厚生労働省の調べによると2020年度の老齢厚生年金平均受給額(月額)は、14万6,145円だった。65歳から老齢基礎年金を満額受け取った場合、2021年度は年額78万900円のため、月額換算6万5,075円を加えると年金月額は約21万1,220円である。また総務省が発表している家計調査報告(2020年度)によると65歳以上の夫婦のみの無職世帯における実収入は25万6,660円だった。
一方、消費支出は22万4,390円と3万2,270円と若干の黒字である。これは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、消費支出が落ち込んだことが理由の一つだろう。ただこの数字は、あくまでも最低日常生活費である。ゆとりのある老後を送るためには、少しでも年金が多いに越したことはないだろう。本コラムでは上記の家計調査報告の実収入25万6,660円にもう少し余裕を見て30万円を受け取るために必要な収入を解説していく。
年金30万円を受け取るための収入額
実際に夫婦で30万円の年金を受給するためには、どのくらいの年収が必要なのだろうか。
公的年金は、老齢基礎年金と老齢厚生年金に分かれる。老齢基礎年金は、収入に関係なく40年間(480ヵ月)保険料を納付することで満額受給が可能だ。2021年度の老齢基礎年金額は、78万900円(月額約6万5,075円)のため、夫婦で満額受給した場合の月額は約13万円となる。しかしそれでは30万円には到底及ばない。
最低日常生活費の確保、さらにゆとりのある生活を希望するならば、夫婦の両方もしくは片方が厚生年金に加入し収入に応じた保険料を支払い、老齢厚生年金を受け取る必要がある。では、夫婦で30万円(年額360万円)を受け取るために必要な収入額を見てみよう。
夫婦共働き世帯のケース
老齢厚生年金の受給額は「平均標準報酬額×5.481÷1,000×加入期間の月数」で求められる。正確には、保険料納付期間が2003年3月までと2003年4月以降で平均標準報酬額に乗じる率が異なるが、今回は2003年4月以降の乗率で計算していく。なお再評価率や物価スライドについては考慮しないものとする。
勤続年数を22~60歳までの38年間(456ヵ月)とした場合の平均標準報酬額を逆算して計算してみよう。ちなみにここでいう平均標準報酬額とは、加入期間の標準報酬月額と標準賞与額の総額を加入月数で割ったものである。夫婦両方が38年間働いており夫婦の合計平均標準報酬額が以下のように約146万円、つまり夫婦で約1,752万円(146万円×12ヵ月)の年収があれば老齢厚生年金だけで夫婦30万円の受給が可能だ。
- 夫:85万円
85万円×5.481÷1,000×456ヵ月=約212万円 - 妻:61万円
61万円×5.481÷1,000×456ヵ月=約152万円
また老齢基礎年金が満額受給となる場合、夫婦合わせて年間156万1,800円(78万900円×2人)あることから、360万円との差額である203万8,200円を受け取るための必要な夫婦の合計平均標準報酬額は約82万円、つまり夫婦で約984万円(82万円×12ヵ月)の年収が必要であることが分かる。そのため以下のようなケースであれば老齢基礎年金を合わせた年金額として夫婦30万円を受け取ることが可能だ。
- 夫:58万円
58万円×5.481÷1,000×456ヵ月=約145万円 - 妻:24万円
24万円×5.481÷1,000×456ヵ月=約60万円
片働き世帯のケース
では、片働きの場合はどうだろうか。片働きの場合、妻が厚生年金への加入歴が全くない専業主婦と厚生年金保険料を払わず扶養範囲内(130万円以内)で働くケースが考えられる。ただどちらにしても妻の年金は、老齢基礎年金のみだ。そのため夫婦の老齢基礎年金受給額を除いた際に必要となる夫の平均標準報酬額は約82万円、つまり約984万円(82万円×12ヵ月)の年収となる。
- 82万円×5.481÷1,000×456ヵ月=約205万円
不足額を補う方法
夫婦で30万円を受給しようと思った場合、勤続年数やその間の年収にもよるがかなりの収入が必要とだと分かる。ちなみに2020年の厚生年金保険加入者の平均標準報酬額は、約37万円(年収444万円)だ。公的年金だけでは、不足が発生することは十分に考えられるため、私的年金の活用が必要不可欠といえる。
私的年金の活用(今後の改正事項もあわせて解説)
私的年金として注目されているものが確定拠出年金だ。確定拠出年金制度は、企業型と個人型に分かれており個人型はiDeCoという名称で親しまれている。
企業型確定拠出年金
企業が独自で導入する従業員のための確定拠出年金制度である。掛け金については、基本給の一定割合など規約で決定することができ希望する場合は、それに上乗せして掛け金を拠出することが可能だ。これを「マッチング拠出」という。掛け金および運用益は非課税で受取時にも各種控除の優遇を受けることができる。個人型確定拠出年金
原則として20歳以上60歳未満の人が加入できその人の属性によって掛け金の上限額が決まっている。掛け金は、全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象だ。また運用益は非課税、受取時には企業型確定拠出年金と同様に各種控除(退職所得控除・公的年金等控除)の対象となる。
従前は、企業型確定拠出年金加入者は、会社の規約でiDeCoへの加入が認められている場合のみiDeCoへの同時加入が認められていた。しかし2020年に成立した年金制度改正法により2022年10月から企業型確定拠出年金の加入者に対するiDeCoへの加入要件が緩和される。
また2022年4月からは、受取選択時期を現在の70歳から75歳まで拡大するほか、2022年5月には加入年齢の引き上げが予定されている。
つみたてNISAの活用
私的年金ではないが資産形成の一環としてつみたてNISAの活用も有効だ。「長期・積立・分散」という投資の3大原則に基づき比較的安定した商品で運用ができるため、余剰資金があるならば活用したい。
受給のベストなタイミングを見極めよう
2022年時点で公的年金は、原則65歳から受給開始となるが65歳以降への繰下受給も可能だ。その際は、繰下期間に相当する増額が行われる。ただし2022年4月からは最大75歳まで繰り下げることができるため、最大84%の増額が見込めるのだ。日本企業は、2022年時点で70歳までの就業機会の確保が努力義務となっている。
そのためできるだけ働く時間を長くしその分受給できる年金額を増やすことが重要だ。繰り下げ受給を上手に併用し自身のベストなタイミングで受給を開始することが大切といえる。
(提供:manabu不動産投資 )
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