これだけリストラと倒産が続いても暴落しないアメリカ株式市場の不思議
(画像=セブツー」より引用)

アメリカで大規模なリストラが相次いでいる。1月19日に発表された最新のリストラは、ソフトウェア大手マイクロソフト社が全従業員の5%に相当する1万人のリストラを発表している。期間は2023年9月末までで、リストラ費用として12億ドル(1560億円、1ドル=130円換算)を計上する。「コロナ禍において急増したデジタル投資が一巡したことに加え、一部の地域で景気減速の基調が明らかになるなど先行きが不透明になっていることから、人件費の削減が急務と判断」とマイクロソフトはリストラの理由を説明している。全くもってゴモットモとしかいいようがない。

その前日の1月18日には、アメリカ金融大手ゴールドマン・サックスが全従業員の6%に相当する3200人(最大4000人)の人員削減を実施中と明らかにした。今後の景気後退を見越した人員規模の適正化に舵を切ったようだ。同社が最近発表した2022年12期決算は前期に比べて純利益が半減していた。

マイクロソフト、ゴールドマン・サックスと言えばアメリカ産業界・金融界の巨人中の巨人である。すでにリストラを発表しているアマゾン(リストラ規模が1万5000人から1万8000人へ拡大)、ツイッター、メタ(旧フェイスブック)を加えると、いよいよアメリカで本格的景気後退が始まった。特に個人的には、どんな手を使っても利益を出してくるゴールドマン・サックスのこのリストラは衝撃的である。

さらに、昨年後半から仮想通貨取引所に関する「悪いニュース」が続いているのも気になる。1月19日にはアメリカの仮想通貨取引所大手のコインベースが日本の既存顧客との取引を停止すると発表。景気の不透明感や仮想通貨の暴落などで事業環境が悪化しているための措置だ。ただし預けた資産は2月16日までは引き出し可能。同社は、2022年6月に全従業員の約18%(1100人)、2023年1月10日には約25%(950人)の削減を発表している。

昨年に逆上ると、12月2日メッセージアプリのLINEがアメリカで運営する仮想通貨取引所のBITFRONTは段階的にサービスを終了し2023年3月31日に閉鎖すると発表。日本で展開する「LINE BITMAX」に注力する。

昨年11月28日にはアメリカ仮想通貨レンディング業ブロックファイはニュージャージー州連邦破産裁判所へ倒産法第11条(日本の民事再生法に相当)を申請した。裁判所に提出した資料では負債総額は10億ドル(約1300億円)〜100億ドル(約1兆3900億円)。

ブロックファイ社の倒産の原因になったのは、昨年11月11日にデラウェア州連邦裁判所に連邦破産法11条を申請した仮想通貨交換業のFTXトレーディングだ。その子会社約135社も同様の申請を行っている。FTXトレーディングにはソフトバンクグループをはじめとした多くの投資会社から出資を受けていた。創業者及びその資産運用会社による不適切な資産管理が報道された結果、ユーザーの取り付け騒ぎが起きて最大で80億ドル(1兆400億円)の資金不足に陥ったのが倒産の原因。

仮想通貨関連では、倒産だけではなく当然のことながら仮想通貨相場下落によるリストラも横行している。昨年12月2日には大手仮想通貨取引所運営のクラーケンが1100人のリストラ(全従業員30%)を発表。今年に入りやはり大手仮想通貨取引所のコインベースは全従業員の25%に相当する950人のリストラを発表。これは昨年6月の1100人(全従業員の18%相当)に続くものだ。

ここに記したものは、アメリカの仮想通貨取引所の大手の倒産・リストラであり、昨年後半からの仮想通貨市場の暴落で、アメリカのみならずほとんどの仮想通貨関連企業が大きなダメージを受けていると言える。こうした「仮想通貨ショック」でもNYダウ平均を始めとして株式市場への影響はほとんどなかったのは不思議である。これが、きっかけでNYダウは暴落するとみていた市場関係者は少なくなかったはずだ。しかし、大きな波乱は見られなかった。それぐらい今の買い圧力=膨大な余剰資金の流入は物凄いことを再認識させた。

仮想通貨はほんの一例で、アメリカ経済は完全に不景気に突入している。これにインフレ退治でFRB(連邦準備理事会)は、株価がどうなろうと金利は今年年央までは予定通り利上げを断行する心づもりのようである。NYダウが3万ドルを切る暗黒のシナリオは何をきっかけに起こるのか。

実際に2022年は年初からNY平均は8.7%の下げ(1月3日始値3万6321.59ドルから12月30日終値3万3147.25ドル)だったわけで、「密かに下げ」模様にはなっているのは忘れないでほしい。ショック型ではなく、こういう「密かに下げ」型のソフトランディングになっていくのか。

たぶん2023年は2022年の8.7%以上の下げになるのではないかと予想されるのだが。どんな展開になるのか。