損害保険大手は2022年10月以降に保険期間が始まる契約を対象に、割安な5年超の契約を廃止する見通しであるとの報道があった。
割安な長期契約がなくなるため、実質的な値上げといえるだろう。
火災保険料の値上げは、オーナーにとっては固定コストの増加に直結するため、見過ごせない問題だ。
本記事では、火災保険料が値上げされる背景と具体的な内容を確認し、値上げに備えてオーナーとしてできる対応を3つ解説する。
2022年10月に火災保険料が値上がりへ!その背景は?
火災保険料は直近3年間で、2019年10月と2021年1月に値上げが行われた。
さらに2022年10月にも火災保険料の値上げが行われる背景の一つに、地球温暖化の進行によって大規模な自然災害が頻繁に発生していることが挙げられる。
一般社団法人日本損害保険協会の発表によると、2018年度から2020年度までの風水害による車両・火災・新種保険の保険金支払額(見込みも含む)は以下のとおり。
年度 | 風水害毎の車両・火災・新種保険の支払保険金額 | 保険金総支払額※ |
---|---|---|
2018年度 | 台風24号にかかる被害 約3,060億円 台風21号にかかる被害 約1兆142億円 平成30年7月豪雨にかかる被害 約1,955億円 | 約1兆5,157億円 |
2019年度 | 令和元年台風15号にかかる被害 約4,656億円 令和元年台風19号にかかる被害 約5,826億円 令和元年10月25日の大雨にかかる被害 約238億円 | 約1兆720億円 |
2020年度 | 令和2年7月豪雨にかかる被害 約1,054億円 令和2年台風10号にかかる被害 約980億円 令和3年1月7日からの大雪にかかる被害 約455億円 | 約2,489億円 |
保険金支払額が2年連続で1兆円を超えたのは初めてで、損害保険会社の経営状態が逼迫していることも考えられる。
今後も保険金支払額が増加する可能性があるため、さらなる値上げに踏み切るのだろう。
火災保険はこう変わる!値上げによる具体的な3つの影響
2022年10月に行われる火災保険料の値上げによって、火災保険は以下のような影響を受ける。
・契約期間が最長10年から5年に短縮
・長期契約における割引率が低くなる
・今後の保険料改定によるコスト変動の影響を受けやすくなる
契約期間の短縮と、それによる派生的な影響があるということだ。
契約期間が最長10年から5年に短縮
2022年3月現在、火災保険の契約期間は最長10年だが、今回の改定によって最長5年に短縮されることが見込まれる。
契約期間が短くなるということは、良くも悪くも契約内容を見直す機会が増えるということだ。
保険料が変動する頻度が高まるリスクがある半面、補償内容を最新のものにアップデートするチャンスが増えるというメリットもある。
長期契約における割引率が低くなる
火災保険には「長期割引」という割引制度があり、契約期間が長くなるほど保険料が割安になる。
1年間の契約を10回更新した場合と10年間の契約を1回行った場合を比較すると、保険料は後者のほうが18%も安い。
契約期間が短くなると割引率が下がるため、長期契約による割引メリットを享受しにくくなるのだ。
今後の保険料改定によるコスト変動の影響を受けやすくなる
契約期間が短くなると、契約の更新頻度が高くなる。
契約更新の際は改定された保険料で契約を結ぶことになるため、新保険料が契約に反映されやすくなる。
2015年までの火災保険は最長で35年間の契約ができ、その場合保険料は35年間変わらない。
言い換えれば、更新を迎える35年後まで保険料改定の影響を受けないのだ。
契約期間が短縮されると保険料改定の影響を受けやすくなるため、保険料という固定コストを資金計画に落とし込むのが難しくなる。
コストにおける不確定要素が増えるため、賃貸経営の難易度が高くなるだろう。
実質的に火災保険料はどの程度値上がりするのか?
損害保険各社で構成される「損害保険料算出機構」の発表によれば、「参考純率」が全国平均で10.9%引き上げられる。
参考純率とは、各保険会社が自社の保険料率を算出する際の基礎としている純保険料率のことだ。
参考純率は、料率算出団体という団体が各保険会社から集めた契約および保険金支払データ、各種外部データなどをもとに算出している。
保険料を決める要素の一つが、今回の改定によって全国平均で10.9%引き上げられるということだ。
個別の物件において火災保険料がどの程度値上がりするかは、エリアや物件の構造、補償内容などによって異なるため、所有物件ごとに見積もってみるとよいだろう。
保険料の実質値上げに備えてオーナーとして対応できる3つのこと
保険料の実質値上げに備えて、オーナーとして自身の賃貸経営のために対応できることは以下の3つだ。
・加入中の保険の契約内容を見直す
・改定時期までに10年契約を結び直す
・改定後の保険料の見積もりを取得しておく
加入中の保険の契約内容を見直す
保険料が改定されることを契機に、すでに加入している保険の契約内容を見直すことをおすすめする。
不要な補償や特約がある場合は、リスクとのバランスを考慮した上で外すことも検討すべきだ。
ハザードマップにおいて水災リスクが低い地域にある物件であれば水災に関する補償を外す、オーナーがその物件に居住していないのであれば類焼損害特約を外すことも検討したい。
顕在化し得るリスクを洗い出し、本当に必要な補償や特約のみに絞ることで保険料を抑えられる。
ただし、保険料の節約を考えるあまり、必要な補償や特約まで外してしまわないように注意してほしい。
保険料という固定コストを削減できても、リスクが顕在化した場合にそれ以上のコストを支払うことになっては本末転倒だ。
改定時期までに10年契約を結び直す
保険料の改定される2022年10月までに、10年契約を結び直すというのも選択肢の一つだ。
長期契約による割引の観点で、10年契約を結ぶことができる間に結んでおくことで保険料の節約につながる。
ただし、改定直前に駆け込みで10年間の長期契約を結ぼうとすると、金融庁の指導により制限がかかる可能性があるため注意してほしい。
改定後の保険料の見積もりを取得しておく
現在加入している火災保険を2022年10月以降に更新する際、保険料が値上がりすることを見越しておくとよいだろう。
参考純率が全国平均で10.9%引き上げられることが見込まれているが、実際に各契約においてどの程度値上がりするのかは、保険会社や契約内容によって異なる。
値上げの1〜2ヵ月前には改定後の保険料の見積もりを取得できるため、早めに取得しておこう。
改定後の保険料を資金計画に反映しておくことで、中長期的なコストの増減を事前に把握できる。
値上がりしても火災保険は重要なリスクヘッジ策の一つ
保険料の値上がりが見込まれているが、火災保険は自然災害や事故などに備えるための重要なリスクヘッジ策の一つであることに変わりはない。
今回の保険料の値上げは、必要経費の増加と考えるのが妥当だろう。
一方で保険料は固定コストでもあるため、これを機に現在加入している保険の契約内容を見直し、不要な補償を削ぎ落とすとコストを削減できるかもしれない。
各物件が抱えるリスクやリスクが顕在化した場合のコスト、リスクをヘッジするためのコストとのバランスを考えて、最適な保険・特約に加入することも賃貸物件のオーナーの仕事といえる。
(提供:manabu不動産投資 )
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