なぜ「iDeCoで節税できるは嘘」と言われるのか?【税理士監修】
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将来の年金不安に備えてiDeCoの加入者が年々増えている。金融機関は、顧客を増やそうとiDeCoの節税効果をしきりにうたっているが、ネット上ではiDeCo加入による節税効果を「嘘」と言い切る記事も散見される。なぜ「iDeCoで節税できるのは嘘」と言えるのだろうか。

3つの税制優遇ポイントを紹介

iDeCo(イデコ)は、2001年10月1日に導入された個人型確定拠出年金のことだ。iDeCoが広く知られるようになったのは、2017年に加入資格が大幅に緩和されてからである。基本的に20歳以上65歳未満であれば誰でも加入可能だ。iDeCoに加入すると税制上、以下の3つの優遇が受けられる。

掛金は全額所得控除

iDeCoの掛け金は、全額所得控除される仕組みだ。課税所得が減ることで納付する税額も減る。例えばiDeCoに加入せず課税所得が500万円の場合の税額は、所得税率20%、住民税率10%が適用されると以下のような計算式で求められる。

所得税:500万円×20%-控除42万7,500円=57万2,500円
住民税:500万円×10%=50万円
所得税と住民税の合計で107万2,500円である。

一方iDeCoに加入して毎月4万円を積み立てた場合、課税所得500万円から年間拠出額の48万円が差し引かれ、課税所得は452万円に減少する。この課税所得452万円に同じ税率を適用すると以下のような計算になる。

所得税:452万円×20%-控除42万7,500円=47万6,500円
住民税:452万円×10%=45万2,000円
所得税と住民税の合計で92万8,500円である。

iDeCoに加入しないケースとの差額は、14万4,000円(=107万2,500円-92万8,500円)の優遇を受けられるというわけだ。

運用益は非課税

iDeCoの運用益は、非課税対象だ。通常投資信託などの運用益に対しては20.315%(復興特別所得税)の税率が適用される。しかしiDeCoで資産運用した場合は、非課税となるため、長期間運用すると大きな節税効果が期待できる。

受取時も優遇措置

積み立てた年金の受取時にも税制上の優遇が受けることが可能だ。iDeCoで積み立てた年金資産の受取方法は、3通りある。

  • 一時金として全額を一括で受け取る方法
    一時金として受け取る場合は「退職所得控除」が適用可能だ。例えば30年間 iDeCoで掛け金を積み立てた場合、1,500万円まで所得控除できる。つまり一括で受け取る金額が1,500万円以内なら税金はかからない。

  • 年金として分割で受け取る方法
    分割で受け取る場合は、公的年金等控除の利用が可能だ。年齢や収入に応じて一定額を課税所得から差し引くことができる。

  • 積み立てた金額の一部を一時金として受け取り、残りを分割にする方法
    退職所得控除と公的年金等控除の両方を利用することもできる。例えば60歳時点で一時金として一部を受け取り、残りは年金として分割で受け取るといった具合だ。

iDeCoのメリットについては、以下の記事も参考になる。

関連記事:iDeCo(イデコ)を始めるなら40代、アラフォーまでを目安に!

「iDeCoで節税できるのは嘘」と言われる2つの理由

こうした優遇制度があるにもかかわらず、なぜ「iDeCoで節税できるのは嘘」と言われるのか。

掛け金の所得控除は課税の繰り延べ?

税制優遇措置の1つ目で紹介した掛け金の所得控除に関しては、「節税」ではなく単なる「課税の繰り延べ」との指摘がある。たしかにiDeCoの掛け金が全額所得控除されるのは事実だ。しかしそもそも健康保険料や厚生年金保険料といった毎月の給与から差し引かれる社会保険にiDeCoの積み立てが加わったに過ぎない。これを節税と言えるのかは、懐疑派の問題意識の1つだ。

またiDeCoで積み立てた資産には、受取時に税金がかかることがある。退職所得控除と公的年金等控除という優遇制度はあるが、いずれも受取時の非課税を約束するものではない。優遇制度を使って控除しきれなかった部分は課税対象となる。これが「ただの課税の繰り延べ」と指摘される理由だ。

退職金があると退職所得控除が使えない?

iDeCoの積み立てを一時金で受け取る場合、勤め先の退職金とiDeCoの一時金が支給されるタイミングによっては、退職所得控除が適用できない可能性がある。例えば一時金と退職金を同じ年に受け取る場合で退職金が1,500万円、退職所得控除額も1,500万円のとき一時金に退職所得控除を適用できない。この場合は、一時金の半額が課税所得となり一定の所得税と住民税が課される。

運用益などについておおむね節税メリットあり

とはいえ、所得の高い人にとっては掛け金を所得控除できること、また運用益に対する非課税、受取の方法について一時金か年金かうまく選択すれば節税効果は高いと言えるだろう。もっともiDeCoで資産運用する金融商品については、元本確保型でなければ元本割れのリスクがあり運用益の非課税効果も必ず享受できるとは限らない。

iDeCo口座と一般口座で比べてみると……

例えばiDeCoで毎月1万5,000円を積み立て、年率3%で30年間運用すると運用益は約334万1,000円に上る。仮に控除などで税金がかからないケースを考えてみると税額は0円だ。一方、iDeCoではない一般口座で同じ運用益が発生し20%の税率が適用されたと仮定すると、手取り分は約66万8,200円減ることになる。

iDeCoに加入するときは節税の試算を

iDeCoに税制上の優遇措置が設けられているのは事実である。しかし実際に節税効果を享受できるかはケースバイケースだ。特に所得が低い人は、扶養控除など他の税制上の措置によって所得税がかからない可能性がある。そのためiDeCoに加入する場合は、自分のケースに当てはめて節税効果を試算してから始めたほうがよいだろう。

また、iDeCo利用にあたってリスク資産の購入をしているということを忘れてはならない。いくらiDeCo利用によって節税ができたとしても運用がうまくいかなければ結果損をしてしまうこともあることから、検討は慎重に行ってほしい。

(提供:manabu不動産投資

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