「私は21日に逮捕される」。前米大統領のドナルド・トランプ氏が自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、同日(米国時間)に逮捕される見込みだと書き込んだ。トランプ氏は「検察による捜査は共和党の大統領候補を排除するための魔女狩りだ」と反発し、支持者に「抗議しろ。国家を取り戻せ」と呼びかけた。2021年1月にはトランプ氏の呼びかけで連邦議会議事堂襲撃事件が起こっており、新たな暴動も懸念されている。だが、米共和党にはそれより深刻な懸念が浮上しそうだ。
共和党内の脱トランプが進む中での「逮捕」騒動
書き込みによると、トランプ氏には自身が初当選した2016年の大統領選投票日直前に不倫関係にあったポルノ女優に多額の口止め料を支払ってもみ消した選挙資金関連法違反疑惑で米ニューヨーク州検察が捜査を進めており、近く逮捕されるというのだ。トランプ氏はこの疑惑を否定している。
書き込みの信憑性は定かではないが、早くも共和党のケビン・マッカーシー下院議長がツイッターに「過激な検察官による職権乱用だ」と書き込んだ。
ただ、共和党内部の状況は複雑だ。2022年11月の米中間選挙では期待された「トランプ旋風」は吹かず、事前予想の「圧勝」から「辛勝」と大きく後退。トランプ氏が積極的に支持した保守派候補の多くが落選の憂き目を見た。
トランプ氏の影響力低下を受けて、共和党内部では「脱トランプ」の動きが顕在化している。すでにトランプ政権で国連大使を務めた共和党のニッキー・ヘイリー氏が2024年の大統領選挙に出馬宣言した。さらにマイク・ペンス前副大統領やロン・デサンティス米フロリダ州知事らの立候補が取り沙汰されている。
「敗北」を認めないトランプ氏が共和党を分裂させる
逮捕された場合でもトランプ氏は大統領選に出馬できるが、イメージダウンは大きい。逮捕によりトランプ氏への支持が揺らげば、共和党有力者の立候補が相次ぐだろう。かつての部下や支持者たちの立候補の動きにトランプ氏は神経を尖らせており、人格批判や「立候補したら、とんでもない秘密を暴露する」といった牽制を繰り返している。
共和党の予備選挙で敗北したら、トランプ氏が「選挙が盗まれた」と主張して結果を受け入れない事態も十分にあり得る。結果が覆らなければ、激高したトランプ氏が「不正で選ばれた共和党の大統領候補者ではなく、民主党の大統領候補者に投票しろ」と言い出しかねない。
これにトランプ支持層が追随すれば、共和党は「分裂選挙」となるだろう。万が一にもトランプ氏が支持者を引き連れて新党を立ち上げるような事態になれば、二大政党制が崩壊して大統領選だけでなく議会や州知事などあらゆる選挙で民主党に勝利するのが難しくなる。
共和党にとって致命的な打撃となるのはトランプ氏の逮捕ではなく、強固な岩盤支持層を持つトランプ氏の扇動による報復の「分裂選挙」なのだ。自らが勝利しない限り、それをやりかねない人物だけに、共和党にとって深刻なリスクになりつつある。
文:M&A Online編集部