクションが会社として成長していくためのアクションではないと考えて、このような事業展開と構想になっています。
冨田:ありがとうございます。ユニオンをつくって、専門性の高い領域を量産していって、データセクションさん自身は本社機能を担うという関係にあったほうがやりたいことの実現につながるだろうというのは、事業の変遷のところで林社長がおっしゃっていた、自社が身をもって経験した成功と失敗の中での学び、選択と集中をしたほうがいいと考え至ったところから生まれた発想に聞こえます。そういう意味で、1本の線が通ってすごく納得できました。
プロフィール
- 氏名
- 林 健人(はやし・けんと)
- 会社名
- データセクション株式会社
- 役職
- 代表取締役社長 CEO
- ブランド名
- 「FollowUP」「Insight Intelligence Q」
- 学歴
- 早稲田大学