米国,個人所得・消費支出
(画像=PIXTA)

目次

  1. 要旨
  2. 補正予算案閣議決定
  3. 「枠の確保」としての性格が強い経済対策。22年度当初予算は例年通りきれいにまとまる見込み

要旨

  • 2021年度補正予算が閣議決定。経済対策の規模は大きいが、既存経費や予算「枠」の確保といった性格のものも多く、消化されるか、何に使われるかが不明なものがみられる。内容はコロナ対策が中心であり、短期的な景気押し上げ効果は大きくならないだろう。
  • 当初予算は従来通り高齢化要因の増加+コロナ予備費のみを認めた形にまとまる見込み。補正を緩めて当初を絞る財政運営もこれまで通りだろう。米欧型の中期財政フレーム策定等に踏み切るか、年度末までに実施見込みのPB黒字化見直しや来年骨太方針等が岸田首相の財政政策スタンスをみるうえで非常に重要なイベントと考えている

補正予算案閣議決定

26日に政府は2021年度補正予算案を閣議決定。この補正予算は19日決定の経済対策(※1)の予算措置に相当する。歳出部分は追加歳出は31.8兆円(経済対策関連は31.6兆円)、国債整理基金特別会計への繰入が2.3兆円、地方交付税交付金が3.5兆円となっている。既定経費の減額分は▲1.6兆円となっており、歳出総額は36.0兆円となる。歳入部分は税収の上振れ分が6.4兆円、税外収入が1.4兆円、前年度剰余金の受け入れが6.1兆円となっている。新規国債発行は22.1兆円(※2)であり、過去3度のコロナ関連補正予算と比較すると規模は抑えられている(資料1)。

『第一生命経済研究所』より引用
dai10.jpg『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用)

「枠の確保」としての性格が強い経済対策。22年度当初予算は例年通りきれいにまとまる見込み

22日レポートでは、今回経済対策の財政支出55.7兆円について①国費の財源不明部分、②例年になく大きい地方支出、の2点の謎に対する筆者の予想を提示したが、これは想定通りだった。予算資料の内容からは①は既存の2021年度予算分が対応、②については補正予算における地方交付税・交付金の増加が対応している。

今回の経済対策は規模こそ膨らんでいるものの、経済対策規模には既存の経費が計上されているほか、地方交付税交付金・コロナ感染拡大時の地方創生臨時交付金・予備費など予算「枠」のみが確保されており、それが消化されるかどうか、また何に使われるのか不透明な経費が多い。内容自体もコロナ対策の性格が強いほか規模を拡大させているのは支出に回る部分が小さくなる給付金であり、短期的なGDP押し上げ効果は大きくはないだろう。

なお、今回の補正予算で明らかになった点のひとつは、経済対策のうち「2022年度当初予算計上分」は5.0兆円の予備費のみということだ。したがって、当初予算は例年通り社会保障関係費の高齢化要因による増加のみを認め、コロナ予備費を含めたその他の予算枠がおおむね維持された例年通りの形にまとまる見込みである。当初予算をきれいにまとめる一方で補正予算を緩める財政運営の方法は岸田政権でも変わっていない(※3)。今回の予算編成方針は6月決定の骨太方針に従ったものでもあり、変更は難しかったとみられる。

岸田首相は「予算の単年度主義の弊害是正」を先の新しい資本主義実現会議でも掲げているが、これが具体的に何を意味するのかは明らかにはされていない。今後、米欧の「米国雇用計画」や「次世代EU」のような中期財政フレームの策定まで踏み込むかどうかは、年度末にも実施される見込みの「プライマリーバランス黒字化目標の見直し」や23年度予算の運営方針を定める来年夏の骨太方針などにおいて徐々に明らかになっていくだろう。これらは岸田氏の財政政策に対するスタンスそのものであり、今後のマクロ経済政策運営をみるうえで重要なイベントだと考えている。(提供:第一生命経済研究所

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=dai11.『第一生命経済研究所』より引用jpg)

(※1) 経済対策の主な内容やその読み方についてはEconomic Trends「岸田政権・過去最大の経済対策を解剖~過去最大は本当か?財政支出55.7兆円の読み方~」(2021年11月22日)をご参照ください。

(※2) 22日レポートの筆者予想では報道情報をベースに既定経費の減額分が大きくなるとみていたが、想定より少額にとどまった結果、新規国債発行額が予想を上回った。税収上振れ分の予想値、国費とは別途多額の地方交付税・交付金が計上される点は予想通り。

(※3) 筆者はこの方法は経済成長にも財政再建にも資するものではないと考えている。詳しくは「骨太方針2021のポイント(財政再建目標編)~見直すべきは“当初を絞って補正を緩める”財政運営~」(2021年6月14日)をご参照ください。


第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 星野 卓也