筆者が主宰する「ファンドガレージ」では、独自の国際分散投資のポートフォリオやパフォーマンス等を公開している。会員のみなさんに国際分散投資の等身大の価値を、実践的に感じていただくのが目的である。

折しも、年末年始はSAA(戦略的アセット・アロケーション)の見直しのタイミングということもあり、久し振りに他社の動向などをネットで検索して調べる機会があった。具体的にはネット証券の検索サービスを使って「バランス型」というキーワードをマークして検索をかけ、その結果を「ファンドスコア」でソーティングして上位の運用レポートや目論見書を調べ、同じように純資産の大きなものから資料をダウンロードして内容を丹念にチェックするというものだ。

資産運用の常識が変わりつつある?

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(画像=FUTO / pixta, ZUU online)

ちなみに、SAA(Strategic Asset Allocation:ストラテジック·アセット・アロケーション)は資産配分方法の1つで、大局的・長期的な視点で策定する計画手段である。ファンドガレージのSAAの見直しのために、他社の動向を調べていたのには理由がある。すなわち、現在の市場環境はSAAを変更するかしないかの最終結論を出すには非常に悩ましい状況だからだ。ひと言でいえば「米国の金利動向」についてどう予測するかで結論も大きく違ってくる。

ご承知の方も多いと思うが、2021年における米国債指数の年間リターンは「マイナス2.5%」となった。株式ならば年間リターンがマイナスになることなど日常茶飯事(本当は違ってほしいのだが)なので驚かないが、米国債は別である。「安定資産」という認識が多くの人に刷り込まれていた米国債の年間リターンがマイナスに転じたことで、それまで常識とされていたことが、常識ではなくなりつつある可能性も否定できなくなっているからだ。

過去30年間をさかのぼって、米国債の年間リターンがマイナスとなったのは5回しかない。1994年、1999年、2009年、2013年、そして2021年である。さらに注目されるのは同期間で2年連続でマイナスになった前例がないことだ。むしろ、マイナスをつけた翌年はプラスに転じているという事実がある。

しかしながら、米国金利は歴史的な低水準で推移している。それこそマイナス金利を想定しない限り、ここからの金利低下余地はほとんどない。せいぜい横ばいが精一杯という感じだろう。米国債の年間リターンが大きくプラスに転じるためには、金利が下がって債券価格が上昇する必要がある。だが、それが本当に現実的なシナリオなのだろうか、という疑問も拭い切れない。

筆者がSAAについて頭を悩ませていたのは、このためだ。

日本の投資信託のアセット・アロケーションを調べてみると……

さて、そんなことを考えながら年末年始に日本の投資信託のアセット・アロケーションを調べてみると、予想に違わず「相変わらず」のものがほとんどだった。すなわち、「債券は『安定資産』」であり、次いで「REIT(不動産投資信託)もそれに類する「インカムゲイン」を得られる『安定資産』の一種」と捉えるというものだ。

たとえば、あるネット証券が取り扱う国際分散投資(日本を含む)の公募投信は、全取扱い2,666本のなかで409本もある。そのなかで、純資産額が最大の約6,500億円で、なおかつファンドスコア(3年)が「5つ星」となる投資信託のリターンを見ると、5年間でプラス2.46%、3年間でプラス3.91%、そして1年間がマイナス0.32%、6カ月がマイナス2.45%となっている(2022年1月7日時点)。

その投資信託の運用対象は、すべてパッシブ運用となるインデックスETF(上場投資信託)なのだが、月次レポートをよく見ると、筆者の目から見て稼ぎ手と思われる「株式」は全体の11.4%しか含まれていない(しかもその半分は日本株である)。その一方で、先進国債券は約50%も組み入れられている。その投資信託では引き続き「債券は『安定資産』」と捉えているようである。

ファンドマネージャーとして長年マーケットと向き合い、投信会社の社長も務めた筆者の経験から言わせていただくと、公募の投資信託の「運用」は必ずしも運用部門だけで判断できるものとは限らない。たとえば、運用会社の新商品開発部門と営業部門、それに販売会社(証券会社や銀行)の投信部が「いかに販売額を伸ばすか」ということを前提とした固定概念に囚われている場合、そう簡単に変えることはできなくなる。「リスク許容度が低い投資家向け=債券の比率が高く、株式の比率が低い」と彼らが信じている場合はなおさらだ。