日本国内外で高い評価を得ている現代彫刻家・名和晃平。彼の作品は唯一無二といっていいほど個性的であり、繊細な魅力が詰まっています。特に彫刻の「表皮」に注目したアーティストとして、高い評価を得ている彫刻家です。この記事では名和晃平の経歴や作品を通して、その魅力を解説していきます。
画像引用:KOHEI NAWA公式HP( http://kohei-nawa.net/ja/news/ )
名和晃平の経歴と人生
はじめに名和晃平の経歴を紹介します。彼の作品はどのような場所で培われて、どのように評価されていったのでしょうか。
京都市立芸術大学に入学
名和晃平は1975年、大阪府高槻市に生まれました。幼い頃からものづくりや描画が好きだったそうで、小中高と作品を作りながら進学します。
大学では京都市立芸術大学に進学。芸大に進んだきっかけは高校の受験勉強だったのだそう。受験勉強の最中「レールに沿って進むのではなく、いかにして自由になるか」を考えた結果、芸術の道に進むことを決意します。京都市立大学では大学院まで進学。このときにイギリスに留学した経験があります。
ニューヨークやベルリンに滞在
大学院卒業後は、大阪市主宰の「咲くやこの花賞」を受賞。咲くやこの花賞は、日本から海外に向けて活躍が期待されるアーティストに送られるものです。
この時期から名和晃平は、海外にも通用するアーティストとして期待が寄せられていました。翌年からは実際にニューヨークやベルリンでの制作を経験されています。
数々の賞を受賞
帰国後も目覚ましい活躍を見せており、2007年には京都府文化賞の奨励賞を受賞。また2008年には六本木クロッシング2007(森美術館)の特別賞を受賞しました。
「六本木クロッシング」とは3年に一度、現在のアートシーンの代表となる日本のアーティストを選定するために開かれているものです。この名誉ある賞に選ばれたことで、名和晃平の名前が広がった側面もあるでしょう。
名和晃平の作品概念
そんな名和晃平の作品は非常に特徴的です。まず軸となっている概念が「PixCell(ピクセル)」。これはオブジェクトを透明の球体で覆った作品であり、Pixel(画素)とCell(細胞・器)を融合させた造語として名付けられました。詳しくは後述します。
名和晃平の作品の特徴は「表皮」に現れています。皮膚しかり、表皮は感覚に接続するインターフェイスであり、そこに着目しました。
その結果として、オブジェクトの形はなしているものの、見た目として非常に特徴的なものが多数あります。
使われる素材もさまざまであり、どれも実験的で、見る側としては不思議な感覚に陥るものがあるのが魅力です。
名和晃平の代表作品
では、実際に名和晃平の作品を見ていきましょう。ここでは代表的なものを取り上げて解説していきます。
「PixCell」シリーズ
まずは先述した「PixCell」シリーズです。鹿や羊といった動物の表皮をさまざまなサイズのガラス玉で覆っています。
筆者は実際に見ましたが、覗いてみると非常に面白い。この作品の根底には「情報化社会の構図」があります。
我々は対象の鹿を見るとき、ガラス玉の集合体として認識します。そして鹿自身は世界をレンズの重なりを通すことでしか認識できません。つまり多方向にレンズを向けている状況であり、その情報を共有することで成立している、ということを示唆しているのです。
名和晃平はこうした「視覚を通した認識の方法」という概念を持つ作品をいくつも作ってきました。他のシリーズに関しても、視覚や触覚という深いテーマをもとに作品作りを進めています。
「Trans」シリーズ
「Trans」シリーズは人体の3Dスキャンに様々なエフェクトを施して作られる造形作品です。名和晃平はトルソーとして発表しています。
単に3Dスキャンしてマネキンのようなオブジェクトを作るのではなく、波立たせるなどのエフェクトを施すことで、ヒト型の不思議な造形を作っています。
ドローイングシリーズ「Esquisse」
今や造形作家として知られている名和晃平ですが、最初期はドローイングをしていた時期がありました。
「Esquisse」は、院生時代に制作していたものであり、実家を整理しているときに偶然見つけたのだそうです。非常に抽象的で偶発的なドローイング作品となっています。
「Black Field」
「Black Field」はパネルに油絵具を塗った状態で展示した作品です。絵の具は空気に触れた部分から酸化がはじまり、硬化していきます。
すると画面が収縮し、表皮の一部は裂けていきます。裂けた場所からは油絵具が現れ、また新たな酸化が始まる。これは展示期間中に成長していく作品であり、パフォーマンスとしての側面も内包しています。
名和晃平 個展「Oracle」 | ART & GALLERY | GYRE
「White Code」シリーズ
「White Code」シリーズは名和晃平の最新作です。絵画のような彫刻作品となっています。作り方がおもしろい。粘度を調整した白い絵具がしたたり落ちる下にキャンバスを秒速1cmで何度か通過させて、ある種の偶然性に任せて制作をしています。
その結果、絵の具は粒状になったり、線となったりします。使う素材は絵の具なのですが、乾いたソレは粘土のように見える。絵画と造形の間のような実験的な作品です。
名和晃平の個展や展覧会
名和晃平の個展や展覧会は定期的に開催されています。気になる方に向けて過去の展覧を紹介します。
2011年「名和晃平 - シンセシス」
「名和晃平 - シンセシス」は2011年6月11日~8月28日まで東京都現代美術館で開催されていた個展です。大規模な個展としては初めてのものであり「PixCell」シリーズをはじめ、名和晃平の代表的な作品が一斉に展示されました。インスタレーションチックな試みがあったことも含めて、非常に実験的な展示となりました。
2013年「あいちトリエンナーレ2013」
2013年に愛知県で開催された「あいちトリエンナーレ2013」に名和晃平は参加しています。「あいちトリエンナーレ2013」のテーマである「揺れる大地」に合わせて「フォーム」という作品を出品しました。
真っ黒な空間に白く光る泡が存在しています。学生時代していたボールペンでのドローイングが発想のもとになっているといいます。
「フォーム」自体はこの後も継続的に発表しており、サンパウロやパリの展覧会では青い光のものを作りました。日本では金沢21世紀美術館で2019年8月25日まで公開されていました。
2022年「名和晃平 生成する表皮」
「名和晃平 生成する表皮」は2022年6月18日~11月20日まで青森県の十和田市現代美術館にて開催されていた展覧会です。先述した代表作の「PixCell」をはじめ、「White Code」「Esquisse」などのシリーズが展示されました。
また版画作品である「Array – Black」シリーズや、苔や菌糸のような絨毛を付着させた「Velvet」シリーズなども見られます。
名和晃平 生成する表皮 » 十和田市現代美術館 | Towada Art Center
名和晃平の作品価値や値段
美術業界において高い評価を受けている名和晃平の作品は現在、どれくらいの価値がついているのでしょうか。ここからは購入をご検討の方に向けて、名和晃平の作品価値をご紹介します。
PixCell - Hanafuda #5
「PixCell - Hanafuda #5」は、名和晃平の代表作であるPixCellシリーズの技法で作られた花札です。札の上にビーズが散りばめられています。役ごとに作られており、#5はそのうちの1枚ということになります。名和晃平は花札という「記号的」なモチーフに着目しており、似たシリーズとしてトランプや百人一首なども制作しています。
こちらの作品はSBIアートオークションに出品され、155万2,500円で落札されました。
SBI Art Auction「名和 晃 PixCell - Hanafuda #5」
Chip
「Chip」は名和晃平初の版画作品です。露光機の上に紅イモのチップスをまいたうえで、7版刷りに重ねてプリントされた作品となっています。このある種の偶然性に任せるという手法も名和晃平の特徴の1つです。それぞれの作品で微妙に表情が違うのが面白く、人気の作品となっています。同じく髪の毛をまいた「hair」という作品もあります。
こちらもSBIアートオークションに出品され、20万7,000円で落札されました。
Flora#26
植物をモチーフとした有機的なフォルムの彫刻作品です。名和晃平は鹿や羊といった動物モチーフの作品が非常に広く知られているアーティストですが、植物をモチーフにした作品も数多く作っています。「Flora」というタイトルでよく発表されており、動物と変わらず、そこには生命力を感じさせる造形が表れています。
こちらもSBIアートオークションに出品され、100万500円で落札されました。
SBI Art Auction「名和 晃 PixCell - Hanafuda #5」
まとめ
今回は現代アーティストの名和晃平さんについて、経歴や作品の魅力を紹介しました。視覚や触覚に着目し、モチーフの"表皮"という非常に繊細なテーマで作られた作品は唯一無二のものです。観る側の感覚的な部分に働きかけてくれます。
現在では既に人気高いアーティストであり、今後さらに人気が高まっていくにつれて展覧会などが開催されていくことでしょう。気になる方は、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。